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鍛冶師奮刀記〜鍛冶師の俺は妹を守る為、底辺で落ちぶれた名家の名誉を取り戻しながら、天下とって成り上がる〜  作者: 月見里さん
第一章「四季家初陣」

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第99話「世間話の悪知恵」


 中尼君の想いを否定することだってできた。

 批判することだってできた。

 そんなことしなくてもいい、と諭すことだってできた。

 だが、少し重苦しい空気の中、俺達は皆同じように目を合わせ、ほぼ同時に頭を下げた。


「え、え、なんですか……?」


「いや、ありがとうという気持ちで」


 顔を上げると中尼君はとても戸惑っていた。とても。

 まぁ、こんな一致団結して頭を下げたら怖いわな。

 しかし、感謝していることは伝えなければいけない。


「そんな……結局、色んな人に言ってもあんま意味なかったというか……」


 含みを持たせ、申し訳なさそうにつぶやくのを見逃さないのが夢だろう。

 いや、全員見逃すことはない。ただ、初動が早いのは大概夢なのだ。


「意味がなかったとは、どういう意味でしょうか?」


「あの、悪い意味じゃないですよ?」


 中尼君は前置きにしてはかなり大事なことを言う。

 悪い意味じゃないのなら、とってもいい。

 いい意味だともっといい。

 そんな期待が込められた俺の目に気づいたのか、中尼君は思い出しながら言葉を出していく。


「皆、最初は四季家は舐めプしているんじゃないか、とか。名家だから、一般人とは腕試し程度にしかしていないとか、あることないことを勝手に言ってたんです」


 うん、聞いた事はある。

 小耳に挟んだことがあって、その耳が怒りに膨れ上がったのも覚えている。


「でも、昨日の昼頃に透さんが倒れたじゃないですか。その時に試合を見た人が『あれは舐めプとかじゃない』て言い始めて」


「まぁ……手加減無しだったのは言うまでもないけど」


「それでも、兄様が倒れたのを見ていない人はどうしたんでしょうか。今日も食堂で食べていましたけど、好奇な視線はありましたけど、昨日みたいな陰湿な印象は受けませんでしたし」


 夢は小さな顎に指を添えてつぶやく。

 うん、確かにそうだ。朝、食堂にやってきた俺達に訪れていたのはいつも通りの日常である。

 四季家の人間がいるというだけの視線で、そこに含まれた好奇の瞳には、スポーツマンシップもない人間を軽蔑するようなものはなかった。

 あったとすれば、俺が倒れたことを知っている人達の心配くらい。

 だから、大して気を紛らわすこともなかったし、気が散ることだってなかった。平穏、それに近いものだった。


「見ていない人ももちろんいたんですけど。そもそも、そういう人達て違うことに集中しているじゃないですか」


「あー、部活とか。この時期だと色々裏方の仕事している人もいるもんね」


 中尼君の説明に叶は頷く。その度に肩が揺れる。ついでに、頭を撫でられる。


「兄さんのとこも、何人か鍛冶場に駆り出されてる人がいるんじゃない?」


「いるな。というか、侍月大会参加者以外は鍛冶場に直行だな」


「うへ、大変だね」


 鍛冶科の生徒は基本的に侍月大会のサポートに回る。といっても、更にはその中で選手専属のサポーターまでいるのだから、ある意味この時期の鍛冶師は繁忙期にあたる。

 それが在学一年生だろうと、二年生だろうと、あまつさえ受験のある三年生だろうと稼ぎ出されるのだから、凄まじい状況であるのは違いない。


「透さんも、他の生徒から声を掛けられたりしなかったんですか? 名家の鍛冶師てなったら、引く手数多でしょうけど」


 桜坂さんが純粋な疑問で首を傾げる。

 そこには、三年生特有の落ち着きが見られ、あれがいわゆる大人の雰囲気だろうか。夢に近しいものがある。


「桜坂さん。俺より先輩なんですから、敬語じゃなくていいですよ。俺の方が歳下なんですし」


「歳下だって言っても一年でしょう? まぁ、名家の人に敬語を使われて、私はタメ口なの結構良さそうだから敬語は使わないでおこうかな」


 語尾に音符がついていそうなほど上機嫌に話す桜坂さん。いや、桜坂先輩か。

 ……ここで先輩呼びしたら余計に浮つきそうだな。それだけは辞めておこう。この場にいない他の生徒か先生の前でだけ使おう。


「それで、桜坂さんの質問に答えると。一年生の時は、色んな人から声を掛けられましたね」


 遠い記憶を引き出しの奥から引っ張り出す。埃を被ったそれは、少しカビの生えていそうな思い出だ。


「おぉ、さすが四季家……」


「でも、最初の数日だけでしたよ。一年生の頃は、他人のために刀を作ろうだなんて思いませんでしたから」


「え、全部断ったの?」


「はい」


 サラッとした答えに桜坂さんは目を見張る。

 あれ、そんなキョロキョロの目だったかな。意外と大きいんだな。


「鍛冶科て、一年に一振は刀を仕上げなきゃいけないとかあった気がするけど……」


 桜坂さんはそう言いながら、手にした缶ジュースの側面を指で叩く。リズムよく、意味もなく。この人にとっての思い出す仕草は、手頃な何かを指で叩くことなのか。覚えていいのか分からないけど。こういった癖を見るのも、少し面白いかもしれない。


「どうやって免除したの? あれって、必修科目みたいなものだから代わりの方法とかなかったはずだけど。侍月大会とかもそうだけど、何かカラクリでもあったり?」


「免除はしてませんよ」


 免除はしていない。してもらってもいない。

 ただ、誰かのために刀を打ちたくないだけで断った。侍月大会も妹達がいない状態で出るのも嫌だったし、かといって、裏に篭って刀のメンテナンスや成分分析を登録された刀剣全てにしていくのもくたびれて嫌だった。

 だから、違う方法でいくしかなかったわけだ。


「知ってますか? 鍛冶科て作刀申請を出したら授業やら出席しなくても良くなるんですよ。その代わりに、補習授業が入ったりするんですけど、それを使っただけです」


「……使ったて、侍月大会当日に?」


「はい。刀の構想だけ申請して、結局納得いかなかったんでまたの機会に作り直します、て言って作刀なんかせずにやり過ごしましたよ」


 こう思うと、抜け道にはなる。ただ、問題があるとすれば刀の構想を提出している以上、実際に作刀したものを見せなければいけなくなる。ただ、刀作りは神鋼の登場でかなりの時間短縮が図れても、時間の掛かるもので。

 それをどうにかやりくりして、今に至るわけだ。

 という、さも自慢げに話していたのを聞いていて桜坂さんや中尼君、雨曝君までも冷ややかな目で見てくる。


「皆さん、真面目なんだね」


「……いや、名家なんだからそういう悪どい考えは辞めた方がいいよ」


 桜坂さんからの冷静な言葉に頭が上がらなかった。

 決して叶が俺の頭を撫でているからじゃない。

 うん、優しく撫でないで。

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