第17話
今回もまた自作歌詞を載せていまーす
この曲で、誰かを励ましてたらいいなぁといつも考えている作者です
「いい曲だ」
聞き終えた孝介は素直な感想を率直に告げた
学生にしてはいい曲だと孝介は思えた。無論、歌詞などにまだあどけなさが残るようだったけれど、それは言わないでおいた
彼は嬉しそうに顔をほころばせて、小さくお辞儀をした
「光栄です。ありがとうございます」
自分なんかの意見を素直に受け止めて喜んでくれている。孝介はそれだけで胸の中に空いた穴が少し埋まったような感覚を覚えた
あれから少し自暴自棄なとこがあるせいかもしれない
そのとき、孝介のポケットに入れていた携帯がなった。少し驚いて、携帯を取り出してみる。すると画面には仁美からの着信と書いてある
すかさず孝介はボタンを押した
「はい」
『当たりよ』
出るなりに電話から仁美の声がそう言った。孝介は胸の中に熱い感覚を覚えた
「本当ですか?どこです?」
『中村不動産屋よ。彼女は確かにそこで、駅近くのアパートを探してた』
仁美から見せてもらった資料に、中村不動産屋の名はあった。孝介は少し驚いた。中村不動産屋は孝介も知っている。というのは、孝介のアパート近くの不動産屋で、実際孝介もアパートを借りる際にそこから紹介してもらったのだ
まさか……例の彼女は孝介のアパート近くにいるのだろうか……
「中村不動産屋は俺の家の近くです」
『そうなの』
「はい。俺もアパートをそこで紹介してもらいました」
『本当に?すごい偶然ね』
「これからどうします?」
仁美はしばらく考えたあと、小さくため息をついた
『とりあえず今日はここまでにして事務所に戻りましょう。拓郎さんに報告しなくちゃ。今私駅前にいるから、孝介くん悪いけどこっちに来てくれる?』
「了解しました」
孝介は電話を切ると、携帯をポケットの中にしまった。依頼解決の手口にようやく踏み出したという感じだ
孝介は目の前の彼に笑顔を作った
「素晴らしい曲。どうもありがとう。これからも頑張ってくれ」
といいながら、財布を取り出して、曲を聞かせてくれたお礼のように手持ちにあった分の三千円を取り出して彼に渡そうとした。しかし彼は逆に笑顔でそれを制した
「いりません」
「そういうわけにはいかないよ。こっちの気が済まない」
「いいんです。憧れの人からお金なんてもらえません」
孝介はその言葉を聞いて半ば驚きながら、解釈するのに困難の道を極めた。憧れの人とは一体どういうことだ?彼とは初対面だ。だから孝介にはまったく身の覚えがなかった
「音無さん……ですよね?」
「え?」
彼は自分の名前を知っている。何故……
「やっぱりそうだ。fingersのボーカルの音無さんでしょ」
「……fingersを知ってるのか?」
孝介は軽く興奮をしていた。あとは驚きを占めている。何故彼が……fingersを知っているんだ?
彼は嬉しそうに、孝介に羨望の眼差しを向けていた
「二年前……ショッピングモールの広場のライブを見ました」
「え……」
「今でも鮮明に覚えています。音無さんの歌声、そしてfingersの曲を……」
今から二年前……彼が高三のときに大学受験に苦しんでいた時期……
志望校の首都大を狙っていたが成績不振で思うように行かず、途方に暮れていたという
彼の両親は成績不振の彼を咎め、彼はそんな生活に嫌気が差していた
しばらく勉強から身を引くようになってしまった。すべてを投げやりに中途半端に……もう何かもが嫌になっていたそんな時期だった
とあるショッピングモールに買い物をしていたとき、そこの広場で一つのミュージシャンに巡り会ったという
それが……孝介の率いるfingersだった……
「そのとき俺、正直あなたたちが羨ましかった。自分みたいに悩みなんか抱えてなくて、好きなことを思いっきりやっている。そんな姿が羨ましかったのと同時に、何だか腹が立って」
彼は照れくさそうに鼻先をポリポリと掻いた
「でも、そのときあなたの曲を聞きました」
いつにしたってさ
道なき道を歩き続けてきた今の僕です
いろんな物を踏み台にしては背伸びして手を伸ばしてた
あやふやな現実に目を背けて過ごすけど
そこからでも見えてきてしまうだろう
遥か彼方に落ち込む君が
一つ一つ昇るけど
一つ二つ下りていく自分がいて
ちっとも前に進むはずがなくて
だけど当たり前のように足掻いてる僕がいる
若き僕が大人への階段なら楽に昇ってるよ
けど空疎な物しか見えなくて
Ah 大した意味じゃないさ
ほら よく見てみなよ
新しいドアの向こうへ いざ行け
本当に僕らは確かに成長してきたって言えるかな
意味など知らないから答えることなど出来やしないんだけど
いつだって人の言葉を頼りに歩いてきたけど
結局たどり着いた場所に立てば分かるんだ
そこがどこなのかを問いただす
一つ一つ歩くけど
一つ二つ下がってく自分がいて
ちっとも前に進めやしないなんて
叫び声を挙げる僕がいんだ
暗い闇の中で一筋の光を探すように
Ah 自分の言葉だけを ほら その手で祈るように
新しいドアをノックするんだ 彼方へ
誰かと過ごしても
何を考えても
無垢な自分を追い詰めるだけだろう
嫌になることも
全て忘れればいい
なんて都合よく行くはずなくて…
一つ一つ昇るけど
一つ二つ下りていく自分がいて
ちっとも前に進むはずがなくて
弱虫なこんな僕に効く抗剤があればいい
なんて考えちまってる始末で
一つ一つ歩くけど
一つ二つ下がっていく自分がいて
ちっとも前に進めやしないなんて
叫び声を挙げてる僕がいんだ Ah
己自身を照らし示す道が ほら 目の前に
自分のために
新しいドアをノックして
新しい場所に立つ
それが僕の選んだ答えです
新しい何かを見つけに行こう
【果てしなき道】
確かにそれは孝介が作った曲だった。間違いなく、fingersの新曲が当時のそれだった……
「その曲を聞いたとき、俺本当に感動しました。まるで自分のための歌みたいな……そんな錯覚を覚えるくらい……」
彼は思い出しながら小さく笑っていた。照れくさそうにだけど嬉しそうに……
その後彼はそのときその曲が収録されているCDをその場で勝って、家に帰って何度も聞いた
そのCDはもちろん孝介たちfingersが自分たち自身で収録し、許可をもらって販売していたものだ……
何度も何度も聞いてくれたという。そしてその曲に後押しをしてもらうかのように、再び勉強に打ち込んだという
「俺もあなたたちみたいな曲を作りたいんです。あなたたちみたいに、俺の歌で誰かの心を響かせるような……まだまだ未熟ですけど。だから俺の中であなたたちは俺の……憧れでもあって目標でもあるんです」
彼はそう言うと、照れくさそうな笑顔を見せて孝介に向けて微笑んだ
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