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エピローグ その一


「よう、泣き虫ヒーローの兄ちゃん。体はもういいのかい?」


「……まあ、外に出るくらいなら。さすがにまだクエストには連れて行けないって言われましたけど」


「そうかそうか、冒険者は体が資本だからな。しっかりと休みな。ハイこれはサービスだ。とっとけ」


「……どうも」


 買い物に来て、「泣き虫ヒーロー」と呼ばれて何とも言えない表情をしても、店主の親父さんは気にせず「ガハハ」と笑ってオマケを追加したので、表情を変えないままそれを受け取り、店から離れた。


「また、来いよー泣き虫ヒーロー」

 

 するとそんな俺に向かって大声で叫ぶもんだから、泣き虫ヒーローという言葉を聞いた街の人間が俺を見る。


「あれが、噂の英雄。この街をドラゴンから守った泣き虫ヒーローか」


「若いわねー」


「馬鹿、そう見えて無茶苦茶強いらしい。戦いでは情けない姿をさらすのはよくないが、それでもどんな相手にだって逃げ出さずに立ち向かうって噂なんだぜ」


「何かそう考えると親しみがもてるかも。冒険者って基本我が強いし、一部を除くと偉そうだし。それに比べたらいいんじゃない?」


 俺を見ながら街道に行き交う人々がそんな事を口にしている。


 それを聞きながら、何とも言えないまま、俺は廃教会へ戻るために歩く。


「はぁ」


 どうして、エリーが言った「泣き虫ヒーロー」があの場にいない街の人間に知れ渡ったのか。


 それは、あの事件から三日。


 俺がベッドで目を覚ました時にまで遡る。







『すみませんでしたっ』


 目が覚めて、自分が使っているベッドの上で寝かされていることがわかり、横を目に向ければ、エリーを除く面々が揃っており、 気がつけば、そう口にしていた。


『……うん、自分がどれだけ無茶をしたのか、自覚はあると』


『は、はぃ』


 ニコニコと笑うグランさん。


 それに素直に頷き、横になったままでは失礼だと体を動かそうとしたのだが。


『あ、あれ?』


『ああ、動かなくていい。傷は魔法で癒えた事は聞いている。でも君は傷が治るまでにオーラを使いすぎた。聞いたところによると傷だけでなく物や自然すらも治したという規格外の魔法らしいけど、でも傷つきすぎた君は、というよりオーラを使いすぎた事によって、それだけでは完全に回復できていないんだ。まあ当然だよね、だって君、話を聞く限りだとそのドラゴンが癒しの魔法使わなければ確実に死んでいたわけだし』


『……』


 だから、横になったままでいいよ、とニコニコした状態でいうが、俺は何と口にしていいかわからない。


 だって、グランさん含めみんながみんな。


【怒り】【悲しみ】【心配】【安堵】


 様々な感情を浮かべて俺を見ているから。


『言いたい事は色々あるんだけど。まずは今回の件の詳しい話をしたいと思う』


『詳しい、こと?』


『そう、今回色々な事があったけど、そもそもの始まりはエリーが森で、エメラルドドラゴンの子供を見つけた事が始まりだった』


 そうだ、あの時は深く考える事はなかったが、確かに何故そこにいたのか。


 エメラルドドラゴンの生息領域は人里から離れた秘境の奥地だとルナさんも言っていた。


 それなのに、何故?


『これは、僕達が調べてわかったことなんだけど、その子供は『ハンター』によって、元々いた場所から連れ去られたんだ』


『ハンター?』


『魔物から採れる素材のために、魔物退治を専門に行う人間の事を指す。そしてドラゴンの身体は、どれも効果の高い素材になり得るからね、どれか一つでも採る事ができれば、一生遊んで暮らせる、それぐらいのお金を稼ぐ事ができるから、ハンターの中にはドラゴンを獲物として選ぶ者もいる。禁止されていると知って尚』


『禁止されている?』


『君も直接戦ったのならわかるだろうけど、下手に手を出したら、直接手を出した人間だけでなく、周囲の人間にも危害が及ぶ。手を出しさえしなければ被害がないとわかっているのに、あえて手を出すなんて事をさせていたら、いずれ街どころか国が滅ぶ。だからハンターの禁則事項に含まれているんだよ「ドラゴンには手をだすなって」てね。だからハンターを生業とする者はその禁則事項が守る事を徹底されているんだけど、それでも中にはいるんだよねー。わかっているのに手を出す馬鹿が』


 金のために、あのドラゴンに手を出す?

