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四十一話

そんなこんなで休憩しているとマルとカノが先程のヤンキー姉ちゃんを後ろに携えやって来た。


のは良いんだけどさ…


ヤンキー姉ちゃんが何か清楚な装いに変貌しているのはマルの影響だろうか?


白のワンピースに装飾品を散り填めて着飾ったヤンキー姉ちゃんは近所の優しいお姉さん風の美女と化してしまった。


プリンになった金髪も横に流してとてもお淑やかに見える。


これを狙ってやったのだとしたら、

マル、恐ろしい子…!


「御屋形様!只今戻りました!この者も理解してくれたご様子でわたくしも嬉しく存じます!」


「先程は大変失礼致しましたわ。…ワタクシの名はノブヤス、松平 信康(ノブヤス)と申します。どうぞ、お見知り置きを…」


松平信康…?!

確か…家康の廃嫡された息子…娘だわこの子!


何か色々悪さしたらしいけど、かなりの素質を持っていたんだと俺は予想する。


簡単に言えば徳川と今川の血を引いた子だろ?


そりゃ優秀な血筋だわ。

めっちゃエリートぢからを感じるし。


それと喋り方に違和感が…

さっきのヤンキー姉ちゃんだよね?


どうしてこうなった?


躾けてくると言っていたが人格崩壊レベルだよ…

何をしたらこうなるんだ…


「あぁ、気にしてないさ。ノブヤスよろしくな。それにしても見違えたよ、それはマルが用意した服なのか?」


「はい!ランマルお姉様が私ごときの為に貯蓄を切り崩し、カノお姉様が見立てたこの様な素敵な御召し物まで用意してくださって…ランマルお姉様とカノお姉様の愛の鞭によって改心し、一生ご恩に報いる所存ですわ。」


「そ、そうか…仲良くなるのは良いことだからな!ノブヤス、これから大変だろうけど一緒に頑張ろうな!」


「畏まりましたわ!」


ノブヤスはカテーシーをしてマルの後ろへ下がった。


六回目。


白青黄緑紫赤銀…金に変わった…だと…?!


え?…どどど、どうしよう?


とりあえずマルにハグした。


顔が真っ赤だ。


次は、カノ。

もっと強くとか言ってるけど、無視。


ノブヤスにもハグ。

きゃあって可愛い声が聞こえたけど、それどころじゃない!


やがて光が収まり目の前に現れたのは、赤と黒の少女の後ろ姿だった。


歳は十五歳くらいで軽甲冑の裾には上品な設えのフリルにピンヒール、マントをたなびかせその背には織田木瓜紋、頭にはティアラを載せ、脇差しとリボルバー銃を携えた姿はミスマッチかと思いきや不思議と似合って見える。


「うぬが妾を召喚したか…フン、興醒めだな。実力不足と見た。」


「んな…?!」


いきなり文句を言ってきた少女は柳眉を曲げ、此方を睨むように見ている。


実力不足だって?そんなの分かりきってるんだよ…!


