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2話 エリーと魔物の子 その一

 

 ある日のこと。

 

 今日もクエストに参加することなく、ギルドで講習を受けた後、暇を持て余していた俺は、教会の掃除でもしようかと考え街中を歩いていた。

 

 そんな時に見かけたのだがエリー。

 

 街中で歩く姿を見かけて声をかけようとしたが、エリーの様子を見て、気づかれないように後をつけることにした。


 エリーがそわそわしているのと、【とある理由】で隠し事をしているのを知って後をつけてみる事に。


 子供だとはいえ、隠し事をするという事は何も可笑しな事ではない。


 だが何か危険な目にあっているかどうか、それだけは確認したい。

 

 最初出会った時も一人で街を抜け出して森で遊んでいるという前科があったので、心配しすぎという事はないだろう。

 

 あの森も、そして深く入る事さえしなければ、魔物に出くわすことなどあまりないが。

 

 エリーと出会ったのは、森の奥。

 

 魔物が生息する領域だったからだ。


『夢中になって気付かなかったの』


 と言っていてので、そこはみんなで注意したのだが。


 また似たような事が起こらないと言えないし、それに行動力があるがゆえにトラブルに巻き込まれる可能性だった十分にある。


 そう思って、後を付けていくと。


 やはりどこかそわそわした様子で、歩き続けていく。


 俺が知る彼女の遊び場や、俺たちが棲家にしている廃協会に向かおうとせず、人通りを避けるかのように、大通りを外れて街の外側へ。


 これは、やはり何かあると、距離を置いて後をついていき、気付けば、街外れにある一軒の廃屋へと辿りついた。


「あいつこんな所で何を――」


 周りを気にしながら、エリーは扉を開けて中へ入っていく。


 それを見て、窓がある場所へと移動し、エリーに見つからないように注意しながら覗きこんでみれば。


「はい今日のご飯だよー」


「キュー」


 袋から食べ物を出して、【何か】にそれを食べさせている姿が。


 何だ、動物の面倒を見ているだけか、と一瞬安堵する。


 大方、捨てられた動物でも拾い面倒を見ているのだろうと。


 そう思い、エリーがご飯を与えている動物をよく確認すれば。


 小柄で、緑の体躯。


 背中には小さな翼を生やし。


 頭に小さな角が二本生えて。


 尾にはその体躯に見合わぬ尻尾が生えている。


 俺が見聞きした、人に買われている類の動物に当てはまらない。


 さらに。


「わわ、嬉しいからってこんな所で、そんなモノを出したら駄目っ」


 エリーから与えられたご飯に満足したのか、『キュイ~♪』と泣き声を挙げながら尻尾を


 ブンブンと振って、尻尾の先に淡い緑色の光玉を出現させた。


 あれは、魔法か?


 この世界において魔法とは、人だけでなく様々な種族も、場合によっては「魔物」ですら扱う事ができると聞いた事があるが、あれもそうなのだろうか。


「別にこの光は当たっても痛くないけど、こんなもの出したら目立っちゃうから、ねっ?」


「キュー……」


「怒ってないよっ。ただ、君が見つかると多分みんなびっくりして、ここから追い出されちゃうから、だから怪我がよくなるまで大人しくしてるんだよ?」


「キュ、キュ、キュー♪」


「だから騒いだら駄目っ、めっ」


 会話だけ聞けば、微笑ましさを感じるものだが。エリーが相手にしているのは、恐らくは魔物の子供だと思われるモノ。


 隠していた理由はこれかと納得するが、今はそんな事を考えている場合ではない。


「エリー」


「っ、お兄ちゃんっ」


 窓越しから声をかければ、びくりと肩を震わせて驚いた顔でこちらを見る。


「お前、何か隠しているとは思ってたけど、これが理由か」


「ま、待ってお兄ちゃん」


 窓から中に入り込んで、魔物の子供前に移動しようとすると、それに割って入るエリー。


「森で遊んでた時この子、怪我してたのっ。 一人ボッチで泣いて震えて、それでっ」


「……」


「それで、それで、私に対して、助けてって、言っているように見えたから、だから」


「魔物は、特定の種類を除いて、害をなすと判断されている。その魔物はギルドに載っていた保護の対象にされていたどの魔物に該当していない、ならアンメアさんの妹であるお前なら、どうするべきか知っているだろ?」


「でもっ」


「見た目が、害がないからといって、それが結果的にそうだなんてこと、誰にもわからない。だから」


「やだっ」

 

