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第44話「四季家の四季望」


 四季(のぞみ)は、元々四季家の人間ではない。

 彼女は孤児院の前に捨てられていた子どもであって、四季家の家系図には決して乗ることは無い血縁にあった。

 あったとしても、隅っこにひっそりと書かれている程度に過ぎず。

 彼女の母親と父親は、まだ乳飲み子に関わらず、己の身可愛さに捨てたのかもしれない。もしくは、そうでないやんごとなき事情があるのかもしれないが、孤児院の保母も知らない領域である。勝手に捨てられ、見捨てられ、見殺しになっても構わない。

 そんなてんで神様はいないような世界出身である彼女は、四季透の両親に見つけられたのはある噂が理由である。


 東京都の孤児院に、()()()()()()()()というものだ。

 あー、笑いが得意なのだろうとせせら笑った父親へ、当時の壱鬼(かずき)当主は「一度見たものを必ず会得し、忘れることはない。そんな少女であってもか? 技術の正当後継者に悩んでいた貴殿らへ僅かばかりの希望となりそうであったが、その足を向かわせないとあれば壱鬼(かずき)が行くとしよう」と、急かすようなことを言ってのけた。


 四季家は衰退の道をゆるやかに進んでいる。

 かつての鬼が残した呪い。これが末代に至るまでのことごとくを邪魔し、血筋の途絶えを目的としている。

 四季家で産まれてくる子どもには『刀を打てなくする呪い』と『刀を振るえない呪い』のどちらか片方が掛けられ、それが血脈に延々と続いていく。

 そして、鬼側も意図していたのか。『刀を打てなくする呪い』が四季透の父親から始まる。

 これが大きな問題でもあった。

 四季家長男である四季透は『刀を打てず、刀を振るえない呪い』に掛かっており。四季叶、夢にも同様の呪いが施されているのだ。


 つまるところ、四季家独自の刀を打てるのは祖父のみであり、継承者が途絶えることになる。

 これが四季家の衰退でもあり、四季家が一念発起どころか一生発起するだけの理由になったのは言うまでもない。

 そして、その中で四季望の存在。

 物真似上手の少女がいるとあれば、四季家の目の色も変わってくるものだ。例え、乳飲み子で捨てられた可哀想な子どもであっても、正しい愛情と豊かな環境と緩やかな感情を教えていけば、彼女は天涯孤独とならない。

 それ故に、家族全員から愛され、慈しみを受け、彼女も刀道の至るべき場所へと向かう覚悟ができた。

 さすれば、なぜ過保護な扱いを受けているのかという理由の説明としては、四季望は四季家の希望でもあり、物真似少女だからである。


 その物真似というのも、透も夢も叶も気をつけていることがあり、それは四季望には『なるべく、刀道の試合は見ない。させない。させても素振りだけ』という歪な過保護でもあろう。

 なぜそうなのか。

 どうしてそこまでするのか。

 それは、簡単な話で。そのうち出てくるだろうことを先んじて発表するとすれば。

 四季望は『一度見た技をすぐに会得し、それが手加減したものであったなら、己の課したリミットを解放してまで使用することができる』という、メリットよりもデメリットの多い状態にあるからである。


 最大限の見たままの技を発揮できるが、それを使用すれば人体のどこかしこに綻びが生じる。

 四季望の見様見真似は、自身の身体及び命にさえ影響を及ぼす諸刃の剣であるわけだ。

 それを養子縁組を結び、試しにと打ち合いで気づいた父親は、子ども達にこう言ったのだ。


「四季望には、剣術を教えるな。見せてしまうのは仕方ないが、決してさせるな。絶対に。そうすることでいつか必要になる時がくる。もし、見せるなら『子日』だけに留めておけ」


 と、意味深な言葉を子ども達へ伝えたのだ。

 来るべき時のために。四季望は、四季家最強だと言われながらも、四季家で唯一剣術を使用できないのである。

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