 

 それは確かに馬鹿げたことだろう。

 

 直接戦ったからこそわかる。

 

 ドラゴンは、金が欲しいという理由で手を出していい類のものではない。

 

 今回、色々な事が重なって何とかなったものの、そうでなければ、俺はドラゴンに殺されるどころか、街の人間全て刈りつくされていただろう。


「ドラゴンが何故あそこにいたのか、それを調べていくうちに別の街でドラゴンの素材が手に入るとそんな情報を耳にして、そこから辿っていけば「捕獲したドラゴンの子供が逃げ出した」と言っている連中を見つけてね、ちょーとつついたら全部話してくれたよ」


 捕獲して街へ持って帰る途中に取り逃がして、辺りを捜索しても見つからなかったと。


「だから、恐らく逃げる途中であの森へ入り、そして魔物の類にやられたんだろう。成体と比べて、幼生体のドラゴンの戦闘能力は高くない。だから、魔物に襲われ傷つき弱っている所をエリーが見つけたということだろうね」


 それを聞いて、ようやく今回の事の顛末を理解する事ができた。


 あのエメラルドドラゴンは、自分の子供を連れさられ、人間に怒り狂いながらも必死になって自分の子供を捜して。


 そして、見つけた先にいたエリーを、「わが子を盗んだ愚かな人間だ」と思ったのだろう。


 だから、エリーを守る人間を排除しようとして蹂躙し、俺の言葉を聞かなかった。


『盗人の分際で』


 そんな気持ちだったのだと思う。


 そしてそれは当然だと思う。自分の子供が誘拐されて、それに関係すると思う人物を見つければ、そりゃあキレる。


 結果として勘違いであったとしても、それを思えば、あのエメラルドドラゴンの気持ちもわからなくはない。


 だからといって、エリーが殺されていい理由になんかなりはしないが。


『今回の経緯はこんな所だけど、何か聞きたいことはあるかい?』


『いや、流れは理解できたから、んっ? ちょっと待ってくれ』


 話しに対して疑問に思う事はなかったが、可笑しな事に気づく。


『何だい?』


『……俺、どのくらい寝てた?』


『三日』


 俺の質問にグランさんはさらりと答え、その内容に驚くが、それでは先に進まないと質問を重ねていく。


『グランさん達がクエストを終えて帰ってきたのはいつ?』


『んー、向かっている道中で通信用の魔法で連絡が来たから、一時中断って形になってるよ。だから僕らがこの街に帰ったのは、君が戦いを終えて少し経ったくらいだと思うんだけど』


『……ちなみに、その情報を得たのって?』


『昨日だよ』


 そう言われて、頭の中で整理していく。


 当日俺がぶっ倒れて、その後すぐにグランさんがきた。


 そこで、色々な人間から事情を聞き、そして何故エメラルドドラゴンの子供がいたのか、それを調べて、事態の全容を把握したのが昨日と言っていたから。


 俺が三日間寝込んだ事を考えると。


 この人たちが調べた期間というのは、ぶっ倒れた日から数えて。


 二日?


 えっ、ちょっと待て。さっきの教えてもらった事ってそんなに短い時間でわかるものなのか?


