10-4. 雨の日 一言
雨は降り続ける。俺が外にいるから降り続けるのだと思ったが、そんなことはなかった。俺が学校に入っても、雨は降り続ける。
校門の柵をよじ登った俺はびしょ濡れになった。しかも怒られた。
なぜ濡れたことを罰として、遅刻を良しとしてくれないのだろう。校則というのは自分勝手だ。全く。
俺は既に1時間目が始まっている教室にそうっと入る。
遅刻しても常識は分かってる。褒めてくれていい。
「遅いぞー」
世界史の先生は俺を注意して、笑い者にしようとする。褒めてくれていいとは言ったが、そんなことは求めていない。
だが残念、クラスメイトは1人を除いてチラリと見やるだけで誰も気にしていない。1人を除いて。
かわいい顔をした友人とも呼びたくない友人、七宮千春だ。
彼は席に着いた俺に向かって、両手を頭に乗せ、お得意のうさぎポーズ。口パクでなにかを伝えてくる。見なくてもわかる。
お・は・ぴょ・ん、だ。
もうそれはいい。あいつは遅刻しないが常識がない。
夏が近づくと思い出す。あいつは1度プールの水を海水に変えたいと言い始め、危うく実行しそうになった。海まで行ったが無理だと思ったと後日語っていた。
そういえばこんなこともあった。文化祭で1本10円の細長いパンを1本100円で他校の生徒に売っていたのだ。個人で。停学になったし売上も全て没収されたが、スカート履いてたら絶対もっと売れたよ!となぜか悔しそうだった。
……なんであいつ退学になってないんだろう。
こっちを見てプククと笑う七宮を見ながら、俺はそんなことを思う。偏頭痛酷くなってきた。
チャイムが鳴り、1時間目が終わる。
「おはぴょん!」
七宮はわざわざ俺の席までやってくると、飽きずに毎朝のお決まりをやってくる。
それさっき見た。
「はいはいおはよう」
俺はもうあっち行けと手を振る。
「今日は特に元気がないなあ。そう言えば朝、こころん告白されてたよ?」
七宮は俺の反応を興味深そうに観察する。
「へえ……」
まあそんなこともあるだろう。俺は驚かない。浅葱心はそれなりにモテているのを、俺は知っている。
それこそ中学生の頃はよく告白されていた。下駄箱にラブレターが入っていたりもしていた。悪戯もあったみたいだけど。
「むむ、こころん心配じゃないの?取られちゃうよ?」
七宮はいいのかなー?いいのかなー?と楽しそうだ。腹立つ。
「別に付き合ってないから」
俺はそう言いながら鞄に仕舞った頭痛薬を探す。朝の分じゃ少し足りなかったみたいだ。
「君ねえ、付き合ってないから取られちゃうんだよ?分かってるのかなあ」
この坊やは分かってないねえ。と腕を組むと、やれやれと首を振り、ようやく七宮は俺の下を去った。
なに言ってんだ……と思いながらも、俺はそれを否定出来なかった。
俺の頭には、ふと彼女の姿が浮かんでいた。
「なに言ってんだ」
馬鹿馬鹿しい。そう心の中で呟く。
「付き合ってないから取られちゃうんだよ」
しかしその言葉は頭の中をグルグルと回り、なかなか消えてくれないのだった。
雨の日 一言




