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鍛冶師奮刀記〜鍛冶師の俺は妹を守る為、底辺で落ちぶれた名家の名誉を取り戻しながら、天下とって成り上がる〜  作者: 月見里さん
第一章「四季家初陣」

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第27話「いつも通り」


 異例の開催が決定されたとすれば、反響とやらは俺達に向けられる。まぁ、大したことじゃない。単純に教師陣の説明が何度も何度も伝えられる程度の違いでしかない。確認と再確認。

 ついこの間、九鬼と戦った――模擬戦をした場所で予選を行い。本戦は大きな試合会場を貸し切って行うそうだ。

 というのも、予選の日取りは決まっているものの生徒にのみ伝えられ、近隣住民にだって日程は伝えられていないそうだ。学校側が教えているのは、あくまで本戦の日付だけ。まぁ、SNSの影響や刀道への注目度を期待された世間においては、テレビ関係者が殺到しないわけがない。というか、ここぞという場面だし死にものぐるいで情報を集めているだろう。

 予選から四季家はどう動くのかとか。対戦相手との試合はどうだったのかとか。そこら辺を最速で収集して、いち早く届けてアクセス数やインプレッションを稼ぎたいはず。

 それがお金になるんだったらなおさら。

 だから、学校に押しかけてくることを想定した教師は情報の制限を行い、学校前に居座っている取材陣を追い払うために警察を呼ぶなどの対応をするようにしたらしい。

 まぁ、こんな状況でも取材魂逞しい。いやらしい。

 故に、俺達参加者(特に名家の子ども)には、注意するように言いつけられていた。予選の日付を言わないこと。会場も言わないこと。お金を積まれたとしても言わないこと。発覚次第、失格処分に退学も検討する。とのご達しだ。


 まぁ、そんなこんなを参加者が守れたら苦労しない話だ。


「とぉ兄。早くない……?」


 まだ太陽が昇りきる前の朝まづめとやらに、ほつれたことに気づいた靴紐を結び直していると背中から望の声が届く。甘ったるく、猫が撫でられたような声。おそらく寝起きだ。


「望も早いな。俺はこれから訓練だぞ」


「くんれぇん? あたしもいく」


「寝とけって。てかその格好じゃ行けないだろ」


 なんだっけ。結構良さげなパジャマだったはず。ジャンピケというブランドだったかな。そこのもこもこした、ショートパンツタイプのパジャマ。淡いクリーム色も綺麗なその服は、望のお気に入りのパジャマだったはず。買ってすぐに見せびらかしに来たのを覚えているから、月見島まで持ってくるほど気に入っているらしい。


「うぅん。きがえるから、待ってて」


「……わかったよ」


 こうなると放っておくと怒られる。過去の経験が脳内再生されるのも簡単なほど、望の意思は固い。

 どころか、意固地に近い。意地が固い。寝ぼけていても、連れて行ってくれなかったことは覚えているのだから、タチが悪い。

 だから、のっそのっそと自室に戻っていく背中を見送って、玄関先から見えるまだ夜のカーテンが掛かった世界を見る。


 点在する雲だけが薄らとした白色を作って、ポツポツと真っ黒なカーテンに白い絵の具を落とした独創的な天井。多分、昔の人も見上げてはこれが神様のイタズラだと勘違いしてもおかしくない。いや、信じてもおかしくないほど、規則性は無い。雲に隠れれば見えなくなるし、季節ごとに見える星も違う。これを神秘的と言えなくて、何を神秘だと決めつけるんだろうか。

 しかし、この空も地球の繁栄によって、本来見えるべき星々が見えなくなっていると思うと、悲しいような、むしろ想像力を試される。そうやって、空を見上げて、風に撫でられた頬を心地よく思い、空想したんだろう。空を想い、空に憧れた。だから、陽射しが僅かでもカーテンに色付け始めた頃。

 俺にとって神秘的な存在でもあり、おおよそ規則性なんてなく、気の向くまま風の向くまま、生きているであろう人物は、シャッキリとした足音でやってくる。


「お待たせ、行こう」


「おう」


 腰を上げ、月見高校指定の真っ黒なジャージに身を包んだ望の確認が済んだところで寮の玄関を押し開ける。

 重厚なガラスの扉を開くと、ふわっと優しくもしょっぱい風が出迎えてくる。

 今日は晴れそうだ。

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