第4話「妹達と朝食を叶え」
おおよそ、一時間程の早朝ランニングを済ませると部屋に帰って、シャワーを浴びる。
本当は、ランニング前にシャワーを浴びた方が、アップする暇もなく故障する確率も減るのだが、面倒くささが勝ってしまう。
汗と一緒に様々な考えを落としていく。走っていた時の邪念は、湯気とともに消えていく。
なぜ、息があがったのか不思議な気持ちが新たに湧き上がる。
普段なら、体力温存できて木刀の素振りだってできた。
しかし、今日はできるほどの余裕がなかった。
空気を吐き出すのも、吸い込むのも荒く、肩を揺らしていた。
思い返せば、思い返すほど原因がわからず歯がゆい思いをする。いつもと違う。それは自覚している。
ただ、なんとなくの気配。嫌な予感とも呼べる不確かな存在。
今、真後ろにいるような感覚を、頭を力強く洗ってかき消す。
ただ、今日なにかあるのかもしれない。
そんな不安を抱えたままシャワーを浴び終え、月見高校の学生服へと着替える。
黒と白を基調とした地味目な制服。
派手さは求めていないので、これくらいが丁度いい。
オシャレな学生はこの制服をアレンジしているらしい。
刀道という武の精神を学ぶ場所で、うつつを抜かすな、と怒られそうではあるが、基本的には自由なのでお咎めなしの状態だ。
ネクタイを締め、気持ちも締める。
さあ、朝飯だ。
学園規定の濃い茶色の靴を履き、部屋を飛び出し、鍵を掛ける。といってもオートロックなのだが。
一階へと降り、学生寮にある食堂へと向かう。
食堂には、既にちらほら起きてきた学生が朝食を食べに来ていて、少し賑やかであった。
とりあえず、食堂に入って一番奥の隅っこの席が空いているのを確認し、急いで食堂のおばちゃんから朝食の載ったプレートを受け取る。
そして、そそくさと目当ての場所へ着席する。
隅っこが一番落ち着く。
全体が見える場所というのもあるが、あまり目立った場所で食べたくないのが理由。
そのわけは、いくつもあるが一番はこれから来るであろう、騒々しい人物による所が大きい。
その件の人物は、食堂の入り口で俺を見つけると、一目散に笑顔で目の前まで走ってきた。というか、飛んできた。
右足でドンッと踏み込み、跳躍。
スカートの中が見えて、純白の布が覗いてもお構い無し。
あらゆる人垣を、たった一歩の踏み込みで飛び越え、俺の目の前まで降り立つ。
ストン、と。
着地は優雅に。音も静かに。
さながら忍者のように。
そんな奇抜な距離の詰め方と、どんなに人がいようとも関係なく突破するのは一人しかいない。
「兄さん! おはよう!」
四季叶。
四季家長女にして、猪突猛進。切り込み隊長。単純で向こう水で無鉄砲なタイプ。
髪型も茶色のベリーショートで、いかにも活発な女子という印象を与える。
なにより一番特徴的なのは、刀道においての戦闘スタイルだろう。
彼女は力で押し切るパワーファイターよりも素早く、圧倒的なパワーを叩き込み、攻撃こそ最大の防御を信条にした戦闘スタイル――インファイターとして何人も切り伏せていった。
妹の中でも猿に近い人物が、猿よりも奇怪な登場の仕方に頭痛がしてしまう。
「おはよう、叶。もう少しお淑やかに出来ないのか? 皆びっくりしてるぞ」
「え、そうなの? まあ、他人なんてどうでもいいでしょ。それよりあたしもご飯持ってくるから一緒に食べよ!」
そう言うや否や、超特急で朝食を取りに行く。
ああ、食堂のおばちゃんもびっくりしてるし、怒ってるわ。
どんまい叶。
お淑やかな女性を目指すんだな。
こうして、三人の内、一人目の長女と食べることになった。
四季叶
性別:女
家:四季家長女、第49代目当主候補
刀:情報制限のため、閲覧不可
好きな物:兄、妹、動くこと、鍛錬
流派:情報制限のため、閲覧不可