 ここは日本ではなく、科学が発達した世界ではない。


 魔法と呼ばれるモノが存在し、時に現代の科学以上の効果だってあるが、普及するには色々と問題もあって。


 そのため、ネットや防犯カメラもなしに、この人たちはどうやってそんな短期間で答えに行き着いたのか。


『どうしてそんなに早く?』


『うーん、僕らは冒険者としてそこそこ顔がきくということ、それと僕はこの町の領主の息子でもあるわけだから、そこの伝手を使ったのと、あとは……聞かない方がいいと思うよ?』


 マコトみたいな人間が知らなくていいこと、たくさんあるしねー。


 そう朗らかに返されては、これ以上追求することはしないほうがよさそうだと思った。


『うん、とりあえず納得してくれたようだから、僕ら……とうより、僕が言いたい事を言わせて貰う』


『……』


 そう言われて、ベッドの中ではあるが、姿勢を正して、俺は耳を傾ける。


 今回の事で、彼らに対し黙っていた事、その結果エリーを危険に晒した事など、俺が受けなければならない叱責は数多くある。


 だから、どんな罵詈雑言でも受け入れないといけないと思ったのだが。


 グランさんの言葉は俺の予想を裏切るモノだった。


『まず、今回の件、落ち度は僕らにある』


『えっ?』


 朗らかな笑みを消し、真剣な表情で、グランさんは悪いのは自分達だと言った。


『一体何を?』


『君の言い分もあると思うが、まずは僕の話を聞いてくれ』


 俺が疑問の声をあげると、グランさんはそう言った。


 そう言われてしまえば、それ以上声をあげることはできず、黙って続きを聞くことに。


『今回、エリーが見つけたドラゴンの幼生体について、僕らに話さなかったからこそ、僕らは当事者になる事ができなかった。それはエリーが「僕らに話しても駄目だ」そう思ったからだ。けどもしエリーが僕らに話していてくれれば、その幼生体を見てそれが「ドラゴン」だと気付く事が出来、そうすれば何故そこに居たのかを調べて、そしてドラゴンの元に返す事ができただろう。無論、怒りに狂ったドラゴンを宥めるのは至難の業だけど、今回のように唐突に街に訪れる事は回避できたはずだ』


 話を聞いて、確かに俺なんかよりも魔物の種類に詳しく、また調べる伝手なんかもあるグランさん達が関わっていれば、今回のような事にはならなかったかもしれないが……。


『だからね、エリーが僕らを信じる事ができなかった、逆を返せば話してもいい、そう思ってもらえれば、防げた事だったんだよ』


『いや、だからといって』


『考えすぎ、そう思うかい? だけどね僕らは家族同然だと思っていた人間に信じてもらえなかった、それをどうしようもないことだ、なんて思いたくないんだ』


 俺がそれは違うと声をかけようとして、グランさんは苦笑して首を振った。 


『僕らはエリーに対して危険な物を避けるように注意してきたし、だからこそ言った事や、言わなかった事がある。それが今回に関してはよくなかった、という事だろうね』


 例えば、ドラゴンの幼成体のこと、とかね。とグランさんは苦笑した。


『あまり教えすぎると好奇心が強いエリーが何をするかわからない、かといって何も教えないままだと、知らず知らずの内に危険に突っ込んでしまうかもしれない。だから彼女に何を伝え、何を伝えないか。それはいつも悩まされているよ』


『それは、わかる気がする』


 エリーは良くも悪くも好奇心が強く、そして行動力がある。


『だから、今回それが間違った方向にいってしまったことは悔いるべきであり、そして次に活かすために反省することでもある。僕にとっても彼女は大切な妹分だからね』


 だから、僕らはその事をきちんと受け止めなければならない。


 そこまで言われて、俺は何と言葉を返したらいいのか、わからなかった。


『まず、何を置いてもその事を伝えなければならない、そう思ったんだ。自分の身を省みずにエリーを守り通した君に、謝罪と感謝を伝えるためにね』


 そう言って、グランさんは頭を下げた。


『僕らのせいで、危険な目にあわせてすまなかった。そしてエリーを守り通してくれて、本当にありがとう』


 頭を下げるグランさんに慌てて俺は言った。


『俺は、別にそんな大した事は……』


『命を削ってまてやり通した事を、大した事がないなんてこと普通は言わないし、そしてマコトが謙遜していない事は何となくわかるんだけど。でも、もうちょっと誇っていいと思うよ? 君は戦う事において恐怖に苛まれている自分が情けないと思っていても、それでも君が遣り通した事は、誰にでも誇れる立派な事だ。……かといって自分の命を蔑ろにしていいわけではないけどね』


