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鍛冶師奮刀記〜鍛冶師の俺は妹を守る為、底辺で落ちぶれた名家の名誉を取り戻しながら、天下とって成り上がる〜  作者: 月見里さん
第一章「四季家初陣」

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第47話「閑話」


「無事、四季透は予選に出場できるとのことですます。()()様」


 月見高校の数ある空き教室の一つ。

 教員棟の端っこにあり、誰も利用せず、余った机と椅子の置き場所となっているそこは、珍しい客人に浮ついた空気を作り出していた。

 しかし、珍しい客人といっても、教室内にいるのは一人だけ。決して、独り言を呟いているわけでもなく、もう一人は誰にも見えない――天井裏に潜んでいるのだ。


「そうか。順調なら問題ない」


「はい。今年の侍月大会は大荒れになるですます」


 口調からして、以前、四季透の頭上。鍛冶場の屋根に潜んでいて、刀を作るなと忠告してきた者だろう。

 だが、埃被った世界に響くのは、期待だとか好奇心だとかではなく、無邪気にはしゃいでいるような気がするだけの声。

 壱鬼と呼ばれた男も、適当な椅子を見つけて、座ってみるくらいには大して心が動いていないのだろ。


「大荒れ、というのは誰に対してだ?」


「もちろん、刀道についてですます。現在の頂点でもある壱鬼様。『鬼族』の九鬼様。そして、四季家。これらが一堂に会する大会は金輪際、あるかどうかもないのですます」


「商業的な話だとすれば、失敗だろうけどな」


 壱鬼は、現在の頂点だと言われ鼻が伸びている様子もなく、むしろ予想していた通りのことを言われ、残念がってもいた。

 僅かに下がった声のトーン。

 それに乗せられた話題は、決して一般的な高校生が考えているようなことでは無いだろう。


「確かに。模擬戦でのドーム貸切がなくなったので、以前のような収入をどうにか稼いで黒字に持っていくことは無くなったですます。赤になるか黒となるか考えなくても良かったですますが、今回の模擬戦のためにLIVE配信用の機材が、そこそこの値が張るものですます。

 結果的に、今年は大赤字となるですます」


「たかだが、学校行事で赤字だなんて、可哀想な世の中だ。普通の文化祭にでもしておけば、無意味に頭とごまをこねくり回さなくて済むだろうに」


「壱鬼様は、刀道はお嫌いですます?」


 天井裏の声は、壱鬼を試すように高ぶっていた。

 つまるとこ、煽りである。

 だが、それを即座に察知していても、気分を害した様子もなく、浮かんだ埃を眺めてはその軌跡を予測している壱鬼には、大した効果もない。


「嫌いだよ。こんなの、チャンバラごっこだ。剣道のような武道の精神もない。殺し合いだとか、かつての武士のやり方を真似ているように見せかけて、全くの別物だ。武士にも、侍にも、到底誇れないものだよ」


「またまた、刀道界を牽引する方が何を仰いますです」


「牽引しているつもりはない。そもそも、自分のいる場所だって努力をしてきた中で、運が味方してくれたに過ぎない。

 結局、親が培って、養って、耕した畑を眺めているだけに過ぎないんだ。俺は四季に勝てるビジョンが見えない」


 淡々と話す。

 とめどなく、滞りもなく、汚れもない主張。

 涼しい顔をして言ってのけてしまったことに、屋根裏の存在は激しく動揺していた。


「そこまでお強いのでしたら、我が家業を持ってつぶすことだってできるのですます」


「そんなことをしてみろ。お前を潰すぞ」


 激情の最中にあった屋根裏の存在は、正しく鬼に睨まれたような悪寒を肌身に感じた。

 おぞましい殺気。

 隠すつもりが一切ない敵意。

 壱鬼は、例え冗談であっても許さない雰囲気を醸し出していたのだ。


「す、すみませんですます……今後、そのような発言はしないことを誓うですます」


「武士か、侍か、という以前にこれはスポーツだ。盤外戦なんか必要ない。見えないところで小賢しいことをしたとして、観客も見ていないんじゃ話にならない。

 結果も、過程も、全て戦いの場で行わなければ意味が無い。それを理解して発言するように」


 忠告。

 冷たく言い放った言葉には、棘どころか喉元を切りつけるだけの刀が添えられているようにも、屋根裏の存在は感じた。

 しかし、壱鬼はそれ以上機嫌が悪くなったり、気分が害された様子もない。機微にさえ現れないのだから、彼は彼で、感情とは切り離した信念があるということだろう。


「さて、他の生徒の様子はどうだ?」


 気を取り直して、といった感じで屋根裏の存在へ問いかける。

 雰囲気や、声音も、普段と変わらないほどには静まりかえっている。だから、屋根裏の存在も止まらない冷や汗に、悪戦苦闘しているのだ。


「参加申請をした生徒の内、一割は書類不備と抜刀試験札を忘れたことによる失格処分ですます。残った生徒も、成分分析に異常が見られた生徒数名が失格処分。

 残ったのは八割ほどですます」


「もっと減るのかと思ったが……辞退した生徒は?」


「片手で数えられるくらいですます」


「血の気が多いことだ」


 壱鬼、九鬼、そして四季。

 この『鬼族』の戦闘民族が参加しているとあれば、逃げ出す――堅実な判断を下す生徒がいてもおかしくない。

 しかし、壱鬼の予想とは違い、ほとんどの生徒がやる気だという。

 嬉しいやら、悲しいやらの感情が壱鬼の中で渦巻く。


「今回はもっと楽しくなりそうだ」


 そう呟く壱鬼。

 窓から見える真っ白な雲を見据えながら、彼は大きな大きなくしゃみをした。

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