 その魔物を、俺に渡せ。

 

 そう告げる前に、エリーは俺の前に立ち塞がった。

 

 両腕を広げ、目に涙を浮かべて、俺を見る。


「エリー」


「絶対、駄目っ」


「エリー」


「嫌ったら、嫌っ」


 何度声をかけても、エリーはどかない。


 先日の事もあるが、自分の意志を簡単に曲げるような子供じゃないのは、これまでの付き合いでわかっている。


 かといって無理にどかすことも、俺にできそうにない。


 どうするべきか。


 そう思い考えた所で、ある方法を思いつく。


 元々持っている【能力】。


 エリがー隠し事をしていると見抜いたように。


【能力】を使えば、この魔物の事がわかるかもしれない。


「エリー、ギルドに渡したりしないから、そこをどいてくれないか?」


「むぅ」


「確認したい事があるんだ。その間は無理に連れて行くことは絶対にしないって約束する」


「……本当?」


「ああ、本当。俺、今までエリーに嘘なんてついたことないだろ?」


 そう言って笑いかければ、エリーは目を伏せて悩み始める。


 俺は悩むエリーを急かすことなく、返事を待ち続けた。


 こういう時は相手が答えるまで、待ち続けたほうがいいと思ったから。


 すると悩み続けたエリーが、「絶対、だよお兄ちゃん」と言って、自分の体をどけて、魔物の子供が見えるように。


 俺はエリーの脇を通り過ぎて、魔物の子供を刺激しないように、ゆっくりと近づいて腰を下ろした。


「……キュー」


 魔物は弱々しい鳴き声をあげながら俺を見つめるので、「別に今お前をどうこうしようと思っていないよ。今危害を加えればエリーが怒るから」理解出来ているが不明だが、そう話しかけた。


「お前がエリーに危害を加えようとしていないか、それを知るために、ちょっと確認させてもらうぞ」


 そう言って、一度目を伏せた後で。


 俺は意識してその魔物の子供を【見る】。







 いつの頃からか。


 気がつけば、俺は自分の目に不思議なモノが映るようになった。


 人や動物の周りに、色がつき始めたのだ。


 体全体を覆うそれに、最初は驚きを覚え、両親や友人に伝えれば「何も見えない」と言われ、病気を心配され医者に見てもらっても「異常なし」


 仕舞いには心の病気を心配されるが、色が見える事以外に俺が変わった事がなかったので、しきりに心配する両親に悪いと思い「見えなくなった」と告げて、その話を終わらせたのだが。


 唐突に現れたそれが、急に見えなくなるなんてことはなくて。


 現在ある程度、意識する、しないで見え方の調整はできるようになったものの。


 今でも、俺の目にはその色が見え続けている。

 






「キュー」

 

