第2話「はじめ」
2〇2〇年4月6日 人工島 月見島
まだ、朝日も昇りきっていない薄暗い部屋の中、四季透は静かに寝息をたてていた。
そんな穏やかな朝の一幕の中、何分かの時間を掛けて、天上のカーテンはゆっくりと白んでいき、朝焼けが彼の通う月見高校を彩っていく。
そして、その一室を突如けたたましい音色が広がる。
ジリリリリリ――
朝の五時にセットしたスマホのアラームが鳴り響く。
あまりのうるささに、手をあっちらこっちらへと動かし、音の原因を掴むと即座にスムーズへ。
ゆっくりと目を開け、少し明るくなった室内を視界に入れる。
青白く見慣れた天井がそこにあった。
ああ、もう朝か。
柔らかいベッドの上で体の節々を伸ばし、溜め息をつく。澄んだ空気を肺へ送り込むことで、脳内は冷えたように冴える。
いつもと変わらない一日が始まったことを確認できた俺は、ゆっくりと身体を起こし、スプリングのきいたベッドの上に座る。
毎日繰り返す動作は、少しの違和感もなくスムーズに動く。
ひとまず、顔を洗おう。
そう思い、洗面台へと向かう。
自動で開いた扉の先、洗面台で目を覚ますために顔を洗うのが毎朝のルーティン。
鏡に映る自分の顔を見れば、あぁ、寝ぼけてるのがひと目でわかる。
うっすらと開かれた瞼が主張していた。
そんな瞳が映すのは、洗面台に置かれた数々。
立て掛けられた歯ブラシも自分専用のしかないし、口をゆすぐための白のシンプルなコップも一つしかない。
全寮制の高校なんだから、当たり前だろ。
虚しくないぞと、虚勢を張る。
そんな虚無感を流したい気持ちのあらわれか、さっさと洗顔するために、赤外線センサーのついた蛇口へ手をかざす。
蛇口から一定量の水が流れでてくる。
なんとも、楽になったものだ。
他人事のように思いながら、透明な液体に触れる。
「冷たっ」
虚しく響く、自分の声。それは勢いよく排水溝へ吸い込まれていく。
それでも色々我慢して顔を洗い、歯を磨く。
大丈夫。俺は長男だから我慢できる。
ああ、寒い。
それでも、耐えられるものには限界がある。
震えるような体で、そこそこ白い歯を擦っていく。
ちょっとした電動歯ブラシみたいな感じだな。ああいうものは、わざわざ電池を買わなければいけないから面倒くさい。
ものぐさな思考は、高校二年生になろうと変わらない。
今年の春はまだ先のようだ。
口をゆすぎ、吐き出す。目の前の鏡で、ある程度の身だしなみをチェックする。
寝癖なし、寝ぼけ眼よし。
確認できたので、パジャマからジャージへと姿を変える。
雑多にホカホカの熱をもった服を脱ぎ捨てる。
たった一枚脱いだだけなのに、鳥肌がたつほどの寒気に襲われる。
「ぐぁ、寒いぃぃぃ……」
肌寒い室内へ晒された体。
その体を隠すように急いで、ブルーのジャージを着ていく。
ヒヤッとした服でも、着ないよりはマシだと震える体へ言い聞かせる。
やっぱり、暖房はつけたほうが良かったのか。
でも、昨日は暖かくて、つけると逆に暑くなりそうだったし。
そんな言い訳を脳内で繰り広げながら、ズボンも履き替える。
ヒートテックとか買った方がいいのだろうか。でも、鍛冶場だと邪魔になるし……。
それに、動けばあたたかくなるし。
そう思って、いつも買わない。しかし、毎年後悔している。あの時買っておけば、冬服を見に行くついでに買えば良かったと。
今年の大寒波も、そのせいで凍える思いをした。
でも結局買わないんだろうな……。今年は忙しくなりそうだし。
そんなことを思いながらでも、器用に着替え終わる。
毎朝繰り返すことは身に染みた行動で、考え事をしていても問題ない。
そのまま、玄関までゆっくりと向かう。
これから早朝ランニングだ。
毎朝欠かさずこなしているので、今更休んでしまうとそれだけが気になって、授業や鍛冶場で集中力を欠いてしまう。
履き慣らして、くたびれたランニングシューズへ足を入れ、ドアを開ける。
「行ってきます」
返答すらなく、ただ部屋へ溶け込む声に寂しく感じるも、自動で開かれたドアから歩き出す。
今日は、妹の入学式。
踏み出した足は軽やかだった。
そして、今までの日常と別れを告げることになる。
激動の日々の中へ、飛び込んだ。
四季透
性別:男
家:四季家長男、第49代目当主候補
刀:情報制限のため、閲覧不可
好きな物:家族、魚料理、鍛錬
流派:情報制限のため、閲覧不可