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鍛冶師奮刀記〜鍛冶師の俺は妹を守る為、底辺で落ちぶれた名家の名誉を取り戻しながら、天下とって成り上がる〜  作者: 月見里さん
第一章「四季家初陣」

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第38話「突貫工事」


「兄様、結局どうするのですか」


 鍛冶場の中でも作業する場所から離れた比較的涼しげな空間から、問いかけの声が響く。それこそ、俺への僅かな呆れを含んだそれは、適当に沸かしたお茶を湯のみへ満たす作業を止めるのに充分だった。


「どうするって?」


「中尼さんのことです。このまま弟子として迎え入れるのですか?」


 それはどうだろう。そう思いたいが、なんとなく、弟子にしてしまってもいいのではないかとも思うのだ。

 いや、承認欲求だったり、自分のことを慕ってくれる身内以外の人がいるのはいいものだけど、心のどこか、頭の片隅でも引っかかるなにかがあるのだ。かといって、それを説明するのも難しい。


「どうしようか……」


「行き当たりばったりなのはいいですけど、相手は家族でもないのですよ。巻き込んでしまうくらいなら、さっさと決めた方がいいですよ」


 夢の言い分はもっともだ。身に染みるほどに。かといって、すんなり言葉を出すはずの器官が滞っている理由があるはずで。それを判明させてしまいたいのもある。


「あの方もなにか訳ありなのでしょう。しかし、四季家の面倒事に巻き込むこともそうです。なにより、『一刀流』を伝えた時悪用されかねません」


「そう思うのも無理はないし、健全な思考だと褒めてあげよう、最愛の妹よ。だけどな。弟子にするからといって『一刀流』を授けるわけでもない。むしろ、基本的なことだけ教えるつもりだ。というか、夢も戦ってわかっただろう。相手がどれだけの考えであっても、場数の足りていなさを」


「…………えぇ」


 夢は重く重く、非常に申し訳なさそうに。伸びた男へ頷く。それだけ、この男――中尼君の実力は未だ、弟子にしてしまうほどの基礎が備わっていないのだ。


「私に突貫してきたこともそうです。全ての基礎が足りていないこともですが、なにより隙もない相手へ突っ込むのは無謀どころか、命知らずと言いますか。どちらにせよ、戦う技量がないようにも思えました」


「いい線ではあったんだけどね」


 夢の酷評をなるべく、やんわりとしてあげる。別段、対戦相手を批評したところで意味は無い。こんなところで愚痴ったところで、伸びた相手へ届けるにはもう少し優しくするべきなのだろう。かといって、的をえてるのは言うまでもない。


「夢は鉄壁にも近い防御の硬い相手と戦う時、どうする?」


「こちらの傷を少なくするよう動きながら、相手の隙をつきます」


「模範解答だね。うん、基礎に忠実で至って戦闘的な返答だ」


「…………そうではないと?」


 夢からの訝しむ問いかけに首を振って答える。そうではないけど、夢が思っているそうではないとは違う。

 基本的な解答は、あくまでの話なわけで。


「その答え方は、()()()()()()()()()。そういう答えだ。防御の硬い隙が微塵もない相手へ突貫したのは、どこの誰だい」


「中尼さん……この学校の生徒……」


 ぼつり、ぽつり、夢は考えられる言葉と思いとを繋げていく。それが数珠繋ぎとなった時、ある種の正解に辿り着く。注いだお茶から立ち上らせる湯気の中に、何を見たか。それは、紛れもない一つの結果と諸々の所作からのもの。


「まさか……斬られても相手を斬るつもりだったと?」


「そうだね」


 夢へ湯のみを渡す。正解のご褒美というわけではないけど、冷めてしまうのはもったいない。

 考えも、作戦も。長年温めておくべきじゃない。だから、一口、緑の香りを喉へ押し込む。


「ここの学生は見えない鎧を着て戦っている。全身を覆うそれは、あらゆる斬撃を防ぎ、衝撃だって緩和するような便利な機能だ。そうやって今まで戦ってきて、その仕組みを体や脳みそに叩き込まれたとすれば、隙のない相手を前にした時、思考に逡巡の余地もなく、問答無用で飛び込むだろ。こっちは全身に甲冑を着ていると勘違いしてるんだから」


「……」


「もちろん、木刀の時点でシールドとかないのは知ってるだろうから、あくまで行動するだけの原理だけどね。実際には、肉を切らせて骨を断つに近いものだと思うよ」


「…………私でもしませんよ。刀の根元へ近づけば、痛みは少ないし、相手を斬ることができる。そんな諸刃の行動なんて」


 流石に夢でもしないらしい。防御の専門家としても、望ましくないのだろう。というか、実際問題望ましくないどころか、するべきじゃない。

 だからだろう。夢は手にした湯のみを眺める。

 虚空に呟くよう、水面を揺らす。


「相手の刃に触れてしまうことは、即ち死を意味します。例え、それが軽傷であったとしても、積み重ねてしまえば筋肉は動かなくなります。そもそも、生きているかどうかも分からない攻撃に、僅かばかりの希望を持つことは負け戦にしているようなものです」


「そうだね。相手依存の行動なんてするべきじゃない」


 相手の攻撃が様子見かもしれない。

 相手の一撃がそこまで痛くないかもしれない。

 相手が怯んで振り下ろした刀が当たるかもしれない。

 そんな、相手に希望を抱く時点で剣士として弱い。侍としても落第だ。そもそも、自分自身が相手を意のままに操るのと、相手が自分の期待に応えてくれる行動を取ってもらうのは、全くの別物である。

 非常によろしくない。大変、残忍で残酷な意見を述べるなら。


「中尼君は、刀を振るうべきじゃない。だから、弟子にしても問題ないと思っただけ。それが我が妹への解答かな」


 その言葉を、夢は呆れながら飲み干す。喉元過ぎれば熱さを忘れるらしく、些か不機嫌だった眉も可愛らしい角度を維持するようになった。

 どうにも、我が妹は感情豊かではあるものの人を見る目は豊かでないようだ。そのうち、驚くようなことになっても知らないぞ、と心の中で思いながら、件の人物の目覚めを待つことにするのであった。

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