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二十九話


「ジャンヌ、すまなかった。俺の浅慮でこんな形になってしまい申し訳ない。だが彼女も仲間なんだ。そこは考慮して欲しい。ーージャンヌ一つ聞かせて欲しい。」


「うん、気にしてないよ。何が聞きたいの?」


「あの程度の一撃、ジャンヌには簡単に対処出来た筈だ。しかし君はそんな素振りも見せなかった。…ーーカノが入る事を予測していたんだろ?それも含め君はわざと(・・・)動かなかった…そうだろ?」



ジャンヌは下を向き、何かをブツブツと呟き始める。


耳が馴れた頃、聞こえたのは聖句だった。


やがて顔を上げたジャンヌは口元を孤月に歪め笑い出した。


「アハハハハッ!素晴らしい!素晴らしいよ、シゴウ!流石は私のマスターだ!その洞察力、推理力、問題解決までの鮮やかな手腕!実に気に入った!やはり君の元に来たのは主の導き…天命だったんだねッ!!」


自らの鎧に爪を立て高らかに叫ぶジャンヌ。


その爪は割れ、白く長い指先からは鮮血が滴っていた。


「ジャンヌ、大丈夫か?」


「何が?至って私は冷静で絶好調だよ。この程度神の試練に比べれば造作もない。答え合わせしようか、シゴウ。私のギフトは未来予知、数秒先の展開をこの右目で見ることが出来るんだ。」


ジャンヌの血濡れた指差す右目は碧眼から、

ーー赤く

ーー紅く

ーー緋く、変わっていた。


「やはり、な。」


ジャンヌのあの動じなさ、落ち着きぶり。

そしてアンがカトラスを抜く瞬間をジャンヌの視線は追っていた。


そして彼女の右手には穂先の付いた旗、長槍が握られている。


あれで払い除けることも簡単だったろう。


しかし敢えてジャンヌは抵抗もしなかった。


あたかもカノが横入りする事を前提としていたかの様に。


「シゴウ、お見通しって感じだね。流石だよ、私のマスター君。」


ジャンヌは右目を抑えると、その孤月の微笑を深めた。


その笑みはまるで笑み本来の威嚇を体現しているかの様だ。


暗い暗い海の底を彷彿とするような姿。


だが、おかしい。


未来が予知出来たなら俺が仲裁しようとしていた事も分かっていた筈だ。


そしてアンの実力が予め分かっていたかのような動き。


ジャンヌは何かを隠している?


「ジャンヌ。もう一つ聞くことが今出来た。どうして君はギフトを隠している?嘘は良くないと思うが…」




「アハハハハッ!それも分かっちゃうんだ!凄い凄い!私のギフトは〈未来予知〉というのは当たり。だけどもう一つあるんだ。〈神眼〉って言うんだけど、ね。」


瞬間ジャンヌの左瞳が銀色に輝いた。


「これ、とっても便利でね。対象の弱点から出生、どんなものが好きで嫌いか、これまでの経歴まで何でも分かるんだよ。何でも見通せる。筈なんだ…筈なんだけど、シゴウのは何も見えないんだ。不思議だねぇ、怖いねぇ…私のマスターはどんな人生を送って来たんだろうねぇ。ねぇ、マル?君も気にならないかい?」


「御屋形様…じゃんぬ殿は…彼女は化生(けしょう)の類いでしょうか…?」


あのマルが…怯えている。


メアリーはガタガタと震え、ソウウンは俺の服の端をぎゅっと掴んで俯き、ナナオはソウウンを守るように俺の横に立っている。


この目の前にいる聖女は…彼女は…ジャンヌは一体、(・・)なんだ?


「ジャンヌ。君は一体何者だ?聖女なのか、それとも全く違うモノなのか…俺には分からない。けど、君も俺の家族…守るべき存在に含まれているんだ。だから家族を怯えさせる様な事は止めてくれないか?」


「分かったよ、シゴウ。君に免じてからかうのは止めよう。マル、皆も怖がらせてごめんね?」


ジャンヌの瞳と笑みが元に戻る、場を支配していた緊迫感が解けた。


「い…いえ…じゃんぬ殿…貴方は一体…いえ、何でもありませぬ。」


マルが何かを飲み込んだ。


多分…こう言いたかったのだろう。


敵か味方か…どっちなんだ、と。


マルの気持ちも分かる。


だが、ジャンヌの核心に触れたら何が起こるかは分からない。


この場の全員が無傷では済まないだろう。

そんな雰囲気が漂っていた。


ジャンヌは先程の雰囲気をなかったかのように、城の方へと歩いていった。


クソッ…

地雷だろコレ…


クソ運営め、あんた達を褒めたが撤回する…


これ以上あんな規格外のバケモンをばらまかないでくれ…!




これにて一章終了です。


次回更新は21日となります。

幕間を二話挟んで本編に入ります。

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