 その色を意識して見てみると。


【不安】【怯え】【心配】【安心】


 そういうものが入り混じった色が魔物の周りを覆っていた。


 これは、様々な色を見続けていく内に、その人や動物が思っているだろう事に関連しているのでは? と推論を立てて、そこから様々な検証を行った結果。


 色そのものや、覆われている大きさ、覆っている輪郭の形などで、相手が思っている事が理解できるようになってきたから。


 無論、感情が読み取れるからといって、それだけで相手の思っている事が全て読めるわけでもない。


 例えば喜んでいても、何に対して喜んでいるのか。


 どんな風に喜んでいるのか。


 自覚しているのか、していなのか。


 感情一つにしたって、人にとって様々な場合があり、又同じ人でも状況によってその感情の表れ方が変わってくる。


 なので、相手の感情がわかるといってもあくまで大まかにしかわからない。


 それでも、相手の事を理解する指標にはなるし、この目に頼れば、人付き合いをするにおいて、大きな手助けとなった。


 案外見た目が強持てでも、内心は優しかったりすることもある。


 だからこの目を使えば、この魔物の内心が読み取れると思ったのだが。


 どうやら、この魔物外見通りに悪意や敵意は全くなく、寧ろ俺に対して、何かされるのでは? という思いと、エリーに対して安心感を覚えているようだった。


「キュ?」


「お兄ちゃん?」


「あ、ああ。悪いぼーとしていた」


 考えに没頭しすぎて、反応が遅れた。


 エリーを見ると、目の力を意識している直後だったため、普段よりもその感情がはっきり見える。


【心配】


 今のエリーにある思いは魔物の子供がどうなるか、ただそれだけを思っているようだった。


 エリーの態度とその色を見て。自分がどうするべきかを考える。


 この魔物に悪意や敵意はない。


 だが、魔物だ。


 魔物のほとんどは、特定の種類を除き人に害するものと考えられていて。


 この魔物が見た目や内心でどう思っていたとしても、見た事がない以上、ギルドに渡す、もしくはグランさん達に知らせる。


 それが本来やるべきことなんだろう。


 けれど。


「怪我してたっ、って言ってたよな」


「うん。見つけた時は、何かに襲われて、逃げ出してきたんじゃないかって感じで。動く事もできなくて、弱々しく鳴いている感じだった。多分他の魔物か何かに襲われてたんだと思う」


「見つけたのはあの森の中。という事はゴブリンか何かの類にでもやられたか」


 森の奥地に隅、集団で生活しているあの魔物ならば、この弱そうな生き物を食料として確保する、なんて事もありえるのかもしれない。


「怪我が殆ど見当たらないのは、お前が魔法で?」


「うん、私簡単な魔法しか使えないから、時間を使って少しずつ傷を治してた。だから見た目はあんまり目立たないようになったけど、でもまだ完全に治しきれてない」


 エリーはアンメアさん同様【癒し】の魔法の適正があるようで、たまにアンメアさんやミレーナさんに魔法の事に教わっている姿を見る事がある。


 魔法は、本来使えるようになるまで、相当な時間がかかるらしいので、簡単とは言っても、それを使えるエリーは才能がある、ということだろう。


 本来なら、喜んでやるべきだが、現状ではそうも言ってられない。


「その魔物、どうする気なんだ?」


「……本当だったら、傷を治した後も一緒にいてあげたい。でも、お兄ちゃんが言うようにそうしたら色んな人に迷惑をかけちゃうから、治ったら森へ帰そうと思う。それで、もしできたら、この子のお母さんか、お父さんを見つけてあげたいって思ってる」


「お前、森へ行くのならまだしも、魔物が生息する場所まで行く気なのか? 一人で?」


「だって、治してはい、さよならなんて、そんな事私したくないもん」


「この前みたいに、魔物に囲まれるかもしれないのに?」


「……」


 俺の言葉に黙り込むが、納得してないのはよくわかる。


 表情と色が言っている。


『この子を、親の元へ帰すんだ』って。


「……エリー。二つだ」


「えっ」


「一つ、この魔物がここにいるのはケガを治す間まで。もう一つはこの魔物を帰す時は、俺も一緒に行く。その二つが条件」


「おにい、ちゃん?」


「それが呑めないなら、悪いけど俺はグランさん達にこの事を話して、そしてその魔物を連れて行く。例えお前が俺を嫌いになったとしても、だ。けど、もしお前がさっき言った事を守るって言うなら。仕方ない、俺も共犯になってやるよ」


 最初、俺の言葉を理解できなかったのが、目を真ん丸とさせて俺をみるエリーだったが、少しずつ状況が呑みこめたようで、次第に満面の笑みが浮かべた。


「本当? お兄ちゃん、嘘、ついてない?」


「さっきも言ったけど、俺お前に嘘ついたことないだろ?」


「ありがとうお兄ちゃんっ」


 エリーを見て、やれやれと苦笑する。


 俺も甘いなぁと思うが。


 世話になっている人の妹であるという事と。


 俺自身今まで年下と女の子と関わる機会がなかったせいか。


 何だかんだと言いつつ甘えてくるこの子の願いに、できるだけ答えてやりたいと思ってしまった。


 だから、グランさん達に黙っている、その事を申し訳なく思いつつも受け入れる事にしたのだ。


「お兄ちゃん」


「んっ」


「大好きっ」


「はいはい」

 






 そう、俺は簡単に考えてしまった。

 

 まだこの世界に来て、日が浅く、この出来事を簡単に考えてしまったのだ。

 

 自分の「能力」を使って魔物の子供から敵意を感じることなく。

 

 帰す場所も、比較的安全で、出没する魔物も弱いモノが多い。

 

 そのためこの世界の当初と比べても、そこそこの実力をつけたと。

 

 何かあっても、逃げるくらいなら出来るだろうと。

 

 そう楽観視してしまった。

 

 だから、エリーの言葉とはいえ、約束通りグランさん達に告げることなく。

 

 傷が癒えるまでの間、二人で魔物の子供を看ることに。

 

 それが、間違っていたと気づくのは。


 もう少し後の話。


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