二十八話
商談を終えエマの元を後にした俺とソウウンは執務室で買った人工知能生命体 D-0770を待っていた。
ソウウンはご機嫌なのか俺の腕に引っ付いている。今日のソウウンはボディタッチが多いな。まぁ、役得とでも思っておこう。
「ふふふ、良かったわね主殿?拙僧を連れて行って!」
「あぁ、感謝してるよ。有り難う!」
「どう致しまして。さっ、行きましょうか?」
ご機嫌気分なソウウンはいつものどや顔ではなく年相応の笑顔を浮かべている。
不意打ちにキュンッと来てしまった。
違う違う!そうじゃ…そうじゃない!
俺はロリコンじゃねえ!
成人が好きなのだ。
しかし…この笑顔はズルい…ズルい女…!
鈴木◯之とシ◯乱Q!
頭ん中に浮かんでくんな!
「えと、何処に?」
「特訓よ?たまには身体を動かさないと。その前にからくり人形を待たなくちゃね。」
「失礼します。」
そんな声が障子の裏から聞こえる。控え目に開かれた隙間から緑髪のメイド服を着た美しい女性が此方を覗いていた。
「入りなさい」
「はい。この度はわたくしD-シリーズ、0770をお買い上げ有り難うございます。宜しければ粘膜接触にて遺伝子情報の読み取り、個体識別名を登録させてください。」
俺の方を見て言うのでソウウンに手を指す。理解出来たのかソウウンも聞き返した。
「粘膜接触?それはどうすれば良いのかしら?」
「はい。習うより慣れろという慣習に従いまして…」
ずきゅーーーん!!!
とでも効果音が付きそうな盛大なキスをし始めるD-0770。
ソウウンは狼狽えていた。
「な…ななな…何するのよ?」
「と、この様に唾液により粘膜接触を図り登録させていただきました。」
「くくく…口吸いじゃないの!いきなりするなんて…!常識と言うものがないの?」
「申し訳ございません。わたくしのデータベースにはその様な一般常識と言うものが備えられておりますが、ソウウン様は時間を無駄にしたくないご様子…勝手に察して行動した事、お詫び致します。」
「ソウウン。そのくらいにしてやれ。」
「で…でも…まだ主殿に手を出されてないのに初めてが女同士なんて…!」
「いや、眼福だった…じゃなくて、彼女は君の思考や性格を読んで動いてる。とても頼りになりそうじゃないか!」
「う…まぁ…そうね。ここは主殿に免じて許…主殿、拙僧と口吸いして!」
「え?ど…どうしてそうなる?」
「記憶の上書きよ。そう、主殿とすればこれまで以上に頑張るわ。」
ソウウンの突飛な考えに翻弄されながらも、俺は考えた。
それがソウウンのやる気に繋がるのならば、しても良いんじゃないか?
