第26話「刀道大会」
月見島。絶海の孤島と言うにはあまりに身近で、親しみやすい観光地かと言われたらあまりにも疎遠な存在が、島の形を成しているとすれば、この島の近寄りにくさは住民のせいだろう。いや、もっと限定的な話をすれば、月見島にある高校のせいだと言える。
血の気の多い生徒が、刀剣を扱う学校にいて定期的に戦うような好戦的な人間しかいない。とすれば、離れておきたいと思うのが正常だろう。かといって、全校生徒が戦っているわけじゃないし、ほとんどの時間は練習か作刀に割かれる。剣士や武士連中は、真剣の代わりに木刀で。鍛冶師は鍛冶場に籠る。籠のように。籠って、匂いをこもらせて強烈な異臭を放つ。そのくらいの人間しかいない。ゆえに、生徒から不満が出てくるわけだ。
作刀した刀剣の発表の機会が無い。そして、武士剣士は戦って技術を磨く行為ができない。もしくは、プロに入りたくても実績がない。
だからこそ、そんな生徒の憂いた意見を尊重した教師陣は定期的な模擬戦を抜きにして、生徒のフラストレーションを発散させつつ、更には月見高校の知名度を上げるために大規模な大会を設けることにした。
それが『侍月大会』。
文字通り。侍を目指す月見高校の生徒が戦う。それも、五月に、だ。
二重の意味で。多重の意味で。誰が考えたのか分からないけど、ただの当て字だと言えばあっけないしロマンティックに欠ける。そういうわけで、通ってしまった大会名はほどほどにしておくとして、そういった大会が五月にあるわけだ。
つまり、新入生の場合は入学式が済んですぐ。
だから、参加するとすればよっぽど血の気どころか、頭部から血を垂れ流しているくらいの人間のような、気狂いの奴くらい。
多分、俺が出ていなかったら叶が何がなんでも参加していらだろう。そのくらい、新入生が選手として出るには大舞台でもあるし、上級生に太刀打ちできるかは運に左右される。それこそ、相手にダメージを与えられたらいいくらいだ。
じゃあ、そんな中に名家がいたとすれば。刀道の中でも名を残し、実績を作り、功績も輝かしい人間がいるとすれば、どうなる。まぁ、注目度が凄まじいことになるのはもちろんのこと。今回の場合は、とんでもないことになるのだ。参加している名家の数が数。恐ろしい時代の創成と言っても過言じゃない。
全国刀道大会連覇中のどんな刀でも業物にさせる『壱鬼』。
鍛冶のほとんどをデジタル化した二刀流使いの『弐鬼』。
剣術全てを書物から完全再現させた、試合毎に刀剣や構えを変える『参鬼』。
俺のいる最弱家系の『四季』。
刀道の試合で必要となるシールドそのものを構成した、四刀流使いの『伍鬼』。
模擬戦の相手だった一刀流使いの『九鬼』。
え、六人しかいないて? 他は不参加というか、参加しているのは参加しているかもしれないけど、彼らは表舞台に上がらない。陸から捌までは裏方なんだよね。
本当に裏の裏。闇の世界があるなら、そこに彼らはいる。だから、俺達も知らないし知る術もない。多分、壱鬼しか知らないと思う。
故に、想像するしかないけども、今回の侍月大会を裏方で支えているはずだ。まぁ、ここら辺は置いておこう。姿なき人物に思い馳せたとて、偶像崇拝の方がましだと思うはずだ。知らなければ良かったと後悔するのが先だろうし。
と言った感じで、参加している中でも連覇中の『壱鬼』のお陰で、相対的に『鬼族』の注目度が上がった中での、九鬼との模擬戦。それが公になったから、もう大変なわけ。
去年とは違う形式にならざるを得なかった。
というよりも、そうするしかなくなった。
予選は秘密裏に行われ、民衆の前で繰り広げられるのは本戦のみ。
そうなってしまったのでした。