人狼
村で誰かが殺された。
遺体は原型を留めていなかった。村人全員が、それが誰なのかかが分からないくらいに。
村人は遺体が置いてあった倉庫に集って、その原因を考えた。
「狼だ。狼に食われたんだ。」
「いや、狼は絶滅したはずだ。これは熊だ。やばいぞ。人の味を覚えた熊は餌を求めてまた人里にやってくる。」
「でもおかしくはないかい。家畜は一匹も食われてないぞ。狼であれ、熊であれ、なんで人を襲うんだい。」
後ろから、たまたま村に来ていた行商人が声をかけてきた。
「他の村で聞いたことがある。それは、村に人狼がいるからだ。」
村人の視線は行商人に集まった。
「あの、人狼とはなんでしょうか?」
「人狼とはその名の通り、人の皮を被った狼。普段はその牙を隠して皆と生活しているが、夜になると徘徊して、村人を食らうんです。」
「そんな恐ろしいものがこの村に・・・ああああどうしよう。」
村人のひとりが発狂した。
「でも、安心してください。この銀の弾丸を撃ち込めば、どんな化け物でも倒すことができますので。」
村人はこぞって行商人から銀の弾丸を買った。
その日の夜。
私はそんな時に限って、とてもお腹が空いていた。
――くそう。屋外にある倉庫に行かないと食料がない。でも人狼が徘徊しているかもしれないし・・・そうだ、銀の弾丸を持っていけば。
例の行商人から買った弾丸を銃に装填して、倉庫へと向かった。
倉庫は家からそれほど遠くない。それでも用心しながら歩いていると・・・前方で物音がした。
倉庫がある方である。
――人狼か。
私は銃を構えた。ソロリソロリと勘付かれないように近づいていって・・・倉庫の隙間から中を覗いた。
倉庫にはばらばらになった女性の遺体と、それを見つめる茶色いふさふさの毛に覆われた人間がいる。
――これが、人狼なのか。
あまりの恐怖に、撃ち殺せる気が全く起きなかった。見なかったふりをして、そっと帰ろうとした。
その時である。
「そこのお前、動くんじゃない。動いたら打つぞ。」
後方から人間の声がした。
「ついに見つけたぞ・・・人狼が。」
――人狼?いや、待ってくれ、私は・・・
「おいおい、お前たち、何物騒なものを持っているんだよ。落ち着けって。」
倉庫側から、別の声が聞こえた。
「全く、夜の記憶を無くしちゃうからホントにたちが悪いよな。まあ、実は俺も持ってきたんなけどな・・・銀の弾丸。」
「人狼がふたりも・・・おい、動くな、お前も動いたら撃つぞ。」
「だ・か・ら。落ち着けって。自分の姿をよく見ろよ。」
鉄砲を構えた男は、何かを思い出したように笑った。
私も、二人の会話を聞いて、やっと思い出した。
――そうか。そういえば、お腹がすいたから、あの女性を食べに倉庫に来たんだってか。つまり、私も・・・。
手を見ると、茶色いふさふさの毛がいっぱい生えていた。
そんなやり取りをしているうちにも、ひとり、またひとりと人狼が倉庫に集まってきた。――皆が銀の弾丸を携えて。
集った人狼らは、飲み会の翌日のように、記憶のすり合わせをした。
「そうだ、あの時たまたま村に来ていた女だった。夜に皆で襲って殺したんだ。すっかり忘れていたよ。」
「てか、どうするんだよ。俺たちは飯を食いにここに来たんだぜ。なのに、あの女はもう食べるところがないぞ。」
「こんなにもお腹が減っているのに、食べるものがないなんて・・・ああああどうしよう。」
人狼の一人が狼狽した。
「いや、安心しな。俺にいい考えがある。」
皆の視線がその人狼に集まった。
「皆で行商人のところに行こうではないか。」
読んでいただき、ありがとうございました。




