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鍛冶師奮刀記〜鍛冶師の俺は妹を守る為、底辺で落ちぶれた名家の名誉を取り戻しながら、天下とって成り上がる〜  作者: 月見里さん
第一章「四季家初陣」

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第62話「黒蛇さん」


 望の様子は、真剣そのものであった。

 なにせ、剣術での戦いに体術をもって戦っているのだ。鍔迫り合いや不利な形勢を脱するための、苦し紛れの蹴りではなく、意図的な攻撃手段。

 主軸とした攻撃。

 蛇のごとき動きに、翻弄された相手選手はあっけなくシールドが削れていく。画面上に映し出された数値が如実に――焦燥をかりたてるほどに、凄まじい勢いで減っていく。


「とぉ兄。あの攻撃でもシールドて減るの?」


 当然の疑問だ。

 必然の質問だ。


「一応、神鋼で相手を斬りつけた場合は減るが、蹴ったり殴ったりしても一ミリたりとも減らない。望なら見えるだろうが、斬った瞬間にだけ減ってる」


「……あー、確かに。黒蛇さんが斬った瞬間だけだね。今、蹴ったけど減ってないし」


「黒蛇さん?」


「髪の毛黒いのと、蛇みたいに動くから黒蛇さん」


 そこはディスプレイの名前じゃないのか。とは思いつつ、確かに黒蛇さんの方がいい。

 なにせ、これで蛇じゃない名前だったら、イメージと合致しない。いわば、あだ名のようなものだ。本人にとっては失礼かもしれないだろうけど、蛇みたいな攻撃をしているのだから仕方ないだろ。

 我が家が『鬼族』の一員だからと、勝手に落ちぶれていると言っている周りと何一つ変わらないかもしれない。ただ、それほどに。

 いや、強いのだ。

 めちゃくちゃに、べらぼうに。


「でも、あれって反則じゃないの? あたし、ルールとかよく分からないけど」


「よく分からないて……。昔教えたはずなんだけど」


「一年以上前のことは、忘れるものだよとぉ兄」


 それもそうか。

 忘れるのが人間だとすれば、思い出すのも人間だろうし、教えてもらうのも人だ。

 かくいう、俺もいつ頃に教えたのか忘れている。


「反則ではない。厳密に言えばな。ただ、推奨事項じゃないし、観客が冷めるし、なにより、あの一撃一撃はちゃんとシールドで防いでくれるけど、褒められるものじゃないな」


「でも昔のとぉ兄もやってたけど」


「それは忘れなさい」


 はーい、と軽々と了承する望。

 忘れるつもりなんかないんだろうな。目線の先は、圧倒的勝負を繰り広げている黒蛇さんに夢中だし。


「だから、皆げんなりしてるだろ」


「うん。なるほどね。窮地を脱する行動ならまだしも、自分の攻撃手段に加えるのなら刀を主軸にしなさいて風潮ね」


 風潮。

 というよりかは、マナーに近いだろう。

 暗黙のルールかもしれない。

 どちらにせよ、容認されている行為ではあれど、シールド値に影響もないし、窮地を脱する行動だけど、それを主体にしてしまうのは現実的ではないというだけだ。


「でも、足運びくらいは四季家(うち)にもあるから、参考にはなりそうだよね」


「そういえば、うちにもあったか」


 思い出した。

 そういえば、そんな技があった。

 ハッとした表情をしていると、じと〜と疑惑に満ちた瞳で見てくる望。

 だから、両手を挙げてはヒラヒラとお調子良く振る。


「冗談だって。そもそも『一刀流』の奥義が、動けない時点で習得不可能なものだし、嫌というほど知ってるよ」


「そんなに難しいの?」


 子犬が首を傾げるような疑問符を浮かべる。

 なんだ、可愛いな。まじで犬じゃんか。感情豊かじゃないか。

 しかし、同時に悲しくもなる。

 決して見えないように、決して悟られないように、心の内で悲哀を浮かべる。相反する兄妹は、血の繋がりはない。

 それでいいのさ。血脈が同族の証明じゃない。


「これだから、天才肌様は。羨ましいし、誇らしいよ」


 きっと、おめかししてきた髪の毛をくしゃくしゃになるほどこねくり回す。透き通る小川へ手を入れた時のような気持ちよさを感じる。

 かなり、気遣っているのだ。

 男でもわかる。いや、見ただけでもわかるか。

 しかし、急に撫でてしまったものだから、望も気分を害しているのかと思っていたが。


「……ふふん」


 目を細め、「〜」こんな口をしているのだ。むしろ、喜んでいるくれているのなら、よかったと胸を撫で下ろす。

 本当に、子犬みたいだ。

 冷めた観衆の中、一際異彩を放つ兄妹だったが、兎にも角にも、黒蛇さんの勝利でその試合は終了となった。

 ……あまり、相手にしたくはない。

 そんな、僅かばかりの希望を抱いて、撫で続けろゴリゴリに頭を擦り付けて来る望と一緒に、その場を後にした。

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