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三十三話


「こいつ、強いな。」


二メートルを越える巨躯、身の丈を越える大槍。大人しそうな中性的な青年だが、纏う魔力がこれまでの奴らと桁違いだ。


隣の女性は百八十センチ近く有るだろうか。


褐色肌に顔には大きな傷、整っている顔をしているが、勿体無いな。


その右手には大斧を持っており露出の激しい革鎧を着ている。


「ここから先は通さんッ!」


「ハハハッ、まぁまぁ良い男じゃねえか!だが、ちっと筋肉が足りねえな!あんたが王様かい?」


「二手に別れよう。マル、カノは女の方を頼む。俺は男の相手だ。」


「拙者は主様をお守りーー」


「カノ、御屋形様の言う通りに。御屋形様、お気を付けてください!」


「あぁ!絶対に帰ってこいよ!信頼してるぞ!」


カノが俺を守ろうとしてくれるがマルがそれを止めた。俺だって戦えるのだと示す必要がある。


「なんだいなんだい、オレの相手はそこの小娘共かい?肩慣らしにもならんだろうが…まぁ良い。アンタ、抜かるんじゃないよ?」


「誰に言っている?貴様こそ油断するなよ。来い、小僧!」


「おうッ!」


一手目の突き出しを避け、左に回り鬼丸を振るう。


槍で受けられるも後ろに下がり上段から振り下ろしたが穂先で払い除けられる。


火弾を撃ち込むも手を払うだけで消えてしまった。


痛ッ!風刃か?


俺の頬を裂き後ろに抜けていった突風は城壁を軽く削った。


「強ぇな…あんた。名前は?」


「ヴラド・ツェペシュ。ワラキア公国の君主だ。」


「やっぱり串刺し公か…分が悪い、けど負けられねえ!」


「ほう…力の差を知りながらもまだ挑むとはな…中々根性がある様だが、気に入ったぞ!」


「こなくそォッ!!」


突きを避け鬼丸を振るう。


我武者羅に何度も何度も。


力量で負けているなら手数で勝負だ!


俺のステータスは速度に特化している。


他は平均的…魔法と鬼丸だけが頼りだが、切り札はある。


「行くぜッ!《バーストミサイル》ゥー!!」


風と土複合属性の上級魔法。

周囲の土や石を巻き上げ相手にぶつける技だ。


目潰しと同時に300キロメートルの速度で相手に貫通するエグい技だ。


これだけじゃない。


俺は魔法を研究して色々な複合魔法を編み出した。


これが効かないなら打つ手なしだ。



「フッ…この程度、効かぬわ!」


「なッ…!」


大槍を大回転させ、バーストミサイルを叩き落とすとヴラドは手を翳した。


その手からは火土風水のあらゆる魔法が弾となって俺を襲う。


「ぐあッ…!」


火が肉を焼き、風が肌を切り裂き、土が肩を抉り、水が鼻と口を塞ぐ。


ぐぅッ…このままじゃまけちまう…


負ける…死ぬのか、俺は?



死にたくない、死ねない!


マルたちを残して逝ける訳ねえ!


【王のスキルが覚醒しました。《不屈の意思》《(キングス)采配(オーダー)》を取得しました】


無我夢中で俺は助けを叫ぶ。


誰か…助けてくれ!


その時俺の鼻と口を覆う水が地面に落ちる。

まるで自ら意思を持ったかのように。


「がはッ…ゴホッゴホッ…はぁはぁ…これは…?あれはジャンヌ…か?」



ヴラドと対峙するは白い鎧に身を包んだ、聖女ジャンヌ。


「大丈夫、マスター?弱いんだから無理しちゃだめでしょ?」


「グッ…そ、その通りだが…助かったよ。」


「ちゃんとお礼言えて偉いね、アレを倒せば良いの?マスターは休んでて。」


「突然現れて我に膝を着かせるとはな…小娘、やるな?」


一瞬の出来事だが、あのヴラドが膝を着き息を荒げている。


離れた所にはハルやジョン、ソウウンまでもが姿を表した。


散って戦っていた者達の姿が見える。



「皆…何でここに?」


「大将が呼んだんでしょうが…!その思いに答えてこうして集まったんだぜ?ほれ、フロイド付きの二人も来てらァ!」


ジョンに助け起こされ目の前の光景に呆然としている俺にジョンはそう語った。


俺が呼んだ…だと?


あの謎の声のせいか?


「フロイド‥?」


ジョンの指差す方向にはチャールズとスティードの姿が…


あの二人の後ろにいるのはフロイドか?


馬番をしている筈なのに何故…


フロイドを守ろうとチャールズとスティードが盾になるように守っている。


「サナーまで来てるのか…」


争いの苦手なサナーの姿も見える。


ニトクリスが守る様に立ちはだかり周囲にはニトクリスの召喚した死霊…ミイラが囲っていた。


「よし、こうなったら一気に城も制圧するぞ!」


「「「はい!」」」


「「「おう!」」」


「マスター。こいつはどうするの?」


ジャンヌがヴラドを縛り連れてくる。


俺は少し考え、フロイドに任せることにした。


馬番の仕事もしっかりこなしているだろうしそろそろ別の仕事を任せても良い頃合いだろう。


「見張りを置いて先に行こう。フロイド!チャールズ達とコイツを見張っててくれるか?」


「承知した!ここは俺に任せてくれ頭!」


頭って…盗賊じゃないんだから…とは突っ込む余裕も気力もない。


サナーにも残るか確認したがどうやら着いて来る様で俺は城に目を向ける。


マルの方は大丈夫だろうか?

小さくない焦燥感と不安を胸に、俺は歩き始めた。


キェェエー!フロイドがシャベッター!!

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