12-5. ジェットコースターが坂を下るスピードで
ご飯を食べ終えた俺たち2人は、食後だというのにも関わらず、ジェットコースターに足を運んだ。
「もしかしたらやばいかもしれない」
俺は無意識の内にそんな言葉を吐き出していた。
「……なるようになる」
隣でまだオバケ怖いと言って腕に手を置く風花は、恐ろしいことを言う。
ならないようにしたいのだ。なるようになるでは困るのだ。
「もしかしたら風花身長足りないかもしれないぞ」
列に並ぶ手前にある身長計測器を指差してみる。
「……私163.6。問題ない」
彼女は全く意に介さず、俺を引っ張り列に並んだ。お昼時だからか余り並んでおらず、気持ちの整理が追いつかないまま乗り込むことになりそうで一層承服しかねる。
「いざとなったら手を離してくれ」
俺を置いて先に行け。まだまだ、君だけは楽しむんだ!この遊園地を!
「……」
天を仰ぐ俺を見ながら、風花はそっと背中を叩く。
「……うん」
「うんなのか」
「……うん」
そこは冗談と言ってよダーリン。なんて考えている間にもう順番はやってくる。早い。早いよ。
カバンや風花の眼鏡をカゴに入れ、足は震えるけれどもいざ!
「いや、おい、風花。そっちは先頭だぞ」
メガネ外したから見えていないのかな。俺は先頭が嫌いなんだ。映画だって真ん中に座りたいし、あとはえーと、そうだなあ……電車も出来れば後ろの方がいいんだ!兎に角、前は嫌なんだ!
「……」
「はい……」
有無を言わさず、風花は無表情で訴えてくる。私は絶対に先頭が良い!と。
ならば仕方あるまい。レディファーストだ。だけどこんなの間違ってる。時代は男女平等なのに。
それでも俺はついて行くしかない。彼女を1人にはさせない。そして今回に限っては1人にしないでほしい。
俺は腹を決め、先頭に乗り込んだ。
「風花、俺たちしか乗ってないことないよね?」
誰か、誰かを道連れに!みんな一緒に苦しもうよ!
「……私たちだけでも問題ない」
ひゃだ、風花さんかっこいい……
柄にもなくアワアワしていると、係員にバーを下げられる。こんなの断頭台の頭固定するやつじゃん。
ピロロロロロロと出発のベルは鳴る。係員は晴れやかな声音で、今日何度目か分からぬ「行ってらっしゃーい!」を口にする。俺の手を握り風花はワクワクする。俺はただ神に生存を祈る。
みなそれぞれの違う感情を乗せながら、ガタガタと揺れるジェットコースターは登っていく。
なぜ俺は民主主義の中にいるのだろう。弱肉強食の世界ならば今頃このジェットコースターは止まっているはずなのに!だって俺の止めてくれ!という感情が今ここで絶対に1番強いからね!!
「でも民主主義って別に多数決ってことじゃなくね?」
「…… 人民が主権を持ち行使する政治。厳密には多数決ではない」
こんな状況でもブレない風花さんは一先ず置いておくとして、置いておけないのがもう頂上に居るのになかなか落ちないジェットコースターさんです。
「なんでさっさと落ちないの!」
「……位置エネルギーがまだ運動エネルギーに変わっていない」
「なに言っ」
世界は止まる。ジェットコースターも止まる。坂の上だろうと、止まる。
遠く地上の人間は砂のように細かく、また空は雲に手が届きそうな程近い。
ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな!!こんなところで止まるな馬鹿か馬鹿か馬鹿か馬鹿か馬鹿か!!
既に俺たち先頭車両は坂の頂点を越え、今はレーンの先が見えない角度にいる。怖い。死ぬ。
『どういうこと?』
『ちょっとよくわかんない!』
目の前に現れる2つの選択肢。心の底からどうでもいい選択肢!!今ここで出てくるなよ選択肢!!泣く。もう泣くわ。もうなんでもいいわ!!!早く終われ!!この景色終われ!!
「『ちょっとよくわかんない!』」
そう言葉にした瞬間、ジェットコースターは速度を上げ、白いレーンを駆け抜けて行く。
「いぃぃいいいいいやあまああああ」
「……」
俺は叫びながら隣で無言の風花をチラッと見る。気絶しててもおかしくない。
いつも彼女の目を隠している前髪も、さすがに風に煽られ、綺麗な顔が露わになっている。
無表情のまま。
「どうなってんのそれえええ!!」
「……なにも見えない」
俺の声はスピードに置いて行かれる。5席ぐらい後ろの人に聞こえたんじゃないか。そんなことを考える。そして思う。もう2度と、乗りたくない。
ジェットコースターが坂を下るスピードで。




