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第15話「直前」


「…………これが、四季透君の打った刀ということ?」


「見ればわかる通りに」


「………………いや、うん。あまり固定概念に囚われるのは良くないから。うん。なんでもない」


「……」


 決められた書類と刀一式を職員室へ持って行くと、審査係の先生に生暖かい目で見られることとなった。

 全ての職員が作刀された物を安全かどうか。使用者に悪影響がないかを判別できるわけでなく、実際の試合でも審判を務める先生が作刀された刀の審査を行う。その昔、刀として使用するからと強引に許可を得た生徒が、発砲事件を起こしたこともあり、そういった制度を設立するしかなくなったのだ。

 ……まぁ、銃の部首は金へんだから刀だ! という主張を通してしまった教員の方が問題かもしれないが……。


 それはともかくとして、俺の刀についてだ。

 いや、まぁ、そんな風に見てしまうのも分かってしまう自分が憎くも、悔しくもあるが、慰めようかどうか悩むくらいなら冷酷な対応で、淡々と手続きをして欲しいのだが。あぁ、こういう反応になってしまうのが目に見えたから、妹達に譲りたかったんだが、上手くいかないものだ。


「じゃ、申請しておきます。また後日に先生から連絡があるから、寮のポストに抜刀試験の日時が記載された手紙かプリントが投函されるので、決められた時刻と場所を間違うことなく、遅刻のないようにね。

 預かっても大丈夫かしら?」


「……はい。お願いします」


「では預かります。一応仮番号として札を渡しておくから、無くさないように」


 そう言いながら先生は小さなドッグタグのようなプラスチックでできた札を渡してくる。

 そこには、【149】という数字だけが記入されていた。


「ありがとうございます。では失礼します」


「はーい。気をつけてね」


 これだけで終わる――というわけでもなく、先程の先生が言っていた通り、抜刀試験が後々ある。

 そこで、この刀は本当に競技用かどうかのテストと、しっかり対戦で使用出来るかの確認を経て、ようやく俺の試合で使える刀となる。そこまでしなければいけないのと、そこまでしなければ面目を保てないという意味も含めて、非常に面倒な手順が必要になっているのだ。


「おかえり。長かったね」


 職員室を出ると、叶が目の前で退屈そうにスマホ片手に黄昏ていた。なんともまぁ、中身を知らなければ美人だろうに。おつむがおつむゆえに、可哀想な子としか見れない兄は涙が出そうだ。

 

「そうでもないだろ。というか、来てたのか」


「あー、酷いなぁ。少なくともあたしは兄さんがせっかく、打ってくれた刀がどうなるのか気にはなるからね」


「……なるほど、つまりは自分は使いたくないけど男の俺が使うところが面白いから、からかいたいのか」


「そんな穿った考えは辞めておいた方がいいよ。少なくとも夢ちゃんの前では」


 まぁ、叶の言う通りではある。夢の前で自分をへりくだったような、卑下した姿を見せれば怒るだろう。「兄様はそんな人ではありません」からの「そんなこと二度と口にしないでください。思わないでください。金輪際、一生をかけて誓ってください」の一点張りで圧をかけてくるのだから。


「そうだな。そうするよ。ところで、本当の目的はなんだよ、まさか一緒に帰りたいとかか?」


「まぁ、それもあるけど、ちょっと刀のことで相談ね」


 あるのはあるのか、という疑問を打ち出す前に、叶は真剣な顔で俺を見つめてくる。なんだ珍しい。


「相談なんて、なんだ? 兄で良ければなんでもできるぞ。それこそ、世界を征服することだってな」


「うん、いやね。ちょっと、お願いがあって」


 なんだ、おちゃらけた雰囲気ではないようだ。

 それもそれで珍しい。ポジティブに馬鹿を貫き通せば、叶になるような人間が、真剣な顔をするのだから。

 ここで茶化してしまえば、妹達から非難轟々。明日には木の下に埋められていることだろう。


「その、ね。贋作(がんさく)でもいいから、一振欲しいなって」


 照れながら、それでもおねだりする叶は、幼少期の頃を彷彿とさせる幼さがあった。

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