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鍛冶師奮刀記〜鍛冶師の俺は妹を守る為、底辺で落ちぶれた名家の名誉を取り戻しながら、天下とって成り上がる〜  作者: 月見里さん
第一章「四季家初陣」

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第40話「影」


 さして問題はないくらいの、質疑応答の中。俺と夢の印象はそこそこの好印象となっていた。

 なにせ、落ち込み、気分が沈みこむものの、根幹にあるのが『自分はどうやったら上手くなるのか』にあるため、フォローする必要がない。

 いや、多少なりとも、言葉遣いだけは丁寧にしなければいけないわけだが。それを差し引きしても、精神面のケアをしなくていいのは、比較的楽であった。


 なにせ、大概は落ち込みきって、絶望するような人だろうし。そこまでしてようやく諦める決心をする。

 軟弱者が多いというよりかは、俺達の意識との乖離が激しいのだ。

 だとすれば、中尼君と俺達は比較的、似たような位置にあるのかもしれない。そう思っていたが、ある程度の反省が済めば彼の疑問は別へと向かう。


「そういえば、四季さんの剣てどうやって?」


「四季さんだと、どっちだい?」


「あ、透さんです。すみません、名前で呼んでしまって」


「畏まる必要はないけど。名前で呼んで、そのうち四季て名前の人が二人くらい来るから」


 今まで、両親、祖父母、妹以外に呼ばれたことはない名前。少し気恥ずかしい感情が頼りない手にある。

 なんというか。コミュニュケーションを怠っていたからだろう。

 師弟関係とか以前に、歳の近い他人との関わりがこれほど、くすぐったいものはない。


「で、刀の話だけど。あれは、俺が打ったものだよ」


「あれ、てことは全部ですか?」


 中尼君が指さした先、そこには三振りの刀が置かれている。無造作に横並びとなったそれらは、いわゆる全裸みたいなもので。柄への装飾――つまりは(こしらえ)をしていない。

 それが未完成だという証明でもあり。ただ、装飾にこだわるのが面倒だから、という理由ではない。


「全部だね。一振いるかい?」


「い、いや……! 俺はまだ大丈夫です」


「まぁ、申請とか面倒だもんね」


「はい……」


 苦笑いする中尼君。

 どういうことだろう。その表情は決して申請が云々とは関係ないようにも思えた。

 ……ただ、聞くのは早計だろうか。

 いや、刀について聞いてきたのなら、興味はあること。そして、弟子になったのも戦いたいの意思でもある。

 ……そこまで考えて、まだ話を聞くだけの仲ではないと結ぶ。


「……その、あれって、打つのに結構時間が掛かるんじゃ」


「ん? んー……」


 少し、逡巡する。

 それもそう。時間が掛かる代名詞。刀は昨日打って、明日振るえるものじゃない。人を斬れるものじゃない。

 鍛錬に、鍛錬。

 研ぎに、研ぎ。

 集中力との勝負で、機械化が進み『神鋼』の存在によって、多少なりとも楽ができるようになっても、製作期間がなんとなく短くなった程度でしかない。

 一年以上。それを有するだろうものを三本。

 それも、『春刀』とは別でだ。疑問に思うのも無理はない。


「時間は掛かるし、先生が立ち会わなければいけないから面倒だけど、急げばなんとか」


「急げばなんとか、とか言ってくれるな……」


 途端、鍛冶場の扉が開かれ、寂れたスーツ姿の男が入ってくる。髭が無造作に伸び、目元には隈ができている。髪型もボサボサだ。

 こちらへ歩いてくる足も、いつもつれてしまってもおかしくないくらいのフラフラ状態。

 そんな危うげな人はやってきて「緑茶か?」と聞いて、急須に小さな口から水分を補給する。


(さかき)先生。行儀が悪いですよ。欲しいなら淹れますから」


「いやいい。勝手に木刀で打ち合ってる奴らを叱りに来ただけだ。長居するつもりはない」


 生気が一切ない瞳で、中尼君を睨みつける。

 思わず、目が合ってしまった中尼君は咄嗟に縮み上がった精神で姿勢を正す。


「す、すみません……!」


「今度は教師立ち会いを絶対にすること。いいか、誰が許可したとかは関係ない。お前らがそんなことをしていい理由はないし、私情で争う必要なんかこの場所にないくらい整っているはずだ。それを使え。次やれば問答無用で退学だ」


 酷く冷たい声だ。

 脅しだ。

 そう思ってもいいくらいの冷徹さではあるが、それが愛情だと思うのは随分先の話なのだろう。大人になってからの話だろう。このやさぐれて、疲れきった大人になってから、ようやく気づくことだろう。

 酷い話だ。


「すみませんでした……」


「分かったなら、次は四季。お前達だ」


 急須に残っていた緑茶全てを飲み干した榊先生。軽くなったものを机の上へ乱暴に置くと、感情を押し殺した瞳で睨んでくる。


「なぜ、木刀であろうと打ち合ったらいけないのか、知らないとは言わせないぞ。どうしてだ?」


 問いかける姿勢ではあるものの、本質は尋問だ。

 そう感じるに容易い声音であることは、はっきりしていた。


「その昔、木刀での殺傷事件があったからです」


「そうだ。どこかの馬鹿が、己の感情とプライドだけで行動して、他人の人生を奪った事件があった。そんなの起きる前から分かっていたはずが、そんなことは()鹿()()()()()()と楽観的な奴らが起こした不祥事だ」


 本当に、創設時代の話。それこそ、刀道をスポーツとして脚光を浴びせようと働きかけた時の話だ。

 模擬戦は全て木刀で行われ、今みたいな技術が確かではあるものの、本番以外でのメンテナンスが必要であったため、神鋼で打った刀の使用は原則禁止されていた。

 故に、生徒の持っているものは木製の刀で、帯刀していても問題視にならない状態であった。

 だから、問題になった。

 愉快犯的、確信犯的な犯行が起こるわけだ。


「だから、模擬戦だろうと許可制にしている。勝手なことをするな。イキがるな。お前らのやってることは暴力行為だ」


「すみませんでした……」


「今回の件、しっかりと反省文を書くこと。しばらく、四季透、四季夢、中尼は模擬戦を行うことは禁止だ。自主練は好きにしろ。打ち合うな。殴り合うな。殺し合うな。分かったか」


 夢共々頭を下げる。

 こうやって、大人が叱ってくれることをありがたいと思わなければいけないのだろう。

 やさぐれて、疲弊した心身であろうと、生徒の安全や将来を考えた指導もしてくれる。優しい人であるにも関わらず、怖い大人でもあるにも関わらず――畳の部屋へ親指を突き刺すと。


「じゃ、そこの部屋で寝てるから、書いたら机に置いておくように」


「寝るって。先生、仕事は?」


「お前らの監視という名目だ。サボってたとか他の先生に言うんじゃないぞ」


 どうにも……大人として尊敬するべきかどうか悩む人だ。

 それは中尼君も同じみたいで、困惑を顔へ浮かべ俺と先生へ視線を泳がせる。夢は、明らかな落胆を作っていた。

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