13-5. フォークを滑り落ちる感触
お昼になり、フードコートへ来たはいいが当然えらい賑わいを見せていた。
「外出ればよかったかな」
「べ、別に大丈夫よ!」
周りをキョロキョロと見渡しながら、心はそっと挙動不審に俺の後ろに隠れている。逆に目立つだろそんな奴。
「変じゃないから出てこいよ」
「変に決まってるでしょ!」
頑ななまでに巣穴から顔を出さない彼女は、俺の餌にも全く食いつかない。餌と言っても本心じゃないわけではない。
なんやかんや言いながら結局買ったノースリーブのカットソーに、ベイカーパンツ。破廉恥エッチと煩いので夏らしい薄手のサラッとしたロングシャツまでちゃんと選んだ。あとはサンダルでも履けば、少々大人っぽいが、結構完成度高いサマーガールだと俺は思っている。
しかしそう思っているのは俺だけのようで、彼女の頭の中は変変変の一点張り。もう変態なんじゃないかな。逆に。
「……」変じゃねえ!俺の精神だけが、先走ってモノを言う。
たこ焼きの匂いがしない。ラーメンの匂いがしない。ハンバーガーの匂いもしない。椅子に座ろうとしている女性が前屈みのまま止まる。その対面に座った彼氏か男友達は、胸元に目をやったまま動かない。近くに座る小さな子供は、フォークで麺を持ち上げ、大きく口を開いたところだった。
『可愛いよ』
『逆にエッチだぞ』
俺の前に浮かぶ2つの選択肢。それは強制、強要、強迫。当然逃げ道は、ない。
『可愛いよ』そんなことを言ったところで、果たして彼女はその頑丈な殻を破って出てくるだろうか。またケツを蹴られるに違いない。
『逆にエッチだぞ』性癖を押しつけてくるな!逆にとかねえよ!正のエッチがわかんねえよ!そして絶対さらに殻を厚くするだろ。
ケツを犠牲に、いざ行かん。
「『可愛いよ』」
座ろうとしていた女性は席に着き、対面の男は目線を上げる。子供はフォークから麺を滑らせ、なんとか引っかかった2本ばかりを口に入れた。
「か、わ……!?」
心の顔色を確認する前に、俺のケツは吹き飛んでいた。
「痛ッ!」
「馬ッッッ鹿じゃないの!行くわよ!!」
彼女は見事に殻と尻を割り、外へ出てきた。作戦通り……
フードコートの机と机の間を歩きながら、前を行く彼女はなにか言いたげに、振り向いてみたり、口を開けてみたり、閉じてみたり、眉間にシワを寄せたりと忙しない。
「なんだよ?ぶつかったら危ないぞ」
テーブルに着いた人たちの声、フードコート横にあるゲームセンターの電子音、店内の音楽。様々な物音が飛び交うこの場所で、彼女だけが独特の静寂を持って立ち止まり、そして振り返る。
気難しい顔をした心は、口を開き、また閉じる。彼女のシナプスは瞬く間に輝き、何かを探している。言葉に出来ない何かを。
「あんたさあ、自分で話してない時あるわよね」
漸く口を開いた彼女は、じっと俺の目を見つめ、逸らすことはない。
おふざけが過ぎたことを注意されるんだろう。そんな予測を立てていた脳みそは真っ白になる。耳には何の音も届かず、ただ奥の方が、キーンと甲高く鳴り響いているだけ。
「おかしいこと言ってるのはわかってる。私も何言ってるのかよくわからない」
目の前で、口も開かず突っ立っている俺に、浅葱心は言葉を続ける。
「でも、なんか、あんたが居ない気がするの。ずっと」
紅茶色の瞳は揺れることなく俺を見据え、彼女はあやふやで曖昧な確証のないことを、確固たる自信を持って伝えてくる。そしてそれは、ほんの小さな間違いもなく、確かに俺の身に起こっている問題へと、切り込むモノであった。
フォークを滑り落ちる感触。