『ええと……はい』


『うん、そこはわかってるみたいだから、それ以上は言わない。それに感謝しているからこそ、言わなければいけない事もあるしね』


 そう言って、グランさんは俺を見る。


『マコト、君は優しい。エリーの行動や思いが間違っていないとそれを証明するために命をかけた。でもね、間違っていないからといって、それで物事が全部上手くいくわけじゃないんだよ』


『えっ』


『正しい事を貫いて、誰かが危険な目に遭う事がある。間違ってる事が、世の中を動かしている事がある。それを君は知るべきだ』


『グランさん何を言って?』


『今回の事、エリーが間違っていないからといって、街のみんなはどう思うかな?「魔物の子供を連れてこなければ、危険な目にあうことはなかった」と思う人間がいないなんて、どうして言える?』


『あっ』


 そこまで言われて、俺はその可能性に始めて気付いた。


『一人なら、まだいい。それが数を増し、エリーを糾弾すれば、エリーはこの街にいることができなくなる。そう考えたことは、なかったかい?』


『あ、あ、あ』


『途中から、君は魔物の子供をエリーが保護した事を、冒険者達の前で言っていたみたいだけど。冒険者達全員が君の言葉に納得したと思うかい? そしてそれを街のみんなに言わない保障はどれだけあると思う?』


 淡々と言葉を重ねるグランさんの言葉に、俺は何も返せない。


 俺は、ただ、エリーの命と、思いや行動が間違ってないと証明するために頑張ったのに、それが逆にエリーの首を絞めるような真似をした、ということだろうか。


 そんなこと、望んでないし、考えた事もない。


 けれど、結果的にそうなったのであれば。


 俺は、俺は何て事を。


『え、エリーの所に、行かないとっ』


 布団を跳ね除けて、エリーの元へ向かおうとするが。


『大丈夫、今回はなんとかなったから』


 やんわりと俺の行動を止めるグランさん。


『何とか、なった?』


『すまない、心を乱すような事を言って。でもこれは必要な事だと思うんだ』


 ベッドに腰かけてグランさんは言った。


『君は優しく、そして勇敢だ。けどね、その思いや行動が、時に自分や周りの危険があること

を、知ってほしかった』


 そうでないと、これから先。君は正しいことを貫くために傷つくだろうと。


『今後も、君が何かしらの選択を迫られた時、その時ただ、「正しい」か「間違い」かそれだけで判断するのではなく、自分の言葉や行動が回りにどんな影響を与えるのか、それをよく考えて欲しい。今回は上手くいった。でも次がそうなるなんて保障はどこにもない』


 それは、きっと正しいと思った。


『僕はね、君の事を気に入っている。他のみんなもそうだろう。そんな君が、傷ついたり、まして死んでしまうようなことは、あってほしくない』


 だから、今回の事を踏まえて、よく考えて欲しいと。


『優しい君だからこそ、あえてキツイとわかっていても、告げなければならないと思ったのさ。今後のためにも、ね』


 僕が言いたい事は終わったと立ち上がる。


『次はキースの番だね』


 グランさんが下がり、次はキースさんが前に出た。


 正直何を言われるのか検討もつかない。

 

 さっきのグランさんの言葉だけでも、予想外の連続で整理が追いついていないのだ。

だから、キースさんは俺に何を語るのだろうと思って、その言葉を待った。


 すると。


『俺はやっぱりお前は冒険者に向いていないと思う』


 キースさんはそんな事を言った。


『お前は優しくて、良いやつだ。けど、魔物相手にまでそれを向けるとなれば、今後絶対に危険な目にあうと思う』


『……』


『エリーは、わかるんだ。あいつはまだ幼くて分かってない事も多い。だから魔物相手にだって感情移入しちまう。けど、な。それだけなんだよ。エリーがそうだからといって俺達は魔物に対して仲良くなれるとか、思っちゃいない』


 普段の軽薄な態度ではなく、真剣な目で俺を見る。


『それは、俺達人間にとっての共通認識だ。魔物は俺達にとって害悪な存在で、話しができる魔物がいたとしても、それはただ【話しが出来る】それだけのことで、今回のドラゴンの件も俺にはただ、ドラゴンが人を襲った、そう思ってる。けど、お前は違う、そうだろう?』


