第1話「プロローグ」
むかしむかし、かの地にて侍がおったそうな。
その者、侍でありながら刀を使わず。
己の体を刀とし、腕は斧のように鈍重でありながらも鋭く素早く切れ。
脚は鎌のように刈り取りながらも、力強く荒々しく切ることができたそうな。
その者、刀を持たず、侍だと声高々に名乗る奇妙な者ではあったが、悪鬼羅刹を掲げ、世に蔓延る鬼どもを退治しておったそうな。
その者には刀すら届かず、弓矢でさえも届かず、数多の鬼どもを切り伏せていったそうな。
鬼どもを完膚なきまでに切り伏せていく姿から、鬼よりも鬼と恐れられはしたものの。
その者、流浪の身でありながらも、困っている人は放っておけない程、心の優しい者であったそうな。
優しく、鬼よりも強い剣士でありながら拳士。
その者の噂は、瞬く間に山を越え広まっていったそうな。
かの地では、悪鬼羅刹の羅刹として。
かの地では、鬼殺しの鬼として。
かの地では、救済の現人神として。
かの地では、鬼よりも恐ろしい鬼として。
その者は刀を持たぬ侍でありながら剣士であり、拳士でありながら、刀鍛冶でもあったそうな。
己の体を刀にしながら、刀を打つ奇妙な存在として。
その者が打った刀は千を超え、その刀を持つ者、その刀を持つ国は、天下を取れると曰く付きの刀を打っていたそうな。
ある刀は妖刀として。
ある刀は霊刀として。
ある刀は名刀として。
ある刀は御神刀として。
ある刀は鈍として。
数多の鬼を倒しながら刀を打つ侍であり、尊敬され、噂を嗅ぎつけた者から弟子になりたいと、多くの者がその侍の元に訪れるが、弟子をとることはなかったそうな。
だが、その侍は後に家族を持つようになったそうな。
息子と娘。その二人であったが、それぞれを己の持っている全てを伝承させていった。
その者の血は絶えることなく、今に繋いでいた。
鬼の呪いも繋ぎながら。
舞台は今に戻る。
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