第46話「侍月大会予選前」
さて、数日が過ぎ太陽と月の行き来を眺め続けていた日々に終わりがやってくる。
あっという間だった。
駆け抜ける時間だった。
どうにかして木刀以外での練習法を模索したものの、素振り以上のものは出てこず、結局やっていたのは基礎のみ。
応用なんてない。
妹達と模擬戦だってできていない。
万全を期していない。
十全な結果を期待出来ない。
全てない。
だから、準備はできているのだろう。
「では、これより侍月大会予選を執り行う。各自、抜刀試験で合格を受けた刀と申請時に受け取った札を教員へ見せること。
刀に異常が見られた時や札を無くした者は即座に失格とするのでそのつもりでいろ」
厳格で、教師から発せられる中でも飛び抜けてドスの効いた声を出す東堂先生。
それに合わせて、整列した生徒がそれぞれ自分の愛刀とも呼べる様々な刀と抜刀試験申請時に貰ったドックタグにような札も取り出す。
かくいう、俺自身も手にしているわけだが。
【149】と刻まれた無機質な輝きを見る度に、どうにも緊張感を与えてきている。それが、手遊びにつながってしまい、手にした鞘の飾り紐をくるくると回すような幼稚な行動で、なんとか平静を保とうとする。
しかし、そんな挙動不審となりかけているのは、俺だけじゃないみたいで。周りの生徒も同じように手にした札と、刀の柄を手汗で握り込む。中には、カチャカチャと刀の震える音を響かせる人もいる。
緊迫感だけじゃない。緊張感だけじゃない。
圧迫感があるのだ。
そんな中、札と抜刀試験時に使っていた測量機を持ってきた東堂先生。俺の目の前に。真面目な顔だ。
「四季透。間違いないな」
「は、はい」
その時、東堂先生の手にしたタブレット端末がちらっと見えた。
俺の名前。四季透と生年月日。更には学籍番号に、所属学科。簡単な略歴もある。
そこまで記載されているのかとびっくりした。
驚いた。
ちゃんとした大会になっている。
いや、今まで外野にさえならなかったから、蚊帳の外で飛び回っていただけだから知らなかっただけ。
俺の中の大会というものは、家の人間だけで行った模擬戦だけだ。妹と父親と適当なトーナメントを作って、競っただけの大会。
それしかないから、物珍しく見すぎてしまった。
「おい、秘密事項もあるんだ。じろじろ見るな」
「す、すみません」
しっかり注意を受けてしまった。
あぁ、周りの目がちょっと好奇に変わった。
なんでもないですよ。なんてことないですよ。ただ、電車でつり革にぶら下がっていたら、前の座席に座っている人が知っているゲームを小さな端末に表示させてたから、見ちゃっただけなんですよ。
そういった意味では、好奇心で見てしまった俺への当然の報いだろうな。
覗き見はダメだってことだ。
「札を、貰っているだろ。出しなさい」
「はい」
きっと、東堂先生は慣れたものなんだろう。
タブレット端末を覗く生徒がいることも。覗き見するような知的好奇心に塗れたやつがいることも。
そりゃそうか。
いるに決まってる。こんな場面、こんな場所だからというわけじゃないけど、スポーツの世界に限らず、自分自身が万全の体制で臨んだとすれば、相手がどんな状態なのか気になる。不安になる。
だから、覗いてしまう。そうやって心の準備という名の安心剤を欲しているのだ。
故に、東堂先生の平然と、毅然とした態度に、こちらとしても平静でいなければいけない気もする。
ここで、不正行為をしてしまってはいけない。
そうやって、前途を塞いでしまうことは、短絡的に起こすべきじゃないと、そう教えているようでもあった。
だから、さも堂々とした背筋を張り付け、ドックタグみたいな札を、差し出された手に乗せる。
それをタブレット端末に近づけると、【ピン】と甲高い音が響く。
「よし、間違いないな。では成分分析を行う。速やかに刀を渡すこと。でなければ、問答無用で失格にするからな」
そう脅すように言い放つと、俺から渡された刀へタブレット端末のカメラ部分に映るよう、鯉口から少し刀身を出す。
鎺から刀身までの僅かな長さだけだったが、どうやら一瞬で分析は終了したようで。
「問題ない。刀をしっかり鞘に収め教員へ渡すこと。持ち出す時は予選前にのみ限る。それ以外は許可なく触れることも許さない、失格扱いにもするからそのつもりでな」
「はい」
渡された刀を受け取ると、即座に他の先生がやってきた。どうやら、受け取るのはこの先生のようだ。
恰幅のいい男性教諭。しかも、スキンヘッドにサングラスまでしている。
どこかで護衛でもしてそうな屈強な見た目だったが、受け取るや否や「ありがとぉ〜。合格を貰った生徒は控え室で準備していてねぇ〜。出番前にはアナウンスでしっかり呼んじゃうからぁ〜」と、茶目っ気たっぷり、お色気抜群の声で言うのだ。
この学校に来て二年も経つのに、こんな強烈な印象を与えてくる先生がいたことにも驚いたし、何より、渡した時、さりげなく手を握られたのは違う危険を感じてしまった。