 その言葉に、俺は頷いた。


 確かに、人を襲った。けれどそれには理由があった。


 理由があるから何をしてもいい、ということにはならないが。


 けれど、やはり理由があるのならばと、そう考えてしまうのだ。


『そんな奴は冒険者なんて荒事に手をださないほうがいい、俺はそう思っている』


『……』


『けどな』


『えっ?』


『俺がそう思うから、やめる。それはなしだ』


 そこで、いつもの顔になる。


 ニヤニヤと軽薄な、でもどこか親しみの持てるそんな顔で。


『お前がどうするか、それはお前が決める事だ。何故ならお前の人生はお前のもんで、他の誰のものでもない。俺が思った事をそのままに受け止めて選択しても、それでお前が納得しないなら、それはきっと、お前を苦しめる事になる』


 ベッドまで近づいて、ガシガシと乱暴に俺の頭をなでる。


 そして。


『だから、お前が自分で決めろ。自分自身のためにもな』


 俺の言葉は一つの意見として聞いてくれたらいいと、そう言って手を離した。


『俺からは以上……いや、あと一個あったな』


 ベッドから離れて、言い終えたと思ったら、一言キースさんは付け加えた。


『今回は、よくやった』


 そう言ってビシっと親指を立てた後、「じゃあ次はミレーナの番」と言って、離れ今度はミレ

ーナさんが俺の前に立ち、しゃがみこんで俺と目を合わせた。


『マコトー』


 その顔は悲しげで、怒りの類は全くない。


『私はね悲しかったー』


『……うん』


『話をしてくれなかった、のもそうだけどねー、何より悲しかったのは、マコトが死にかけた事

が何より悲しかったー』


 目尻に涙を零しながらミレーナさんは言った。


『マコト自分がどんな状態になったか、本当にわかってるー? 怪我をして、オーラを使い果たして、本当に危なかったんだよー。怪我が治っても、失ったオーラは直ぐに回復しなかったのー、だから眠っていたあなたを見て、私凄い不安になったのー。このまま、もう目を覚まさないんじゃないかってー。それぐらい、静かに眠ってたのー」


『そう、なんだ』


 自分が、どんな風に眠っていたなんてわからないけど。


 でも、今思うように動けない事を考えれば、俺がどれだけ危なかったのかは、なんとなくわかった。


『折角仲良くなれて、毎日が楽しくなって、これからも一緒にいたいと思っているのにー。それなのに、マコトがいなくなったら、私、イヤー』


 ぼろぼろと涙を零し、そう告げるミレーナさん。


 そんな彼女に向かって言える事などたったひとつだけ。


『ごめん』


 それで心配をかけた事が、なくなるわけではないけど。


 でも、言わなければならないと思った。


『謝って欲しいわけじゃなくてー。もう、一人で無茶は絶対にしないでー。私ちゃんとマコトの話を聞くからー。魔物のことは嫌いだけど、でも、私ちゃんと聞くからー。だから今度こういう事があったとき、ちゃんと私を頼って欲しいー。そうしたら、私がマコトを守るからねー。だからこれから絶対に、無茶した駄目だよー? お姉さんと約束してー』


『……わかった』


 正直、年上だとはいえ、女の人に守ってもらうとか、情けないなと思うが。


 でも、心配をかけた相手にそんな事を言えるわけもなく。


 俺が頷く事で、安心できるのならと。


 そう思って返事をした。


『約束、だからねー』


 すると、涙を浮かべているものの。その表情は穏やかになって。ふわりとした何時もの笑顔を浮かべる。


『私の言いたい事は、それだけー。あっ、エリーの件で頑張った事は偉いと思っているから、今度何かご褒美あげるからー』


 そう言って、よしよしと俺の頬をなでた後で、ミレーナさんは俺の傍から離れる。


 ……前から思っていた事ではあるけど、ミレーナさん俺のこと幼い子供か何かと思ってたりしてないかな?


