第11話
更新遅くなってしまってごめんなさい汗
最近何かと忙しくて……
それと、このSing With Songsに出すための自作歌詞を作成していました。あまり良い出来ではないかもしれないですが、気に入ってもらえると嬉しいです。
感想や評価があまり来ない状況で寂しい思いをしている健です……感想だけでもいいので、もしよろしかったらしてください。待ってます……
報告!
グッラブ!3についての情報を活動報告の方に書き込んでおきますので、これまでグッラブ!シリーズをお読みになった方はご覧ください
喫茶店を出ると、再び騒音にまみれた道に飛び出した。孝介は浮かない顔で空を見上げる。まだ拓郎の助手に就いて日は浅いと言えるが、今日ほど嫌な場所に立ち会うことはないだろう
それくらい今日の彼の話を聞いて孝介は複雑な想いにさせられた
中で会計を済まして出て来た拓郎に肩を叩かれる。孝介は振り向いて見ると、拓郎は歯がゆい表情をしていた
「行くか」
孝介は静かに頷き、ゆっくりと歩き出した。上野駅に向かって歩いている途中に、拓郎が口を開いて言ってきた
「……佐々木博也は――」
拓郎が次に何を言うのか分かっていた。それでも孝介は拓郎の言葉に耳を傾けた
「今のお前と同じだな」
孝介は答えず目を伏せた。その通り、佐々木博也は……今の孝介と同じだ。孝介も同じく夢に破れ、目の前の現実に打ちひれ伏している、一人の敗北者だ……
彼に共感してしまったのは、無論そこに関係していたと言わざるを得ない
孝介と彼は同じなのだ
才能無き人間がどんなに頑張っても、所詮落ちこぼれは落ちこぼれ……
分かっていたことだが、他人の口からそれを聞くと自分がいかに愚かだったのかを再確認にさせられ、残るのは雪辱な思いだった
孝介は五年近く、ましては彼はその倍を努力した人間だ……
孝介は静かに目を伏せて、佐々木博也のことを思い出していた
「アカデミーも辞めて、俳優の夢は諦めました。今は日雇いのバイトをして……生活をなんとかやりくりしてます」
彼はそう言って物恥ずかしそうに笑った
「それでも私は、もしかすると本当はまだ諦めたくなかったのかもしれません」
「……と、いうと?」
拓郎は静かに聞いた。佐々木博也は小さく笑って答えた
「もし完全に諦めているのであれば、私は恐らく……すぐに母に連絡をし、実家に帰ってたでしょう。しかしそれをしなかったのは……」
「なるほど……」
「でも今日で踏ん切りがつきました。いつまでも母に心配をかけているわけには行きませんので、しばらくしたら実家に帰り一からやり直そうと思います」
「そうですか」
「とりあえず、大検を受けようかと思っています。この御時世ですから、就職するのには今のままでは厳しいんで……」
佐々木博也は別れる際に、拓郎と孝介を見て何度も何度もお辞儀をしてきた。その表情は初めとは異なり、晴れやかで良い顔をしていた
そのことが孝介をさらに苦しめていた。彼の嬉しそうな笑顔が頭の髄まで染み付いてしまったように、離れないのだ
「今回の依頼は……俺にとっても一番苦痛なものだったかもしれんな」
「……叔父さんも?」
「あぁ、一人の若者の人生の別れ目に立ち合ったんだ」
拓郎は深く息を吐いて、歯がゆい表情を浮かべていた
「才能……か……」
そう寂しく呟く叔父を孝介は見つめた
「努力してきて報われなかった人ほど、惨めなもんはないな……」
孝介はその言葉を聞いて、何も言い返すことが出来なかった。先ほどから拓郎の言葉が酷く胸に突き刺さる。佐々木博也の姿を今の自分と重ねてしまうことが、今の孝介にとって何よりも苦痛なことだった
拓郎と孝介は事務所に戻り、新たな依頼も来ることなくただ刻々と時間を過ぎるのを待っていた
事務所に戻ってから、孝介は早速メモを元に報告書を書き上げていった。これらを全て作成し、元の依頼人である佐々木博也の母親に検討してもらい、それらを踏まえた上で今回の調査費用プラス依頼料を頂く
その前に当然だが、拓郎に目を通してもらわなければならない
ということで、孝介は書き上げた報告書を手に持ちため息を吐いた。自分の目で何度か確認をしてから、立ち上がって拓郎の元へ歩み寄る
「叔父さん、出来たよ」
「ん」
拓郎は報告書を受け取ると、それに目を通し始めた
「……うん。いいだろう。ご苦労様」
孝介は再、ため息を吐き出した。これまでにいくつも指摘され続けてきて、何度も直してきた。しかし今日は一発オッケーをもらった。どうやらようやくこの仕事にも慣れてきたようだ
「じゃあ……俺、帰るよ」
「え?もう帰るのか?」
時刻は五時を過ぎていた。孝介は自分の席に戻り、荷物をまとめながら言った
「あぁ。今日ちょっと用事があるんだ」
「用事?」
「人と会う約束してんの。悪いけど、今日は帰らせてもらうね」
荷物をまとめ、鞄を持ち孝介は再び拓郎の前に立った
「何だ、そうなのか。せっかく今日依頼達成の祝いに飲みにでも行こうかと考えてたのに」
拓郎は渋々、残念そうな表情で孝介を見た。孝介は拓郎に小さく笑みを見せた
「悪いね。また今度行くよ。佐々木富美は、いつ報告書取りに来るんだっけ?」
佐々木富美というのは、今回の依頼人であった佐々木博也の実母である。報告書を取りに来るときには、その概要を拓郎と共に説明するのも孝介の仕事の一つである
「えっとちょっと待てよ……来週の……火曜だな。三時半だ」
「分かった」
「おう。もう一件の依頼に関してなんだが、仁美くんが中々手こずってるらしい。明後日の午前中、彼女といっしょに調査の方頼むよ」
「あぁ……あっちの方か。分かったよ」
孝介は了解して、スケジュール帳にそれらの事柄を書き加えた
明後日、宗方仁美と午前中調査。来週の火曜日に依頼人佐々木富美が報告書を取りに来る
孝介は確認をすると、時間をチラリと見る。そして少し急ぎ足で音無探偵社を後にした