第0話
新連載ですっ!(b^ー°)
この話は、自分が今まで培ってきた文章力を生かしていく作品にしたいと思います
なので丁寧に描写していくので、更新は時間かかるかも……
グッラブ!の方も読んでくださいっ!
「本作のあらすじ」
才能がないといわれ、バンドも解散し、夢に敗れ途方に暮れていた一人のロックシンガー、音無孝介はある日交通事故に遭ってしまう。
目が覚めた病院先で、これから先のことを考えているそのとき、声が聞こえた。
「中々面白い曲だね」
病院で出会った、類い希ならぬ音楽の才能を生まれ持ちながらも、重病を患っている一人の少年、奏。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんに僕の音楽を全部あげる」
………これはある一人のロックシンガーと、音楽の才能を持って生まれた一人の少年の奇跡の秘話である
※この作品は大人の男性視点のため多少性的に関する表現が御座いますが、R-15指定にするほどの直接的な表現は御座いません。少しでも不快に思われる方へ予め御了承お願いします。
「音楽はね僕らと同じ、生きてるんだよ」
誰かがそう言った
意味を捉えることが出来なかった俺はすぐに聞き返した
「生きてる……っていう表現はおかしくないか?」
例えば躍動感のある歌だ、とか、情景が見えてくる曲だ、とか。
比喩的な表現であれば、幾らでもそういう表現で言い表すことは出来る
それは音楽に限ったものではない
しかし今俺の目の前にいるこいつは、頭を使って比喩的な表現で見出そうとはしていない
「音楽は生きている」と言っている
例えば、俺たちのように会話をしている。呼吸運動を行って息を吸ったり吐いたりしている。またや多様な感情を持ち合わせている
勿論、音楽は言葉なんか発しない。呼吸をして息を吸ったり吐いたりしない。喜んだり、悲しんだり、怒ったりはしない
それでもこいつは言う
「音楽は生きている」、と。
「ううん、音楽は生きてる。僕たちのように話をすることも出来るし、呼吸だってする。色んな感情を表現したり、リズムに乗って踊ったりだって出来る」
もちろんそれは
「“音”で全て表すんだけどね」
そう話すそいつの目は輝いていた。話すことを楽しんでいるように思えた
生き生きと話すそいつの姿は、まるで「音楽」の気持ちを代弁して話しているようだった
「歌を歌ってるだけじゃ、お兄ちゃんはいつまでもダメなままだよ」
「ふん……じゃあ何か?音楽の気持ちになって歌えとでも言うのかよ」
俺は嘲笑してそう言ったつもりだった。けどこいつは子どもらしい笑顔を満面に見せて言ってきた
「そうさ。“歌を”歌うんじゃないよ。“歌といっしょに”歌うんだっ!」
あいつにそういわれてから、随分月日が経っていた。俺は素っ気ない柄のフローリングで覆われた小さな楽屋の中、一人片手に煙草を持ち、煙をふかしていた
五年とはあっという間だ、俺にしてみれば……
こう煙草をふかして、一人になる時間を持つと……不思議にもこれまでの長い人生を振り返る
そしてその中で取り分け思い出すのが、たった今も思い出していた、そいつの言葉だった
その会話の部分が、その一瞬が、まるで走馬灯のように瞬間的に脳裏に浮かぶ
脳内でその記憶という噴水が瞬間的に湧き出すみたいに
そのことについて、俺は皮肉なことだと感じていた
結局五年経って、一流のシンガーとして名を馳せた今でも……俺はあいつに説教を食らっているわけだ。もちろん、それは俺の過去の記憶の中で
いや、今だからこそなのかもしれない
今だからこそ、俺はあいつのことを思い出すべきなのだ
初心に振り返るとはよく言ったものだ
湧き起こる感情が物事を感慨深く思考をさせてしまう
俺は考えるのも嫌になって、思考を止めるかのように煙草の火を消して吸い殻を灰皿に捨てた
そして傍らに置いてある楽譜ノートを手に取った。俺が一流のシンガーを目指していたときからずっと愛用し続けていた楽譜ノート
すでに年季がいっていて、表紙の部分は幾らか色褪せている
俺の音楽がいっぱい詰まっている楽譜ノート
例え使い切ったとしても到底捨てる気にはなれないだろう
表紙を開いて、パラパラとページを捲った。今日披露する新曲がノートに刻まれている。ギター&ボーカルとして最終チェックを……
そのときにノートからひらりと紙のようなものが落ちた。俺は落ちたそれをすぐに拾う