 俺はこのメンバーで一番の年下だから、みんな俺の事を弟分のように扱っているのは理解できるんだけど、ミレーナさんの対応はみんなより入れ込んでいるようなきがするのは、俺の気のせいだろうか?


『……ミレーナが入れ込んでいるのは知ってたけど、マコトあんた相当気に入られているみたいね。正直あんなミレーナは見たことないわ』


 ミレーナさんが下がると、今度はアンメアさんが前にでた。


『それはともかく、私正直あんたに言いたい事なんて何もないのよ。だって言わなければいけない事、考えなきゃいけない事、守らなければならない事、全部他の皆が言ったわけだからね、だから、言わなければならない事なんて大層なもんは何もないわ。それでも言う事がすればエリーを守ってくれて、あの子の気持ちを「正しい」と認めてくれて、本当にありがとう。その言葉は魔物に対してあの子のように思えない私が、決して言ってあげる事ができないだろうから』


 姉としてお礼を言わせてもらうわと軽く頭を下げる。


 俺がエリーとの秘密を黙って、無茶をして心配をかけて、それでもそんな俺に頭を下げるアンメアさん。


 彼女だけじゃない。


 グランさん、キースさん、ミレーナさん。


 みんな、俺のために色々考えて言ってくれているのが。


 言葉と態度。


 そして目に映る【感謝】【忠告】【信頼】の色でよくわかる。


 それを見せられたら。


『俺は、今回、色々、心配や、迷惑をたくさんかけたけど、でもそれでも、そうやって言ってくれるのなら、今回のみんなの言葉をちゃんと聞いて、悩んで答えをだす。そして色々問題もあったけど、でもエリーを守れた事はよかった、って思う』


 彼女達の感謝の言葉にも。しっかり答えなければと思い。


 俺はアンメアさんに向かって「だから、その言葉も受け止めようと思う」そう言って笑った。


『どういたしまして、ぐらい言ってもいいのよ?』


 それは恐れ多いと言えば「あんたらしいわねー」とアンメアさんも笑う。


 そして。


『私は以上……なんだけど』


『うん?』


『あんた、今回の事で自分が悪いと思う部分があるのよね?』


『ええと、うん』


『私達にエリーとの約束を黙っていた事、使うなといわれたオーラを使った事、あんたが怪我をしてみんなに心配をかけた事、そうよね?』


『……仰る通りでございます』


『うん、だとしたらやっぱり『あれ』がいいわね。ねえグラン?』


 唐突に、ニヤニヤ笑いだして。グランさんに向かってそういえば。


『そうだねぇ、『あれ』ぐらいだったら、丁度いいと思うよ』


 グランさんもいつもよりほんの少しだけ意地の悪い顔をして頷いた。


『ああ『あれ』かー。いいんじゃね? マコトが悪いと思っているなら、それぐらい受けても。こっちはおもしれーし』


 キースさんはいつも通りの軽薄な笑みで相槌を打って。


『えー『あれ』はちょっと可愛そうだよー。だってマコト頑張ったのにー』


 唯一みんなの意見に反対するミレーナさん。


 だが。


『はいはい、ミレーナーはちょっと黙ろうか。マコトが悪いと思っているなら、やっぱり何かしらの罰は必要なのよ。それを考えたら『あれ』が丁度いいでしょ?』


『むぅ』


 アンメアさんの言葉に、それ以上何も言う事ができないようで、不満そうに口を尖らせる。


 そんな光景を、ベッドに横になって見せられる俺。


 えっと、『あれ』って何?


 罰っていうぐらいだから、今回の件に関するものはなんとなく分かるけど。


 何でみんなそんなに楽しそうなんだ?


 酷い類とは思えないが、別の意味で不安になる。


『マコト』


『は、はい?』


『そういうわけだから、君に罰を一つ受けてもらおうと思っているだけど――』


 いいかな? なんて言われたら。


 今件の件に非を感じている俺から断る事なんてできるわけもなく、その内容に不安は残るものの、頷く事しかできなかった。


 そしてその後で聞かされた『あれ』の内容に、俺は激しく後悔することになる。

 

 何故なら、その『あれ』こそが――



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