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選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第1章 約束された出会いもあれば、突然出会うこともある
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3-1. 小さい身体だからといって、他人より重い物を背負えないわけではない

 1時間目を七宮で無駄にしたが、なんとか昼休みまで漕ぎ着けた。

 今日は良い天気だし、中庭でご飯でも……いや、今日は月曜日。ならば教室で食べねばならない。それはなぜか。



 「次は、生徒会長のお話です」


 月曜日の昼休みも中盤に差し掛かった頃、各クラスのスピーカーから放送委員の声が響き渡っていた。週に1回この時間は、決まって生徒会長のお話が流れるのだ。


 「こほん。えー、みなさんこんにちは。生徒会長の雨衣です」


 まるで5歳かのような幼い声。しかし、間違いなくこの声はこの学校の首領、ドン、トップ。どんな言い方でも構わないが生徒会長、雨衣 絢愛(あまごろも あやめ)の声である。


 廊下からは「かわいー」という黄色い声援が上がっている。まるでママさん集団だが、実際問題、声だけでなく見た目もなかなかに幼く見える人なのだ。


 「えー、今週は特になにもありませんが、季節のかわわり、ちが、変わり目ですので、体調にはしっかり気をつけてください!えと、朝との、か、寒暖差がありますので、カーディガンなど着脱しやすいものをオススメしています!拝聴ありがとうございました!」


 と、まあ短い間ではあるが、こんなほのぼのした放送が流れる月曜日は、多少なりとも学生や教師たちの休み明けの憂鬱を軽減していると言えるだろう。

 現に、俺も中庭で食べるのをやめ、この放送で癒されようとしたのだから。

 

 生徒会長にそんな目的はないかもしれないが、そう彼女に言えば、きっと喜ぶに違いない。



 雨衣絢愛は1年生の頃から生徒会に入り活動をしていたと聞く。その時のことはよく知らないが、俺が入学した年、つまり去年からの活動はそれなりに知っているつもりだ。


 彼女が生徒会長になると同時に運動部と文化部はやる気を出した。そして結果を出し始めた。正しく頑張ったところへ部活動費を多めに割り当てると宣言したからだ。

 彼女が生徒会長になると同時に文化祭はなぜか少し豪華になった。より生徒に楽しんでもらうため、地域の大人を巻き込み、規模を拡大させたからだ。

 彼女が生徒会長になると同時に目安箱を設置した。しかし、これはあまり意味がなかった。誰もなにも入れなかったのだ。冷やかしの手紙一葉たりとも。文句も要望もなかったのだ。



 俺は昼休み、赤黄色に色づく中庭でパンを齧り、教室に戻る際、この目安箱を開いては落胆する雨衣絢愛をよく目にした。目についたと言うのが正しいのかもしれない。


 その姿を見る度に、文句がないのは良いことなのではないか?と思っていたが、毎日見ている感じではどうやら彼女はこう考えているらしかった。


 生徒たちは決して文句がないのではない。どうにもならないと諦めているのだ。と……


 彼女の人一倍強い正義感、奉仕欲、そういったものが一種の逆転した被害妄想を生み出しているのではないかと思う。つまり、自分たち生徒会は生徒に問題を解決する能力がないと思われているんじゃないか?故に頼られないのではないか?という不安が、彼女に暗い影を落とし始めたんじゃないかと、俺は予想立てた。


 しかし同時に、この予想が合っていたとしたら、少し腹立たしいことだな。と俺は思った。


 雨衣絢愛が率いる生徒会が頑張っていることなど皆わかっていることだった。毎朝早くから校門に立ち、遅刻ギリギリの人間にも、よく来てくれた!と言わんばかりの笑顔で挨拶をする。授業後は校内の清掃が行き届かない空き教室や別棟の掃除をする。そんな細かなところから、校長や教頭、教師たちと話し合い学校行事や改善点の折り合いをつけ、必要があれば地域の人たちの所を回る。


 150cmあるかないかの小さい身体で、彼女は誰よりも重い正義感と革命心を持って生徒会長の座にいるのは明白だった。

 この学校の生徒なら誰しも大なり小なり理解していた。彼女にしかできない仕事を彼女はちゃんとやっている。やり遂げていると。


 しかし、彼女はまだ足りないらしい。彼女だけがまだ充分ではないらしい。


 俺は天邪鬼な人間だと自負している。いいだろう。そこまで仕事が欲しいのなら、誰も会長の仕事を増やさないのなら、俺が仕事を増やしてやる!そんな悪戯な心が湧いて出てしまったのだ。




 それが生徒会長、雨衣絢愛との出会いにまで繋がるとは、1年前の俺は知るはずもなかった。







 小さい身体だからといって、他人より重い物を背負えないわけではない。

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