第6話「妹達と朝食を望む」
夢が持ってきたのは、味噌汁に納豆、目玉焼きにほうれん草のお浸し、鮭の塩焼き。
いかにも和風な少女が食べるのに相応しい食事であった。
そのお浸しをひとくち口に運んでは、ほうれん草の苦味を噛み締め、醤油の香ばしさを味わっていた夢は唐突に話し始める。
「ところで、望ちゃんはまだでしょうか?」
「そういえば、見てないね。夢ちゃんより早く来ると思ってたから気にしてなかったけど……」
「望が寝坊するはずないだろうけど、迷子だったり」
「まさか、そんなはずはないでしょう。あの子も十六歳ですよ」
確かに、望が迷子することも遅刻することもない。なにかあったのは間違いない。
そう思って、食べ終わりそうな時。遠くの食堂の出入り口の方向。
話題の人物が姿をみせる。
「あー……。なるほど」
「何がなるほどですか? 望ちゃん来ました?」
「あぁ、来たよ。男を連れてな」
「「は?」」
やはり血が通っているから反応も一緒なんだな。
そんな的外れな感想さえ浮かんだが、当の人物は一人の男を連れて食券を並んで買っていた。
おうおう、妹達が殺気立っております。
「なんで、男連れなのかな? 望ちゃん、人見知り激しいから彼氏なんて一生できないと思ってたのに」
妹に対しての言い方きつくないかい。
「なににせよ、事情を聞くのが先では。根掘り葉掘り、掘り返して墓荒らしのごとく荒らしましょう」
やることエグイな。
いや、俺自身も気にはなっているのだが、あれやこれやと聞いてしまうと嫌われてしまう。
妹に嫌われるというのは、得がたい苦痛だ。なんとしても避けなければいけない。
つまりは、ここで墓荒らしの道具を担ぎ出した二人を止めなければ、俺自身も非難の対象となる。
だから、制止の言葉を投げる。
「お前ら、そんなことするから彼氏できないんじゃないか」
「「うっ……」」
またしても息ぴったりに息を飲み込む。
適当に選んだものではあったが、二人には効果覿面で、聞き出すかどうかの脳内会議へと発展している様子。
そりゃそうだろう。変に追及しない、それでいて興味がないというわけではない。
そんな女性が好かれやすい現代。実際、望はそんな女子だ。
適度に関わってきて、適度に放置する。物は言いようかもしれないが、バランスのいい付き合い方をしてくれる。
だから、男を連れているのかもしれない。
「それより、一緒に食べるつもりなら、呼びに行かなくてもいいのか?」
「いや、男いるし……」
「そうですね、男の人がいますし」
「俺も男なんだが」
「兄さんは、男としてみていないよ」
「兄様は、男としてみていませんね」
「お前ら実の兄を虐めて楽しいのか……!?」
これだから双子が結託すると面倒くさい。追及する時も、こんな感じで責め立ててくる。
いや、確かに兄を男ととして見ろなんて難しい話ではあるが、男らしくないという証明ではないか。
そんなに男としての魅力がないのだろうか……。
髭でも生やして、ダンディーを目指してみるか?
「兄さん。またろくでもないこと考えてるでしょ」
「ろくでもないとは暴論だぞ。今、顎髭かちょび髭のどちらがいいかかで、人生の岐路に立っている」
「しょうもな……」
しょうもないとはなんだ。そんな呆れた目で見られても挫けないぞ。男性的魅力は、男にとって死活問題なのだぞ。
小学生の時の足の速さとか。中学生の時の喧嘩が強いこととか。勉強ができるとか。頭がいいとか。
じゃあ、高校生ではなんだろうかと考えれば髭だ。
ここで俺の学園生活の春が、訪れるかもしれないのだ。
「でも、兄様。髭が生えないと嬉しがってませんでしたか?」
「あ……」
夢の一言で思い出した。
そうだ、俺髭生えないんだ。中学時代、周りが産毛みたいな髭が生える中、俺一人だけツルツルであった。
ずっとツルツル。それを俺は手入れすんのが、面倒くさいという理由から、生えないことを大喜びしていた。
うむむ……。では、どうしたものか。
そんな雑談の中へ、最後の妹が乱入してきた。
「とぉ兄、また馬鹿なこと言ってるんしょ。駄目だよ、姉さん二人を困らせたら」
食堂のおばちゃんから貰った朝食の載ったプレートを手に、わざわざ俺たちの席まで来た。
そして、空いている俺の隣へ、流れるように座る。
「あれ、望ちゃん。さっきの男の人は?」
「ん? え、なに。叶姉さん見てたの?」
「私も見ていましたよ。てっきりあの方と一緒に、食べるのだと思っていましたが」
二人は驚愕の視線を望へ送っていた。
もちろん、その理由も当然だろう。
俺自身もそんな二人の仲を邪魔しちゃ行けないと思っていた。
しかし、望の口から出たのは驚愕の一言で、思わず冷静沈着な夢が飲みかけのお茶を吐き出すほど。
「あいつ元カレで、さっき別れたよ」
衝撃的一言を放って場を凍りつかせる。
それでも、望はのんびりとカレーを頬張っていた。
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