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第7話「食後休憩」


 のんびりとカレーを食べているのは、四季望。

 四季家三女にして、鍛錬や練習、修行や努力というものを嫌う女の子。

 

 髪は茶色に染めて、ネイルもしっかり施された赤い爪。うっすらとナチュラルメイクもされた顔は、いわゆるカワイイ系と呼ばれる顔立ち。

 

 俺や叶、夢の目元が鋭いのに対して、望は柔らかい目尻。その兄妹としての顔立ちの違いから俺たち兄妹を見る者は、望を見た時だけ反応が変わる。

 「本当に兄妹?」とさえ、言う者もいる。

 顔つきも似ていないし、雰囲気も違う。目の色も、鼻の形も、唇の厚さも、眉毛の形、まつ毛の長さ、髪質など、どれをとっても共通点がない。

 

 それは当然といえば、当然で。

 望とは、血が繋がっていない。

 彼女は養子なのだ。


 そんな望は、何事もなくスプーンを口へ忙しなく運ぶ。そんな俺たちは、驚いて目を見開く。

 彼女が口にしたことを信じられなかった。


「望ちゃん……別れたってどういう」


「ん? だってあいつ。『家なんか出て、俺の家に来いよ』とか言ったのよ。そんな奴無理。あたしの気持ちこれぽっちも考えていない奴とかと一緒にいたくないし」


 きっぱりと望は切り捨てた。

 いや、気持ちは理解できる。(とつ)ぎに来いよとか、高校生で口にしていい重さではないだろうし、なにより望の境遇を思えばそんな言葉なんか掛けられないだろう。

 

 望は、訳あって養子になった。

 引き取ったというのが、正しいのかもしれない。

 置き去りにされた子は、四季家に救われた。そんな境遇の子なのだ。

 だから、『家なんか』という言い方が気に入らなかったのだろう。


「それは望ちゃんが正しいですね。その子の名前さえ教えてもらえれば、私がその子を末代にすることも可能なので、後で教えてください」


「怖いこと冗談でも言うなよ」


「あら、本気ですよ。四季家を馬鹿にする者は誰であろうと許しません」


「怖いから、その据わった目で見つめるなって」


 夢の瞳は輝きを失っていた。

 いや、本当に抹殺しかねないほどの殺意滲ませてるけど、やめてくれよ。問題を起こすのは。

 そう心で願いつつも、夢の目の色は変わらなかった。

 彼女は本気だ。それはある意味当たり前というか、家族愛の強い女の子だからこそ、自家(じか)を馬鹿にしたり蔑ろな扱いをされるのを嫌うのだ。

 かといって、今ここで問題を起こされるとただでさえ底辺の家の名誉が地に沈むだろう。


「やってもいいけど、それをしたら四季家の評判がどうなるか分かっているならしてもいいぞ」


「うぐっ……」


 だからこそ、俺に出来るのは制すということ。

 いつか、そのまた昔からそこそこ名の知れた家であるからこそ、家族についても行動に責任が伴う。

 特に、この学校はそういう場所なのだ。


「まぁ、夢ちゃんの気持ちは分からないでもないけど、あんまやり過ぎると問題だし、健全なやり方はやっぱり刀でケリつけるのが一番じゃない?」


「叶が珍しくまともな事言うんだな」


「珍しくとか言うなよ〜。あたしだって、傷つくぞ兄さん」


 膨れた頬を見せつけ、露骨な不機嫌を表す叶。

 普段真面目な意見を言うことが珍しいのに、正論を叩きつける姉らしさを見せたのは、やはり高校生になったという意識がそうさせるのだろうか。

 それなら、いい傾向だ。


 淑女らしくない、人垣を飛び越えるような活発な長女が、真面目な意見を雰囲気に合わせて優しく言えるなんて、成長を感じる。


「いざとなれば、四人でボコボコにすればいいし」


 前言撤回だ。


「何が四人で、だ。俺を混ぜるな」


「え、とぉ兄。あたしのこと守ってくれないの?」


 うぐっ――。

 思わぬ一言、それも別方向からの加勢に胃袋を潰された声が出る。


「いや、何かされたなら守ってやるけど、何もされてないだろ? それなら、あんまり何か言うのも相手に失礼だしな、と思ってな」


「確かに、そうですね。あくまで憶測に過ぎませんし、相手の誘い文句が悪いというだけで責めすぎでしたね」


 夢は一番に納得し、俺の言ったことを噛み砕いてくれた。実際不毛なのだ。

 相手がこの場にいるならいいが、そうでないのなら生産性はない。むしろ、この話を聞かれているというだけで家の印象だったり、四季家の人間は重箱の隅をつつき、妄想を繰り広げる人達だという認識になってしまう。


 ただでさえ、落ちぶれた名家の看板に泥を塗ってしまいかねないのだ。

 避けなければいけない。

 その為に、家の名誉も威光をも取り戻しにきたのだから。


「よし。そんな事より、実りのある話をしてやろう」


 そう強引に話題を切り替え、ネガティブな話から学校生活で気をつけるべき暗黙のルールや、寮生活で必要になってくる物、そういった話をしていた俺達ではあったが。

 この時、遠くから見ているどす黒い視線に気づけば未来は変わったのかもしれない。

読んでいただきありがとうございます。

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