と俺の中の悪魔がささやく。
いやいや、この見た目は流石に現代じゃアウトでしょ!青い服の人に連行されちゃうよ!と俺の中の天使。
バカヤロー!此処に警察なんていねぇ!俺が、俺こそが法律だ!と悪魔。
なんだとー?やんのかコラ?と取っ組み合いになる。
「ーー…殿?主殿?どうしたの?」
「あぁ、すまん。ボーッとしてた。でも、俺がソウウンとキ…口吸いしたらマル達にもしなくちゃいけないんじゃないか?というかあの子達絶対しろとか脅してきそう…!やだ怖い…」
「あら?分かってるじゃない。でも今は拙僧だけの時間よ…隙有りッ!ーーンッ!」
反応できずに突然ソウウンの顔が目の前に。
柔らかな唇の感触、吐息を肌で感じる。
舌で俺の唇を抉じ開けようとしていてーー
ーー流石にこれ以上は不味い…
と、ソウウンの肩を押し無理矢理引き剥がした。
舌の侵入は何とか防いだ。
「ソウウン、やりすぎだ。」
叱ってデコピン。
「あうッ…酷いじゃない、主殿!」
「そういうのは大人になってからだ。あと、そちらさんはどうやら俺達を笑って待ってるみたいだぞ?」
「なッ?!今見たものを全て忘れなさい!」
「いやはや、とても仲が宜しいことで。そうですね、シゴウ様もわたくしとキス…しますか?結構柔らかくて、人肌に近い質感なんですよ?」
蠱惑的に微笑み艶やかな唇を指で撫ぜるD-0770。その動きはリアルな人間の動作にしか見えない。
「か、からかうな。俺は良いからソウウンのサポートに徹してくれ。D-0770…じゃ長いな。もじってナナオでどうだ?」
思い付きで名付けてしまったが、案外悪くないのでは?あ、これはソウウンの仕事だ。
とにかく訂正しないと…
「ナナオ…ナナオ…畏まりました。個体識別名として登録致します。」
遅かったか…
「あー…ソウウン、すまん。勝手に決めてしまって…」
「あら、良い名前じゃない、ナナオ。そうね、後で仕事を仕込むから取り敢えず外へ行きましょうか。貴方も戦闘が出来るんでしょ?」
「ええ。近接戦闘、遠距離戦闘、超長距離戦闘も可能です。腕にはマイクロ振動ブレードを二振り、足には仕込み槍を内蔵しており遠距離にはスタンビットガン、腰部にはデザートイーグル相当のマグナム銃、課金装備としてアウトパックミサイルや核反応弾を用意しております。」
「課金装備…それは今後考えておくとして取り敢えず近接戦闘を見せてくれ。」
立ち上がり執務室を出て外へ向かう。
そういやそろそろ定時進行がやってくる筈だ。
その時ナナオの実力を見ようか。
城門の外へやって来た。何やら少し遠くで揉めている様で人だかりが出来ている。
近寄っていくと言い争っている者達の姿が見えた。
中心には金髪の鎧を纏った女性と茶色い髪の女性…その脇にポニーテールの少女と翡翠色の少女が仲介に入っていた。
前者がジャンヌとアン・ボニー、後者がマルとメアリーだ。
「あ!主殿!じあんぬ殿とアン殿が揉め出して…」
「やぁ、シゴウ。変なところを見られちゃったね。僕は争いは苦手なんだけど…」
「いや、気にしないでくれ。どうしたんだ、この騒ぎは?」
「王様ー!ごめんなさい!アン、敬虔な信者だったからつい…昔の事を思い出して熱くなっちゃったみたいなの。」
「ここでは喧嘩はご法度だ。破った場合は独房に監禁するぞ?取り敢えず話しは聞こう。」
「アタイは…!この女が許せない!フランスの聖女だァ?冗談じゃねえ、フランス人は皆殺しだ!」
「どうして許せないんだ?話してくれないと付いていけないんだが。」
アンに視線を向ける。その瞳は復讐の炎に染められていた。
「家族を殺された…夫も、子供も、親も…友人だって拉致されて、拷問されて、強姦されて…最後には朽ち果てた姿で死んだよ…!!だから…絶対に許せねえ!」
アンが拳銃とカトラスを抜く。
とっさの行動でマル達は反応できていない。
俺が間に入ろうとするも間に合わず、凶刃はジャンヌの元に振り下ろされ…なかった。
ジャンヌの目の前には巨大な盾、カノの物だ。それが間に割入り凶刃から防いでいた。
シールドバッシュを受け、気絶するアン。
「喧嘩はいけませぬぞ!殴るなら拙者を…ハァハァ…じゃなくて、主様の前でのこの騒ぎはとても感化出来ぬ故、横入りした次第。」
「でかした、カノ!後でご褒美だ。取り敢えずメアリーを捕縛、牢屋に入れとけ!」
「御意!」
カノはせっせと何処から出したのか分からない太っとい縄を取り出して綺麗に捕縛し牢屋に向かっていった。
因みに亀甲縛りだった。




