第5話「妹達と朝食を夢に」
今日の朝食は鮭の塩焼きに生卵、ワカメと豆腐の味噌汁にコールスローサラダ、小鉢にほうれん草のお浸し、ひじきと油揚げと人参の煮物と日本食の定番メニューだった。
これだけを作るのは手間が掛かるだろう、と思いながらも手を合わせ、頂く。
対して、妹の叶はカレーに生卵を乗せたものを食べていた。
「いただきます!」
元気な声で手を合わせ、食べ始める叶。
そのバクバクとカレーを頬張る姿を見ると、朝からよくこんな活力が出るものだ、と感心してしまう。
カレーは飲み物だと体現してるかのようだ。しっかり噛んで味わってもいいと思うのだが。
漠然と考えつつ、鮭をほぐしていく。
適度に脂がのってホロホロとした身をひとつまみし、口に運ぶ。
鮭の香ばしい味、湯気が立ち上りそうなあたたかさの中から、じわ〜と脂が滲み出てほのかな甘みが舌に残る。
あまじょっぱい、豊かな深みを感じつつ炊きたての米をかきこむ。
ふっくらと艶やかな米粒は、それぞれしっかりとしたかたさがありつつ、噛み砕けば中から濃厚な穀物の甘みが広がる。
これが、塩っぱい鮭との相性がいい。
そして、魚肉と穀物に染まった口内を味噌汁で流し込む。
白くのぼる湯気からは、味噌の芳醇な匂い。そんな熱々なスープを適度に冷ましながら一口飲み込む。
ワカメや煮干しのダシが風味として感じる中、最も主張する味噌は心まで染み渡るような優しさがある。
あぁ、美味い……。
やはり、日本食の豊かさは味わい深い。
ひじきの煮物も、油揚げの甘さが染みていて格別だ。
食レポを心の中で繰り広げつつ、ゆっくり食べ進めるそんな俺へ、叶はバクバクと食べ進めながら話し掛けてくる。
「そういや、兄さん。我が最愛の妹には会ったのかい」
「いや、まだだけど、今更会ってもな」
「おや、そんなこと言うなよ兄さん。あたし達と一年離れた寂しさを癒すのも妹の務めさ。兄さん、正月にもお盆にも帰ってこなかったし」
「そんな事する暇あったら刀でも打っておけ、て父さん言ってたしな。お言葉に甘えて、刀打ってたよ」
「お、て事はあたし達の刀出来たの?」
爆速で半分以上なくなる素早いスプーンを止め、キラキラとした瞳でみつめてくる。
まるで、誕生日プレゼントを貰う子どものような無邪気さで輝いていた。
妹達の入学祝いに俺の打った刀を贈る。
その為に、一年生の間ずっと刀を打っていた。お盆休みも正月も帰省せず、学園に残って刀とひたすら向き合った。
もちろん、妹達はそれを知っていたし、何より楽しみしていたのか何度も「まだ?」と催促されていた。
俺の密かな夢の一つ。先祖の打った刀を再現し、それを妹達へプレゼントする。
それがようやく実を結ぶわけだ。
期待していた叶の喜びや羨望の眼差しは当然だろう。
そんな長女らしからぬ幼さをみせた叶へ、優しく答える。
「出来たよ、入学式終わったら渡すから鍛冶場に来てな」
「やった! 兄さんの刀久しぶりだな〜、楽しみ」
目に見えてウキウキした様子の叶。
そんなに喜んでもらえるなら打った甲斐があるものだ。
体を左右に揺らしながら喜びを表現している叶の背後へ、一人の女子がやって来る。
落ち着きのない叶の肩に、ぽん、と手を置く。
何事かと、振り向いた叶は手を置いた人物が視認でき、笑顔の花を咲かせる。
「おお! 夢ちゃん! おはよう!」
「おはよう、元気ね叶ちゃん。兄様もおはようございます」
「ああ、おはよう」
四季夢。
四季家次女で、叶とは対照的な大人しい印象でお淑やかな少女。
腰まで掛かるロングストレートの髪をポニーテールにし、サイドを編み込んだ手の掛かる髪型をしている。
本人曰く、「髪を整えるのも女子力ですよ」との事。
非常に丁寧な言葉遣いで、俺へも「兄様」なんて言っているが、戦闘になると一変する。
後手必殺。後の先。カウンター。
そんな言葉がしっくりくる程の防御タイプ。
夢は居合切りによるカウンターを得意としていた。
「皆さん早いですね。私もご飯取ってきますね」
と、夢は食堂のおばちゃんの元へ。
その姿を見送った叶は、珍しいものをみたと言いたげな表情で話し掛けてくる。
「びっくりしたね兄さん。夢ちゃん朝起きるの苦手だから、てっきり一番最後のギリギリに来るのかと思ってた」
「まあ、成長したんだろ。いつまでも寝坊する訳にはいかないだろうし」
俺も驚きはしたが、そんな露骨に驚くと機嫌を損ねるぞ。と心の中で忠告はしておく。
高校生になったから生活習慣を変えようとしたのだろう。いつもは、ギリギリまで惰眠を貪っているような夢だが、やはり環境が変化すると心持ちも違うのだろうか。
それならいいことだ。苦手を克服する姿勢は、手放しで褒められるべきだ。後で、なにかジュースでも奢ってあげよう。
そう思ったが、人間そんな急には変われないようだ。
「だと言いけど……。でも、眠そうだね」
「そうだな」
二人して見つめた先。
夢は列に並んでいたが、立ったまま寝ていた。
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