第101話「四季家の弱点判明!?」
「はい、おはこんにちは。これでいいのか? はい、世間をある程度お騒がせしました九鬼と言います」
九鬼道寛はモニターに乗せた小さなカメラに向かって語る。といっても、そこに相手がいるわけではない。彼は虚空に向かって――パソコンに向かって話している。
そして、二つのモニターは九鬼の目の前で様々なウインドウを開いている。音声。撮影映像。更には、自分がこれから見るだろうLIVE配信のアーカイブ。
「まずは、この度このような機会を頂けることになった壱鬼様に多大な感謝を。ありがとうございます」
彼は頭を下げる。
いつぞやの、四季透と相対した時のような激情はなく、冷静な大人らしい所作である。
しかし、九鬼は頭を数秒ほど下げては、上げて。
「さて、今回は四季家の弱点――つまるとこ、LIVE配信をご覧になった方や模擬戦を見た人ならば、ご理解いただけると思いますが。四季家は――四季透ですね。彼は尋常じゃないほどの身体能力を有しています」
至極真っ当に。
まるで研究者のように、事の次第を淡々と呟く。
「これは所謂、鬼の呪いと呼ばれるものでして。この説明はまた後でしましょう。話せば長くなりますし、戦国時代まで遡った方がいいので、尺の都合もありますから」
少しばかり、茶化した笑みを浮かべる。
いかにも外向けの貼り付けた笑顔。それを見破れるのは、壱鬼か天井裏の存在不証明くらいだろう。
「そんな鬼の呪い。簡略的に言えば、寿命を削って身体能力の強化が施される。と、思うんですが、実際には違っていまして。
身体能力の強化はオマケで、ただ寿命を削っているのは正しくて。あくまで心臓を拍動させることに負担を掛けているのが鬼の呪いです。車のエンジンを馬鹿みたいに稼働させた状態ですね」
戦闘中、ある程度心臓の鼓動は早くなる。運動時であっても、それは息切れするようなもので、一般人においての負担は定期的に運動しておけば、健康にいい程度。
しかし、四季――鬼の呪いを受けた一族はその類に当てはまらない。
むしろ、逸脱してしまう。
それが皮膚の紅潮。長時間の刀との接触による意識喪失。無理に稼働を促され、全身の血液が激しく駆け巡り、行き場のないエネルギーが身体中で暴れだす。この状況を自分の体に起きている。それが九鬼にとっては、おぞましいものだという認識は揺るがなかった。
意図的に寿命を削られ、長生きするはずの人生が短命となる。自分が死ぬ時はいつだって分からないが、確実に近づいてきているスピードが早いならば、それは恐怖でしかない。
しかし、それはそれ。これはこれ。鬼の呪いは、鬼の呪いとして考えなければいけなく、今九鬼のしているのは四季透の弱点を露呈させること。
彼は、息を吐き出しながら、思考をスッキリさせる。
「つまり、彼の戦い方――四季家の戦い方というのは基本的に短期決戦仕様になっているわけです。私との模擬戦を見た方ならご存知かと思いますが、超人スピードでの居合抜刀。桜坂選手との一閃。雨曝選手へ向けた刀の投擲。これらが短期決戦かつ刀に最低限触れることを前提にした動きになっているわけです」
四季家の強さはそこにあり。むしろ、弱さを覆い隠すほどの強靭で狂人的な剣術。それを可能にする鬼の呪いで無理やり向上した身体機能。
常軌を逸した動きの数々を思い返せば、九鬼は信じられないと言いたげに肩を竦める。
「もちろん、戦術しかり戦闘における駆け引きなんかも十全に備えている中で、あんな一撃を与えてくるのですから、とてもじゃないが対応出来るだけでも凄いわけです」
今回の桜坂、雨曝は奇跡的なほどに対応していた。死にものぐるいではあったものの、他の人であれば一分ともたなかった試合を長引かせた。
なにより、雨曝は四季透が意識を失うギリギリまで持ち堪えたのだ。こればかりは、九鬼だけでなく壱鬼も想定していなかったことだろう。
「じゃあ、四季透が手を抜いた。手加減をした。と思う方もいらっしゃるでしょう。当たり前です。私だって、重要な試合が連日続くとなれば、どこかで体力を温存しておくことだって考えます。
特に、壱鬼選手や強力な選手が相手にくることが分かればなおさらそのようにするのは、誰からも咎められることのない判断だと言えます」
常に全力疾走を続けることはできない。
常に集中力が続くことはない。
いつしか、歩調が遅くなり、気が散るようになる。それが当然であるからこそ、途中で意図的に行うのは珍しい話ではない。
「というわけで四季透が手を抜いたかどうか、この九鬼道寛が監査していこうと思っています。フェイントの意味や意図、更にはどうしてそんな行動をとったのかといった考察まで行います。
もちろん、四季透だけでなく壱鬼選手のことも解説していくつもりですので、良ければチャンネル登録をしていただければと思います。それとグッドボタンにベルマークの通知もONしてください。
また、コメントでもここはこういう意味があって動いているんじゃないか、など気軽にコメントしていただければ嬉しいです」
お決まりの口上。
決めきった表情。
これが動画投稿者ゆえの立ち振る舞いなんだろう。
九鬼の中にふつふつと湧き上がってくる羞恥心と、言いようのない高揚感。試合とは違い、誰かに教えるということや、知識経験を解説する優越感が彼の心を満たしていく。
だが、そこで九鬼は言わなければいけないことがあったのを思い出し、慌てて言葉を繋ぐ。
「あ、最初に言っておきますが四季家の弱点は長期戦です。一向に倒れない相手やいつまでも攻撃を回避し続ける相手を苦手としていますので、もしそれらを得意としている選手は、是非とも活用することをオススメしておきます」
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