二十一話
シゴウが酒を飲んでるとは知らず、懸命に戦っている者が居た。
小田氏治とメアリー・リードである。
ウジハル…ハルは始めてみる石の三角錐の建造物を見て震えていた。
それはハルの常識を覆すほどの完成された美と言うものを目の当たりにしたからだ。
「あぁ…美しい…!これ、本当に攻めなきゃダメなの?」
「ダメだよ、ハルちゃん。あれは敵の本拠地。ボクらは攻撃部隊なんだからやらなくちゃ!王様にボクの事も評価して貰わないといけないし。」
感動に震えるハルの肩を叩き、説得をする一人の少女。
名をメアリー・リード…メアリーは焦っていた。
元主はポンコツ過ぎて何も出来ずに捕縛され、馬番をやらされその範囲から出ることは許されず、事実上の隔離をされている。
隈本城では結果を示さなければ冷遇される。
メアリーはそう勘違いしていた。
「王様?あぁ、シゴウのことか。」
「名前で呼ぶ程仲が良いんだね。ねぇねぇ、ハルちゃん。もしボクが頑張ったら王様にボクの事アピールしてほしいんだけど…良いかな?」
「ん?まぁ、そのくらいなら…はぁ、気が乗らないけど、行こうか…[原初乃焔]。」
「速っ…!というか何あれ…?包帯でぐるぐる?異国の流行りかな?」
白い炎がメアリーと召喚獣達を包み込む。
内から暖まるようなぽかぽかした気持ちで満たされた。
身体が軽く感じ普段の倍以上の能力を示すことが出来るだろう。
「ありがとォー!よっし、行っくよぉー!【海賊剣舞】!!」
召喚獣を差し置き瞬時に飛び出したメアリーは両手に持つカトラスを逆手に構え、風のように敵の群れに突っ込む。
流麗な水と逆巻く風を身体に纏い一人切り込んだ。
船での彼女の役割は戦闘員、それも切り込み隊長だった。
敵陣に先駆け味方が辿り着く前に一人でも多くを屠ることを是とした。
故に召喚獣を置き去りにし、舞うように包帯をぐるぐる巻きにした生ける屍を葬っていく。
この不思議な世界で彼女は新たな力を得た。
ギフトは[疾風迅雷]、スキルは[水魔法]、[風魔法]が共に三位階である。
彼女はフロイドの元で名を更に上げる…はずだった。
しかしフロイドの失策によりまた一から力を示さなければならない。
親友であるアンと共に新たなる王を支えなければならない。
過去の船長であるジョンの事は王の後回し、あまり相手にしないことを二人で決める。
昨晩も酔って寝所に忍び込んだジョンを撃退したが、男は過去の栄光にしがみつき女は今を生きる。
その考えの差だ。
メアリーはこの戦場に全身全霊を賭けていた。
「ハルちゃん、最高ッ!ボク、風になってる…!」
ハルへの賛辞を叫び益々奥へ突き進んでいくメアリー。
その後を追従し戦火を上げる召喚獣達。
しかし順調と思っていたメアリーの快進撃は不意に止まった。
「立ち去れ、下民よ…!我が民を傷付けるなど、万死に値する。」
長い白髪に金の装飾をした女性がメアリーの前に立ちはだかる。
彼女の回りには怨霊のような物が呻き声をあげながら宙を舞っていた。
突然、怨霊が奇声を上げ此方に飛び込んでくる。
ギリギリで避けるも、また別の怨霊が迫り来る。
メアリーは怨霊を操っているであろう白い髪の女を攻撃する事を決め駆け出した。
カトラスを振り上げ斬り込もうとするも突然何もない空間から杖が飛び出し防がれる。
「お前は一体…?」
メアリーが誰何しようと口を開いた時後ろからドタドタした足音が聞こえる。
その少女は赤髪でゆったりした服装をし、息を上げながら此方へ走ってきた。
「はぁ…はぁ…一人で突っ込みすぎだ、バカ!うわ、なにコイツ強そう…[虚偽乃焔]!」
「ぐぅ…我が力を弱めるか…!厄介な下民め…!」
「なにボサッとしてるんだ?ちゃちゃっと片付けろよ!」
「うん!」
昇王戦にて一度気絶した従者は次回まで参加資格を失う。
しかし仲間にすればそのルールは適用されないのだ。
勿論殺す事も可能だが、その場合は二度と甦らない。
メアリーはカトラスを上段から叩き下ろした。
敵の怨霊がガードするもその防御は先程よりも脆い。
「追加行っとけ![光炎之祝福]!光属性を付与した!行ってこいメアリー!」
「うおぉおぉぉ![海賊剣舞]ッッ!!」
「莫…迦な…」
相手の従者が倒れ伏し勝利を収める。
メアリーはハルに飛び付き頬にキスをする。
「んなっ?!何するんだよぉ…?」
「ハルちゃんのお陰で勝てたよぉ!ありがとぉ!ボクこの後も頑張るから!」
「ちょッ…おわあ!」
「ヘッヘッヘェ…ハルちゃんって肌綺麗だよねー…羨ましい。」
感極まったのか、早口で捲し立てるとハルを強く抱き締めるメアリー。
その行動にたじたじなハルは必死に抵抗するも腕力では勝てず諦めた。
「ふぅ…ちょっと休憩…あ、召喚獣達も追い付いて来たよ!」
「はぁ…はぁ…勘弁してくれ…あたしはあまり…体力が無いんだ…あぁ引き籠りたい…」
ハルはブラックベアの進化種タイラントグリズリーの背に乗ると蹲る。
メアリーもその後ろに飛び移ると敵の本拠地を見つめる。
「一番厄介そうなのは倒せた…!応援呼ぶ?それともこのまま突っ込む?」
「うん、ボクは行くよ!もちろん、ハルちゃんと一緒に。ね?」
いつの間にかあれ程居た敵の姿は消えていた。
気絶した敵の従者が操っていたとしか思えない。
その事をハルはメアリーに伝えると、メアリーは感心した。
「さぁ、行こ?」
「仕方ないな…もうちょっとだけ付き合ってやる…シゴウもあたしの事見ててくれるかな…?」
「ん?王様が何だって?」
「何でもにゃい!ハッ…行くぞ!」
「あ、噛んだ」
「噛んでない」
少女達は他愛のない会話を続けながらも敵本拠地に足を踏み入れる。
その姿を遠くの城から見つめていた主が居ることも知らずに。。。




