12-4. クロスロード
「まだ怖いのか?」
段々とジェットコースターに近づきながら、出てもなお右腕にへばりつく風花に俺は声をかける。
「……怖い」
ひしっとしがみ付き、離れまいとはしている。足取りはしっかりとしている様だが、気丈に振る舞っているだけなのかもしれない。
「休みがてらご飯でも食べようか」
もう目の前にあるジェットコースターの手前には、開拓時代を思わせる古めかしい外観をした少し大きめのレストランが見える。
「……うん」
スイングドアを開け、板張りのお店に入る。4人がけテーブルが20台ほどあり、結構広々とした空間だ。窓などはなく、外からはジェットコースターの悲鳴と、涼しい穏やかな風が入ってくる。
カウンターで注文し、料理を受け取る。ようやく腰を下ろし、少し休める。
「風花ってお化けとか信じるタイプ?」
テーブル越しにもぐもぐとポテトを齧る風花に、俺は聞いてみる。非現実的とか言って信じなさそうだけど、えらく怖がっているし、案外可愛いところがあるのかもしれない。
「……非現実的。でも、いないとは言い切れない」
「不確定だから怖いのか」
「……うん。曖昧なものは、理解するのが難しい」
怖い話が理解できるか理解できないかの話になったが、本質的な部分ではそうなのかもしれない。
「理解できないものは怖いか……」
「……あなたは、怖くない?」
彼女はポテトに伸ばす手を止め、こちらを真っ直ぐに見つめてくる。
「いや怖い……けど、楽しむこともできるのかもしれない」
「……楽しむ……?」
「分からないことが楽しい時もあると思う」
物によっては……と七宮を思い浮かべながら言葉を付け足し、風花の様子を伺う。
「……なんとなく、分かる気もする」
現在、なにか分からなくて、悩んでいることがあるんだろうか。彼女に分からないことなどない。俺は出会った当初、そんなことを思っていた。しかし、そんなことは当然なかった。辞書的なことや数式、意味や答えがしっかりと確立されているものは、確かに分かるのかもしれない。ただ他人の情緒的な曖昧で感情的なことは苦手としている。それは否が応でも分かってくる。
彼女は分からないことを分からないと自覚し、そして1人でそれを考えていく。孤高で、気高く、高踏的に。しかし、それは言い換えれば孤立、孤独に他ならないのだ。
「風花、楽しもうな」
1人でいい。誰もいらない。それならそれで良いと思う。それでも、一緒にいる時間が少なからずあるのなら、俺は彼女に楽しんでもらいたい。いつだって、分かることも、分からないことも。これは、独善的。
「……?うん」
なにを急に今更?という感じで風花は頷く。
ほらね。今日の遊園地のことだと思っている。だけどそれでいい。それがいい。他人の独善的な気持ちなど、知らなくていい。恩着せがましい言葉など、蹴り飛ばせばいい。彼女は彼女のまま、生きればいいのだ。
「冷めるし食べよう」
俺はホットドックに齧り付く。風花もまたホットドックを口にする。
ケチャップとマスタードが混ざり合う。ジェットコースターから悲鳴が聞こえる。夏の風が吹く。
「……美味しい」
彼女の声だけが、俺の耳に入る。
クロスロード。




