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第12話「挿頭草」


「…………これが新しい刀ですか?」


「あぁ、そうだが」


「なんというか……普通だね」


 なんと失礼な叶と夢であろうか。

 俺が手入れをかかさず行い、持ち出してきた鞘に収まった刀を見ての感想はそれだった。


「私はいいと思いますよ。変に着飾るよりもいいです。結局実用性がなければただの鉄クズですから」


「それもそれで失礼だよな」


 フォローにならない夢ではあったが、言いたいことは理解できた。

 俺たち鍛冶師が打つ刀には様々があれども、この学校で使うべきなのはよく切れ、よく耐え、よく振れる刀が一番なのだ。

 それが一番使い勝手もよく、一番人気でもあるわけ。

 多少、ほんの少しだけ剣士から依頼があって装飾にこだわったりすることもあるが。

 基本的には、華美とはかけ離れたものがいいとされている。


「それよりも、刀身は?」


 叶はウキウキと急かす。

 まぁ、鞘だけじゃ面白くないもんな。

 それでも、この鞘もこだわったんだけどな……。


 そう思いながら、俺はシンプルな黒柿色の鞘からゆっくりと、その本体を抜け出す。


「……え」

「は?」


 その刀身を見て、妹達二人は唖然とした表情で固まる。

 おいおい、そんなに驚くことかよ。


「………………兄さん、その刀身は……なに?」


「なにって、見りゃわかるだろ」


 抜け出した刀を机の上に置き、ちらっと見る。

 うん。

 見事な()()()


「『春刀(しゅんとう) 徒名草(あだなぐさ)』と銘を打った。四季家を象徴する一刀だ」


「いや、それでもこの色は……ちょっと……」


「そうですね……。ちょっと、女々しいというか」


 まぁ、それはそうだろう。

 しかし、仕方ないといえば仕方ないのだ。

 俺が机に置き、名付けた刀は刃文(はもん)以外がピンク色もピンク色。

 綺麗にいえば桜色に染まっていたのだ。


「それに、なぜこの色に? 普通に打てば普通に黒色かと思ったんですが……」


「俺もそう思ったんだがな。配合量の違いかもしれない。ただ、打ってる時は普通の刀と一緒だったんだよ」


「珍しい刀としては売れそうだね」


 叶の一言はあまりにも無慈悲すぎた。

 もう売るつもりらしい。

 見た目で判断しすぎかもしれないが、そう思うのは無理もない。こんなピンク色で真面目に戦おうというのだ。こんなおかしな色をした刀で、家の名誉を取り戻そうというのだ。

 負ければ恥知らず。

 勝てば恥の上塗り。

 どちらに転んでもあまりいい成果とはいえないだろう。


「ちなみに、配合量が違うと言っていましたが、具体的にこの刀はどういった性質になったのでしょうか?」


「あ、それはあたしも気になる」


 全く、戦闘狂共め。

 見た目よりも性能を重視するのは血筋なのか。それとも、今までの生活のせいか。

 どちらにせよ、ここまで気になってくれているのなら、こだわって良かったと実感できる。

 配合量も含めて、作刀というのは非常に繊細で、研ぎ澄まされたもの。一つでも迷えば、鈍になってしまうほど、地道な積み重ねが重要になるものだからこそ、こだわりは一切取り消すのが鍛冶師の宿命である。

 しかし、しかしだ。

 そんなのでは、刀に命は――魂は宿らない。

 全身全霊を込め、あらゆる試行錯誤を経てできた刀にこそ、鬼が宿る。

 だからこそ、俺は嬉々としてこの刀に込めた気持ちを、こだわりを口にする。


「この刀は、なんとな。()()()()()()()()()()!」


「……」

「……」


 四季透。

 人生で感じたことがないほど、冷たく、蔑むような視線を味わうのは初めてで泣きそうです。

 俺の妹達の期待を裏切ることがこれほど怖いものだとは思いませんでした。

 とりあえず、胸を張ったことも含め、俺は地面に頭をくっつける。

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