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第8話「刀剣」


 何を話したかは、実りがありそうで実際のところは無い。そんな話ばかりしていた。

 食堂では、同じメニューばかり頼んでいると食堂のおばちゃんが栄養バランスを考えて、一品から二品ほどサービスしてくれる事。

 校長の話は長く、この後にある入学式でうっかり寝てしまうと特別面談を開かれて、内申点に響くという事。


 後は、模擬演習場を使う時は教員への申請書を出さなければ無断使用した場合、厳重注意と補習を受ける事になる。

 ただ、こういった話はおそらく学校案内の時、教員から説明されるだろうが、妹達――特に叶の性格を思えば、何度も言った方がいいと思ったからだ。


 叶はインファイターよりも、パワーファイターよりも、攻めに攻め、攻撃こそ最大の防御という意識ではなく、相手により多くの一撃を食らわせた方が勝ち、という意識で戦っている。

 ……つまりは、血の気の多い人間なわけだ。


 食堂で、わざわざ歩いてくればいいのに、人垣をひとっ飛びする常人離れした姿を見せるのも。

 見知らぬ人間へ興味を持たせ、そこそこのヘイトを集める事で、模擬戦に誘われやすくする為なのだ。

 生意気な奴。規律を乱す奴。調和を狂わせる奴。

 こいつは、懲らしめなければいけない。そう思わせる事で、戦いやすい場を作る。


 叶はそういう人間なのだ。

 というよりかは、ここの学校にいる人間のほとんどが戦闘に飢えているので、叶はどちらかと言えば大多数から見れば正常な部類なのだろう。

 ただ、行動が思考の斜め上を行っているだけで。


 そういった感じで、各々の特性を把握した上での話は予鈴のチャイムで終わり。

 それからは、お互いのするべき事へと向かう。


 妹達は入学式へ。

 俺は鍛冶場へ。


 寮から学校までの途中、俺は学校の外に建てられたはみ出しものの扱いを受けている鍛冶場へと向かうわけだが、妹達と別れる直前、望より声が掛けられる。


「とぉ兄、入学式が終わる時間になったら模擬演習場で待ってて」


 と、指定され。足早に体育館へと向かって行った。


「模擬演習場……って、望は誰かと模擬戦でもするのか?」


 既に遠くなった背中へ、疑問を口にした言葉が聞こえるわけもなく。ただ、空間に漂う事となる。

 まぁ、何かあるのだろう。

 望が珍しくお願いをしてくるんだ、鍛錬をしたいとかそういう気持ちが芽生えたのかもしれない。


 それなら、いい事じゃないか。

 修行からは遠い場所にいて、どうやって楽ができるかを考えている子が、どうやったら強くなるかを見つけようとしているのだ。

 断る理由も、無視する過程もない。


「一時間後ね。それまで、手入れしとくか」

 

 方向を切り替え、並木道から外れた舗装されていない道へと足を踏み入れる。

 正規の、学校へ向かうのとは別のルートにあるこの道は、唯一の鍛冶場に繋がっており、そして誰も来ないというのをいいことに俺自身の根城にしている安息の地でもある。


 たった、一つ。

 今やデジタル化されて、機械に打たれた刀剣が蔓延る現代において、時間は掛かるし、手間も掛かる。技術の伝承も、知識も全てが人任せで信頼が置きにくい。

 時代の波に置いていかれた、風化していく最前線。

 アナログでありながら、一部のコアなファンにとっては機械で打った精密な刀より脆く、決められた成分を入力するだけで完成する刀より折れやすく、均等な力配分によって打たれた刀より曲がりやすいと評される。


 しかし、それだけの酷評を受けていながら――刀としての存在意義を否定される言葉の最後には、必ずこう添えられる。


『でも、一番斬れるのは人が打った物』


 だと。

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