第11話「邂逅」
提出用の作刀書に残すは所持者の氏名、印鑑のみとなった時、少しばかり遠くからチャイムの音が聞こえる。
「後もう少しで、ホームルームも終わるか」
数年前の自分の経験を引っ張り出して、そう予測する。
大体、入学式が終わればそれぞれの科の教室へ行き、そこで色んな注意事項だったり、後日提出する書類だったりが配られる。
その後は、部活に入っている人は部室へ。
帰宅部なら寮へ帰るか。
鍛冶場へ行く人間は、そっちへ行く。
いわゆる自由行動になるわけで、その時間は昼前がほとんど。
「ついでだし、次作る刀の構想でもまとめとくか……」
そう思い立ち、適当なルーズリーフを取り出した瞬間――。
「かたなあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
怒号とも。轟とも。怒声とも。どちらにもとれるほどのうるさい声が出入口を豪快に開け放ちながら、聞こえてくる。
「うるさい。静かにしなさい」
「は、はいぃ……」
声の主へ向かって、躾のように言い放つとシュンと露骨に落ち込む。
犬みたいなやつだな。
「叶だけか? 他の二人は?」
入ってきたのは、四季家長女にして豪快な俺の妹。
にしても、男でも叫びながら扉を開けたりなんていう奇行はとらないが。
「ん? あぁまだホームルーム受けてるはずだよ」
「は? まだてなんだよ――お前、まさか……抜け出してきたのか」
「ご明察ですお兄様やい。面倒だし、どうせ書類提出するくらいでしょ。別に今聞かなくてもいいし、後で夢ちゃんか望ちゃんに聞けばいいし」
こいつ……。
面倒事でもないものを妹に押し付けたのか。
「中には個人書類だとか、刀剣登録書類とか大切な物もあったはずだぞ」
「え、そうなの」
「当たり前だろ……」
刀剣を扱う学科でもあり、学校でもある。特に、高校生という多感な時期にそういった危険な物に触れるわけだ。
プロの選手がしている登録書類だったり、誓約書だったり、厳しいからこそスポーツとして成り立っている側面もある。
この妹は、そんな大事な選手生命に関わるような事からも抜け出してきたのだ。
馬鹿者が。
「ちなみに、説明を聞いていない生徒は刀持てないからな」
「え!? そんなご無体な!」
「いや、当たり前だろうが……」
学校側も説明責任がある。
どんな時に帯刀していいのか。どこまで持ち出していいのか。許可書の書き方だったり、色々しなければ認可なんて下りない。
だからこそ、入学式に説明を行い、申請書を受け取りに来た生徒へ毎回注意事項を説明するなど、しっかりとした体制ゆえに、刀剣を持つことができるのだ。
「――叶ちゃん、嘘をつくのもそれまでにして下さいね」
と、これから叶へ口酸っぱく説教をしようとした瞬間、開け放たれた扉から呆れるような笑みを浮かべながら夢が入ってきた。
「あれ、説明会は?」
叶が言っていた通りならば、今は先生からの説明会の最中なはず。そこへ真面目に参加しているであろう夢を目撃して、俺の脳内も若干の混乱が巻き起こるが――
「既に終わっています。ちゃんと叶ちゃんも説明受けていますし誓約書も貰っていますよ」
「おい、叶」
「へへ……」
嘘までついたのは何故かは分からないが、少なくとも俺を騙して楽しんではいそうだ。
にしたって、嘘にしては性格が悪いとは思うが。
そもそも、俺だって性格がいいわけでもないし、褒められたようなものではないので、黙っておこう。
なんにせよ、説明を受けているのなら今後作刀が済んだ刀の受け渡しが楽でいい。
まぁ、最低限の注意事項は言わなきゃダメなんだが。
「で、望は? てっきり一緒に来るのかと思ってたんだが」
夢の背後から気だるそうに登場しそうな人物がいないことを質問すると、いかにも夢は妬ましいような僻んだような苦しい顔をする。
え、そんな顔しなきゃいけないことでもあったのか。
「教室を出るところまでは一緒だったんですが、出がけで男の子に声を掛けられまして、それの相手をしに行ってから来るそうです……」
「え、何、望ちゃん告白されるの?」
「え、そうなの? 入学式直後で告白されるとかアイツどれだけモテてるんだよ。都市伝説並じゃないか」
見たことないぞ。入学式の後に告白される奴とか。
それこそラブコメゲームのヒロインくらいな確率だ。
……いや、それだとそこそこいるか。
「そういうことなので、遅れるとの連絡も受けているので先に刀の説明をしてください兄様」
いや、そんな恨めしい顔で頼まないで欲しいんだが。怖いよ。なんで、異性関係でこんなにも嫉妬することがあるのか疑問ではあったが、言われた通り俺は先ほど仕舞っていた刀を持ち出した。




