第14話「開戦直前」
妹達への説明も済んだ俺たちは、連れだって職員室へと向かっていく。鞘に収めた刀はカチャカチャっと、甲高い足音を鳴らしながら。
「しかし、面倒くさいね。わざわざ、現物を見せに行かなきゃなんて」
「面倒かもしれないが、俺たちが持っているのは切れる刀だからな。模造刀でもなんでもなく、人の首だってとれるようなものだ。
それを扱うんだから、さすがに職員が現物を確かめて保管しなきゃ、スポーツとして一世を風靡できないだろ」
「それもそうだけど。先生が見に来ればいいのにね。そこら辺面倒くさいから、持ってこいなんて言ってそうだし」
ぶつくさと文句を垂れる叶。
言いたいことはよくわかる。
危険物であるなら、それを子どもに管理させるよりも先生自身が把握しておけばいい。もしくは、作刀から納品までを付きっきりで監視しておけばいい。
それもなく、出来たら持って来い。もし、試合で不正になりそうなものは取り除く、なんて後手の対応だからだ。
ただ、それでもスポーツとして成立してきたのは、試合を行う時のシステムが優れているからだろう。
「まぁ、切られたとして傷一つ残らないんだから、先生達も寛容なんだろ。鍛冶場とか至るところに監視カメラはあるし、それで管理しているて体裁は保っているつもりなんだろう」
電柱や電灯の近くにこちらの動向を捉えて離さないレンズは、そういった側面がある。
まぁ、危険人物なんて挙動不審だしこれからろくでもないことをするなんて分かりやすいはずだ。今まで何も問題になっていないのだから。
「にしたって、後手後手だとは思うんだけど……でも刀の知識も帯刀した人間がどんな行動に出るかを理解している人の方が少ないか……。でも、でもなぁ」
理解はできるものの、納得はいかない叶は唸る。
分からなくは無い。理解できなくともない。
実際、普段から刀に触っている人間だからこそ、少しでも手元にあるというのは、大きなリスクを伴っていることは経験則によるものだ。
「叶ちゃん。いい加減どうにもならないことを気にしても時間の無駄ですよ。今考えるべきは、この刀を誰が扱うか、を思案する方がいいかもですよ」
「…………それもそうだね。はぁ、兄さんの刀だから使いたいのは山々なんだけども、あたしの戦闘スタイルに合わない気がするんだよね……」
「まぁ、叶が使ったら粉々になるだろうな」
全てを力や速さで圧倒しようとする叶にとって、選ぶべき刀は頑丈一択である。
柔らかさよりも、硬さで押し切る。相手を怯ませるには、相手に勝つためには一切の油断も一抹の希望さえも与えないように、怒涛の如く攻めることでいいのだ。
だからこそ、彼女が望むのは頑丈もしくは折ってもいい刀なのだ。
「そうそう。だからさ、あたしには存分に扱えない気がするし、夢ちゃんが使っていいよ」
「それこそ、私だって扱いきれないという意味では一緒です。私は後手必殺を信条としていますので、確実に切れて、確実に相手へ致命の一撃を与えられない可能性がある刀は手に余りますから」
「それもそうか〜。じゃあ、望ちゃん?」
「望もそれこそ難しいだろうな。あの子全然刀を振るってないだろ」
刀を振るわなければ、鈍同然になる。
それは刀自身だけでなく扱う剣士も同様で、斬り筋や鍔迫り合いといった全ての剣術が弱々しく、それこそ振るわないものとなる。
特に、この刀――『徒名草』はちょっとでも斬り筋が悪かったり、受け方が悪いと砕け散ってしまう繊細な刀だ。
素人同然とはいえなくとも、不慣れな人間に持たせるには荷が重すぎる。
「となると、必然的に兄さんの手に渡るわけだ」
「そうやってたらい回しにするつもりなら、刀打たないからな」
「わぁ! 拗ねないでよ〜! ごめんって!」
結局、誰も受け取らなかった刀は俺が使うこととなった。
この後、早速試すことになるなんて――妹達が切望するような刀であることを証明するなんて、思いも知らず。