マルとカノ、ノブヤスまでもが随分大人しいと思ったら膝を着き頭を下げている。


「なあ。君の名を教えてくれないか?」


「妾の名が知りたいと?ふッ…無知も行き過ぎれば余興になる、か。ならば聞け!知れ!妾は第六天魔王織田三郎信長が嫡子!…織田 信忠(ノブタダ)なり!」


「ノブタダ…なるほどな…!未熟者だがよろしく頼む。俺はシゴウだ!」


握手を求め手を差し出す。

が、ノブタダに弾かれ痛みのみが残った。


「ふんッ…まだうぬを認めた訳ではないわッ!そこに居るは森の小倅に鹿之助か?」


「ははっ、我らシゴウ様の従者でございます。ノブタダ様におかれましてはご壮健そうで何よりで御座います。」


「ランマル殿と同じく。ノブタダ様お久しぶりに御座いまする。」


「よい、楽にせよ。妾は今機嫌が良い。久方ぶりに現界したのだ。ならば楽しむのもまた一興よのう。」


「ははっ…!」


ノブタダは周囲を見渡して、一人の少女で視線を止めた。


やはりと言うべきかその視線の先には、美味しそうに料理を頬張る聖女の姿があった。


南蛮人(なんばんびと)か…ククク…奴からは妾と同じ匂いがするのう…!甘くほろ苦い至高の甘露の様な毒の匂いが…クフッ…ハーハッハ!」


ノブタダは何を思ったか突然跳躍するとジャンヌの前に立ちはだかる。


予見していたのかノブタダの蹴りを左手であしらい右膝で蹴り上げた。


がしかし、それを左手一つで受け切ると二人同時に一歩飛び下がる。



「貴女…生意気よ。」


「ほう…少しはやるようじゃの。妾の初撃を受け切ってなお反撃までするとはのう…これは少し手合わせ…という訳にはいかんかのう。本気で死合うか?」


ノブタダの身体からオーラの様なものが吹き出す。


それは濃厚で重くドロドロとした殺意だった。


階級の低い従者は軒並みその場で蹲ってしまう。


「それはダメ。私はマスターのモノでマスターは私のモノ。貴女ごときじゃ到底理解できない様な深い深い愛で繋がってる。マスターの尾こ…じゃなくて影からこっそり護衛をするために片時も離れる事は出来ない。だから、ごめんなさい。」


俺はジャンヌのモノだったのか…それは知らなかった。


違う、俺は誰のものでもない。


けど、今尾行って言い掛けてたよね?


もしかしてずっと尾行してたの?


「ほほう、すげなく断られてしもうたか…マスター…とはこの男の事か?ならば…こやつを襲えばお前も本気にならざるを得ないか…?のう、ランマルよ。お前はどう思う?」


銃口が俺に向けられる。こいつ…正気か?


「お…お言葉ながら…ノ、ノブタダ様…!わたくしめ等、従者は御屋形様に敵意を向けることは叶いません。それを踏まえてノブタダ様が御屋形様に刀を向けると言うのならば…このランマル…御屋形様の盾となり歯向かわせて頂きまする。」


マルがよろけながらも俺の前に立つ。


重圧で倒れそうになるも、マルはヨロヨロと俺からノブタダの元へ懇願するように向かった。


俺も立っているのがやっとだ…だが、倒れる訳にはいかない。神杖を支えに何とか耐える。


「そ…して…っ我等、従者には…御屋形様を敬うという気持ちが召喚された時から備わっている筈です…!お戯れはご勘弁を…願いとう御座いまする…平に…平に!」


「ほう…この信忠を前に小姓ごときがよくも大言壮語が吐けたモノよ…ククク…ここは実に面白い場所だな。のう、(わっぱ)よ。」


俺は倒れそうなマルに手を貸し、その前に出た。

俺は…〈皆を守る〉と決めたんだ…!

それを実行しよう…!


「ああ。聞け、ノブタダ。俺は少なくとも皆が笑顔で居られる平和な国を創る事を考えている。あんたの親父が目指した天下布武、それも民や家族に平穏な世を示すためだったんだろ?そこまで大それたことは言わないがそれぐらいの意気込みで挑んでる。俺達に手を貸してくれるなら大歓迎だ…だが、敵対するなら容赦せんぞ?」


「ククク…野良犬がよく吠えよる…と、思うたが中々骨のある奴ではないか。ふむ…良かろう。しばし妾の手を貸そうではないか、つまらぬと思うたら後ろから撫で斬りにしてくれようぞ。覚悟しやれ。」


さっきの重圧が解かれマルが倒れ伏そうとするのをそっと床に寝かせた。


俺は彼女の期待に応えなければならないだろう、魔王の名を継ぐはずだった目の前の少女の望む、重い思いと期待に…。



「はは…痛いのは苦手だが、そん時は俺がノブタダの主には相応しくなかったってだけの話だ。そん時ゃ好きにしてくれ。ノブタダ、力を貸してくれ!」


重すぎて、大変そうな道程だが、その時は他の従者達が軌道修正してくれるだろう。




今日から少しの期間更新を止めます。

少し遅めのゴールデンウィークということで旅行に行きますので…


次回更新は25日土曜日10時を予定してます。

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