手に取って見る。それは写真で、そこに写っているのは紛れもない俺自身。愛想のない顔でいかにも面倒くさそうに写っているように見えるのだが、実はこのときの俺は非常に照れくさく、わざと無愛想な表情を作って照れ隠しをしているのだ
そしてその写真に一緒に写っている、小生意気な印象しかない子供がいる
当時十歳かそこらの子供が、まだ幼げ残る子供らしい笑顔で満面に笑っている
写真を見つめていると、いつの間にか口元でにやけている自分に気がついた
そして写真を見つめながら、再びあのときの場面が脳裏に浮かんだ
「“歌といっしょに”歌う?悪いけど、意味が全然分からない」
そんなの二十を過ぎた大人の俺から言わせてみれば、せいぜい小学校の低学年まで言い使えるような、慣用的な表現だった
さっぱり理解出来ない
歌といっしょに歌うことなんか出来るはずがないだろう
「お兄ちゃんはもっと柔軟な頭を持つべきだよ」
「柔軟だろうが堅かろうが、子供の言うことは理解し難いね」
俺はまた所詮子供の言う戯言だと思い込み、大人気なく嘲笑した
大人気なくなるのも仕方がない。目の前にいるこの「ガキンチョ」は憎たらしくなるほど小生意気なのだ
「ガキンチョ」は呆れるようにため息を出した
「ほらまた……お兄ちゃんは何でも否定から入る。よくないよそれ。大人になるとみんなそうなるの?」
大人になるとみんなそうなるのかどうかは知らない。断言出来るほど、俺はそこまで人生を長く歩んでいない
「かもな」
俺は結局そういう曖昧な答えを返した。そいつは「ふぅ〜ん」と言ってから、再びあの子供らしい笑顔を見せた
「でも分かんないかなァ?つまりさァー、あー……えっと……」
そいつは頭の中で言葉を唱しながら、言いたいことをまとめた
「えー……つまりね?“Sing song.“じゃダメなんだよ」
俺はそれを聞いたとき、少し驚いたように口をポカンと開けた。それからすぐに可笑しな発言をするものだなと小さく笑った
「小学生のくせに英語が出来るのか」
「今の小学生は英語もちゃんと勉強するんだよ。お兄ちゃん知らなかった?」
「知らなかったな。けれどそれはただ英語に纏めただけだ。上手く言い換えられてはいない。それに文の構成も間違っている。“歌を歌え”と言いたいなら、“song”に冠詞をつけるか、複数形にしなければダメだ」
そこのところは随分子供っぽいところがあるのだなと、俺は可笑しくなって声を立てて笑った
そいつは的を射られたのが恥ずかしかったのか、赤面していた
「うるさいなぁ……まだ勉強中なんだもん……“カンシ”とかそんなの分かんないよ。お兄ちゃんは大人気ない」
「かもな。で、結局何が言いたいわけ?」
俺が再び聞いてみると、そいつはまたしばらく考えてから、俺に言ってきた
「だから……“Sing with songs”ってことォッ!」
途端に部屋のドアが開いた。俺は途端な出来事に驚き、目線を写真からドアの方へと向けた。外から入ってきたのは、大学時代から付き合いのある、俺たちのバンドのメンバーの一人、カズが入ってきた。カズはメンバーの中で一番仲の良い存在だった
「孝介。そろそろ時間だよ」
カズの言葉を受け、俺はゆっくりと頷いた
「あぁ」
俺が頷くと、カズは部屋に入ってきて、顔を覗かすように言ってきた
「何見てんだ?」
カズにそう聞かれて、俺は写真を見つめながら小さく笑った
「別に……ただ懐かしさにふけてるだけ」
カズは俺の言葉を受けると、その写真に目をやった。そこに写った少年を見ると不思議そうに俺に尋ねた
「この子……確かお前があんとき言ってた子だよな」
「あぁ」
カズは突然物珍しそうに俺を見始め、急に茶化すようににやけてきた。カズは笑うと、何故か急に豊頬な美少年の顔へと変化する。それは大学時代から変わらなかった
「へぇ……お前が物を振り返ることがあるなんてな」
確かに周りからそういわれることが度々あるのかもしれない。俺にはどうも、過去は決して振り返らず、そして未来の先も見つめることはなく、ただ目の前の現状をこなしていく。悪く言えば地味なとこ、良く言えば現実主義なとこがあるらしい
確かに過去なんか振り返っても、またや未来の先を見据えても、あるのは目の前の現状だけ。そう言ったものはするだけ無駄、という考えがあるのだから、まったく嫌になる
俺は小さくため息を吐き出すと、写真を再び楽譜ノートに挟み、パタンとそれを閉じた
「たまには俺だってそういうことするさ。さぁ、行こう」
俺は大きなギターケースを持ち、カズとともに楽屋を出た。ステージまでの廊下を歩きながら、カズが訊いてきた
