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選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
エンドロールは流れ始める
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13-2. 線路はどこまでも続く

 「はぁはぁ」

 「ぜぇぜぇ」


 絶対に電車に間に合いたい心と、絶対に夏を走りたくない俺との勝負は、奇しくも俺の敗北となった。いや、なにも奇しくはない。走り出した心は止まらないので追うしかないのである。


 闘牛女め……


 「あんたが早歩きしてれば走らなくて済んだのよ!」

 「お前が走らなければ走らなくて済んだんだ!」


 睨みあってても仕方がない。不毛な話を切り上げ、空いた席に俺たちは腰を下ろした。キンキンに冷えた風が火照った身体を冷やしていく。が、これはこれで風邪を引きそうだ……


 「ふふん!」

 心は捲っていたジャージの袖を伸ばし、このためよ!と鼻高々。


 「はいはい。風邪引くなよ」

 心は俺の言葉に少し面食らっている。どうせ、この冷える10分間のために熱いのを何時間も我慢出来るなんて凄いですねー!と返されると思ったんだろう。残念でした!思ったけどそんなこと言う元気ありませーん!


 「あ、あんたも風邪引くわよ!」

 驚き、まごつき、錯乱した彼女は、ポケットからハンカチを取り出し渡してくる。


 「汚れるからいいよ」

 「駄目よ!」

 「いいって!」

 渡すのを諦め、無理やり拭ってこようとする心の手を持ち、一進一退の攻防が始まった。やり合う元気ないって言ってるだろ!

 

 「拭きなさいよ!」

 「いや本当いいって!」

 「もう!あ、お婆ちゃんここどうぞ!」

 「え?あ、お爺さんここどうぞ」

 気がつけば次の駅に着いていた。2人喧しくやり合っている中、サッと立ち上がり、前に立つ老人ご夫婦に声を掛けるその視野の広さには、素直に感心する。


 「すみませんねえ」

 電車の窓から差す光に照らされ、安らかな微笑みを浮かべるのはお婆さん。綺麗な白い髪、指先まで洗練されたその品の良さが、彼女の誠実な人生を物語っている。


 「ありがとうございます」

 大人しく礼儀正しく、しっかりとお礼を言うのはお爺さん。眉間のシワも相まって、一見堅苦しいまでの慇懃さを持っているように見えるが、お礼を言うその眼は優しく、隣のお婆さんと二人三脚、良い人生を歩んで来たことがひしひしと伝わる。


 「いえいえ!元気ですので!はい」

 勢いよく敬いを向けているようで、元気ですので!はちょっと失礼なこと言ってないか心。老人みんな元気じゃないと思っているのか心。お2人が優しくて良かったな。


 「え、あ、はい」

 そして心の「はい」によってさり気なく手渡された力無きハンカチを右手にブラリとさせ、アホヅラで負けた!となってるのが俺だ。ちくしょう!やられた!


 仕方なく頂戴し、汗を拭き、ポケットに仕舞う。これだけでも割とさっぱりするものだ。


 「ん」

 左手を差し出し催促する心。金でも取るつもりか。

 「なんだよ」

 「なんだよじゃないでしょ。返しなさいよ」

 「汚れてるから洗って返すよ」

 「まだ使うかもしれないでしょ!」

 「汗拭いたんだぞ?」

 「別にいいわよ!」

 「よくねえよ!」


 静かな車内に2人の言葉だけが舞う。なんだこいつらと若者が眺める。イヤホンしたままサラリーマンが寝る。煩いわねえとおばさんが睨む。前に座るご老人夫婦が微笑む。車窓の外で街が流れていく。








 線路はどこまでも続く。

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