表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/134

第93話「叶の行方」


 各々が頼んだ朝食を平らげ、後は食休みをする予定だったが、夢からジーと視線が送られてくる。

 なんだろう。綺麗な目で見てきて。


「どうした、夢」


「いえ、兄様。叶ちゃんは知りませんか?」


 そういえば、あの元気っ子の姿が見えない。いつもだったら、一緒に鍛錬を積んでそのまま朝食の席に座っていそうだったのに。寝坊だろうか。


「寝坊……か?」


「それはないと思うよ、とぉ兄」


 隣でスマホを見ていた望は視線を外さずに答える。現代人っぽい。


「今日の朝、叶姉さんから連絡きてから」


「連絡?」


 聞き返すと証拠とばかりにメッセージ画面を突きつけてくる。えっと。


 かな『おはよ! 望ちゃん起きた!』06:37


「確かに起きてるな」


 起きた、って送るのもどうなんだろう。文章的におかしいのは寝起きだからだろうか。いや、だいたいこんな感じだったな。

 叶は勢いのまま文字を打つ。返信速度はバカみたいに早いが、既読がつかない時はとことんつかない。なにより誤字率が尋常じゃない。


「でしょ。起きてるから、どこかにいるとは思うけど」


「望ちゃん。叶ちゃんが二度寝している可能性はありませんか?」


 ありそうだな。夢に言われて、二度寝したことに気づき、大慌てで準備する姿を想像する。

 活発な人間はとにかくイメージしやすい。


「二度寝するかな叶姉さん。叶姉さん、一度起きたらそのまま動き始めるから、寝そうにないけど……。ほら、家にいた時とか」


「……そういえば、そうですね」


 夢は顎に指を添えて、思い出を探る。考え込む姿も様になるな。感心していると、その夢と目が合う。


「兄様は何か知りませんか?」


「知っていたらこの場で言っているな」


「ですよね……んー、困りました」


 綺麗に整えられた眉毛が八の字に曲がる。何か叶との用事でもあるのだろうか。


「困るって、何か叶に用でもあったのか?」


「いえ? ただ、心配なだけです。私の姉ですから」


 そういうものか。夢の姉妹愛とやらは、相思相愛なようで恐らく叶と立場が逆転していても、同じことになっていただろう。

 叶だったら、起こしに行っているだろうが。


「夢姉さん、あたしから連絡しようか。一応、起きてるかどうかは分かるかもだし」


 確かに。スマホ片手にゆるやかな閃きを見せた望の言う通りだ。見ていない可能性があるのは、あくまでスマホを触っていない時だけ。

 寝起きや他の暇な時間にSNSを確認するタイミングでは、叶の既読がつく。

 既読がつかないということは、寝ているか。起きているがスマホを確認できないということになる。


「……そうですね。お願いします」


 夢も考えて同じ結論に至ったらしい。

 そんな中、慎ましやかでもさりげなく主張するために伸ばされた望の指先は、凄まじい速さで動く。

 え、そんなに早くフリックできるのか。


「ん? とぉ兄どうしたの? 爪気になる?」


「いや、望は現代人なんだなって思って」


「……とぉ兄も現代人でしょ」


 ささやかなツッコミに紛れて、俺を訝しむ望。そうだけど、そうじゃないんだ。俺はそんなに早く打てない。刀は打てるが、どうにも文字を打つのは下手くそなんだ。


「望ちゃん、兄様はフリック入力の早さを褒めているのですよ」


 すると意図を汲んだ夢からのフォローがはいる。

 それを受けてか、望は不思議なものを見るように俺へくりくりの瞳で見てくる。


「とぉ兄てそんなに入力遅かったけ? あたしと会話してる時、早くなかった?」


「会話……してたか? ほとんど通話だったじゃないか」


 しかもビデオ通話。

 ここ最近はそうでもないが、俺が一年生――というか、この月見島へ引越してからほぼ毎日、あれやこれやと理由をつけられて望と通話していた。

 それを望は忘れていたらしく、一瞬、考え込み、ハッと目を開く。


「そういえば、そうだった。思い出したよ。とぉ兄、この島に引っ越すてなって、スマホを買って貰ってからすぐあたしと連絡先交換したのに、返信くるの次の日になってるんだもん。通話の方が手っ取り早いから、そうしたんだよ」


「え、そうだっけか」


 次の日になってたことあったのか。いや、なるか……。思い返せば、作刀を始めると日を跨ぐのは当たり前だし、それが数日にもなる。その間、休んでいる時間は食事か、気分転換の鍛錬か、(さかき)先生からの愚痴をラジオで聞き流すくらいだった。


「そうだよ。それなのに、眠いだの、夜更かしは美人にとって毒だぞ、とか言ってすぐに切るし」


「望は美人だから事実じゃないか」


 何の気なしに言った。思ったことが口から出ると、望は分かりやすく顔を真っ赤にする。

 そして、こちらへ向けていた不満気な顔を隠すように背ける。


「ふ、ふーん……そっか、とぉ兄には、綺麗なんだ……あたし」


 ……何やら独り言を呟いているようだが。あまり聞き耳を立てるのは良くないらしい。向かいに座った夢が、小さく首を横に振っている。


「それより、望。叶からは何かきたか?」


「それよりって……。さっき送ったけど返信は――」


 言いかけた唇を閉じたのは、ポキポキとスマホからの通知音。どうやら件の人物から返信が来たらしく、望は即座にアプリを立ち上げるとそこに打たれたメッセージを読み上げる。


「『今、中尼(なかあま)君と一緒! 鍛冶場で会おう!』って」


 望が読み上げるとすぐさまメッセージ画面を見せてくれる。可愛らしいアザラシのトーク画面には叶らしい勢いのこもった文面が送られてきていた。


「鍛冶場を火事場て言ってる辺り、叶らしいというかなんというか」


「でも、中尼さんと一緒なんですね。珍しい」


 確かに珍しい。二人が一緒にいるところを見たことがない。それどころか、最近は中尼君とさえあまり話せていなかったはずだ。何かしていたのだろうか。


「……デートだったりしない?」


「しないだろ」

「しませんね」


「だよねー」


 憶測であれやこれやと叶の動機を考察するも、どれもがありえない話のものでしかなく、不毛ではあった。

 これは、実際に鍛冶場へ行って確かめる必要がありそうだ。

いつも読んでくださりありがとうございます。

良ければ、ポイントやブクマしていただけると嬉しいです。

後、ここ最近、書き方を変えたという意識でやっていますが、もしアドバイス等あれば感想とかで教えてくださると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