13-4. パンツってズボンのことだよ
「例えば、ほらこれとか」
既に3店舗ほど、隅から隅まで見た結果、心は買わない選択をし続けている。業を煮やした俺は、いよいよ自発的に彼女にプレゼンを始めることにした。
俺の手に持たれたハンガーには、ノースリーブのカットソー。しかし、なぜか引いた心は獣を見るような目で1歩後退。
「そんなエッチなの、着るわけないでしょ!」
……てめえ!!バスケ部のユニフォームはなんだったんだ!?ずっと着てただろうがア!!動きにくそうとか言うからこっちはこれ提案しとるんじゃろうがオオン!?!?!???!!
さすがに温厚な俺も、さすがに青筋を立てざるを得ない。さすがに。
「エッチじゃねえよ!上になんか羽織ればええんでないの!?」
「エッチよ!なんで上に着なきゃいけないの!?熱いじゃない!」
な、なんで上に着なきゃいけないのよ!?だとオ!?
「今着とるジャージはなんなんじゃい!!」
「ジャージはいいのよ!」
「ジャージ愛強すぎんだよ!」
ケッとハンガーを元の場所に掛ける。店員がオロオロと様子を窺っているのが横目に見えるのが申し訳なく気まずい。
「はあ……もういいや。次行こう」
脳内で4店舗目にバツ印を付け、俺は心の横を通り過ぎ外へ向かう。まだ見ぬ店舗への希望を、夢見るより他ない。そんな俺の腕を心は掴み、静かに引き留めた。
「待ちなさいよ」
「なんだよ」
振り向くと、そこには凄い目力でこちらを睨みつける心がいた。
「もういいやってなによ!着るわよ!着ればいいんでしょ!」
掛けたハンガーをまた持ち上げると、彼女はふんっ!と鼻を鳴らし、ドシドシと試着室へ向かって行った。
着ればいいけどキレればいいものではない。
さっきよりもずっと強く、穴が開きそうなほど凝視めてくる店員さんの視線を背中に受けながら、俺は腕を組み待つ。もう一層のこと、話しかけに来て。気まずいの、お願い。
レディースの売り場に1人でいるのは、なんだか犯罪を犯している気分になってくる。なにも悪いことなどしていないのに。妙に騒つく。
なんだか変な汗が出始めた頃、やっと試着室のカーテンが揺れた。
「……んぐ、どう、かしら……」
頬を赤くしンググと羞恥に燃える彼女は、隙間から顔しか出していない。
「いや、カーテン開けないと見えないから」
「そう、よね……」
「ん……」と唇を食いしばり、決心した心はカーテンを勢いよく開けた。
顔を俯け、彼女は服の裾をギュッと握る。これは緊張している時の癖だ。
白いノースリーブカットソーは心の爽やかさ、そして元気さを見事に表現している。良いじゃないか。
「ああ、大丈夫だ。エッチじゃない」
「死ね!」
シャッと勢いよく試着室のカーテンは閉められた。1番気にしてたのそこじゃないのかよ。
「ちょっとそれに合いそうなパンツ探してくるから待ってろよー」
「はあ!?買わないわよ!」
「え、似合ってたじゃん」
俺がそう言うと、試着室は口を噤んだ。アイアンメイデンでも前にしているようだ。もう開くこともない気がしてくる。
「ん、わ、わかったわよ!待ってる……から」
強いようで弱々しい声が、カーテンの隙間からなんとか這い出し、俺の鼓膜へと届く。早くしてねと聞こえぬ声までキチンと聞こえた俺は、多少早歩きでパンツ売り場へ向かうのだった。
パンツってズボンのことだよ。