「孝介はその子にすごく感謝してるんだろうな」
まるで客観的な物の言い方に、孝介は首を傾げて小さく笑ってしまった。言っていることは正しかった
革靴の足音が静寂な廊下に響き渡った
「……かもな。あいつと出逢わなかったら、きっと今の俺……いや、俺たちはいなかったろうし、あいつから教わったこともいっぱいあるから。感謝してるのは本当だな」
「……どんな子だったんだ?その子」
カズに聞かれて、俺は歩きながらしばらく考えた。どんな子……か……
こんなときどう言えば良いのだろうか……似合った表現が見つからなかった
あいつは、音楽の神童と呼ばれても不思議じゃなかった
不思議じゃなかったのだが、あいつは言っていた
自分は天才でも何でもない。モーツァルトやベートーベンのような神童でもない
ただ自分は音楽が好きなだけ
色んな音を感じることに喜びを感じるだけ
音を奏でたり、歌ったりするのが好きなだけ
“音”を“楽”しむことが好きなだけ
「小生意気なガキンチョだったな」
考えた末に、俺はそう答えることにした。この表現があいつに対するイメージが何よりも強かったのだから。カズは「ふぅ〜ん」と言うと、それ以上は何も聞いて来なかった
廊下を歩いていると、とあるドアの前まで来た
ドアを開けた瞬時、今まで静寂だった俺の空間は破られ、代わりに歓声や叫び声が入り混じった音の空間へと形を変えた
ステージ裏に入れば、当然なのだ
そのステージ裏には同じメンバーの、亮太と弘樹、そしてプロデューサーの貝沼さんが待機していた
そうだ。一応これが俺たち“KANADE Boys”(カナデボーイズ)のメンバーである
カズはドラム、亮太はベース、弘樹はギター1、そして俺はギター&ボーカルである
貝沼吾郎さんは俺らカナデボーイズの専属プロデューサーである
この道二十年のキャリア豊富な中年男で、細身で今年で四十歳なるわりには白髪混じりの髪。愛嬌のある笑顔にはメンバー全員から愛されている
「孝介、遅かったな。セットは用意出来てるぞ」
亮太にそういわれながら、俺はエレキギターを出してチューニングを行った
今日も良い音色を出してくれよ
そんな念をかけていると、プロデューサーの貝沼さんがメンバーを全員集合させた
メンバーに話をする際に軽く咳払いしてから話すのは、貝沼さんの癖みたいなものだった
「えーカナデボーイズのみなさん。今日のライブには何と二万人の方たちが来てくださっています。彼らに報いるためにも、今日は最高の演出を披露しようじゃあありませんかっ!」
二万人とは……また大勢集まってくれたものだ。さすがに緊張の色は隠せない
貝沼さんは始まる直前に、いつもメンバーたちの士気を高めてくれるような言い方をする
「えーこのライブが無事成功すればですね、また次々とテレビ出演のオファーが来てくれることと思います。少し忙しくなりますが、みなさん誠意を持って頑張りましょいっ!」
最後の可笑しな言い方にメンバー全員がどっと笑いを起こした。貝沼さんはこのように笑いをとって、緊張を解してくれる
貝沼さんが腕時計を見た
「時間ですっ!」
その言葉を聞いて、俺は深く息を吸った。このときに脈打つ心臓の音を聞き入る
トクン トクン トクン
「……よしっ!行くぞっ!」
俺はメンバー全員にかけ声をかけて、メンバーは大きな声で声をあげた
そして4人揃って、ついに……二万人の客の前でステージへと立った
鳴り止むことのない歓声を浴びながら、俺は眩しそうにスポットライトを見上げた
物凄い人の数に圧倒されないよう、そして緊張せずに……
何故かこの瞬間が……本当に心地よかったりする
メンバーが各々配置についたことを確認すると、俺はドラムのカズに目で合図を送る。カズだけではなく、亮太、弘樹とも目で会話をする
――行くぞっ!
カズがスティックでリズムをとる
……1、2、3っ!
孝介は何も最初から、今のように二万人の客の前で歌えるような大きな舞台に立てたわけではない
もちろんそれまでに、幾つもの挫折を経験し、失敗を繰り返してきた
そんな彼を救ってくれた、そして音楽の本当の意味をおしえてくれた一人の少年がいた
出来事は今から遡ること、五年前
これは、一度夢に敗れた一人のロックシンガーと類い希ならぬ才能を生まれ持った一人の少年の……奇跡の秘話である
Sing
With
Songs
第0話はプロローグという形にしたのですが、どうだったでしょうか?
何か表現がおかしいところがあったら、いつでもお申し付けください
評価 感想を待ってます(-.-;)