表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第2章 知れば知るほど、愛おしくなるモノ
38/54

10-3. 雨の日 居場所


 雨の日の本は、いつもと違う匂いがする。いつも一緒にいるのに、ふと違う一面を見せてくる。こちらもなんだか、いつもと違う気持ちで読んでしまう。


 

 山藍風花は、騒がしい教室で1人、雨の音を聴いていた。


 雨は好きだ。なんだか1人じゃない気がするから。


 クラスメイトたちの言う面白いことは、別に面白いことじゃなかった。あの輪の中に入ったら、きっと面白くなるんだと、私は思う。


 「はい、お前が行ってこーい!」

 「まじかよ!ええ、本当嫌なんだけど!!」


 遠くの席で、男の子たちが騒いでいる。きっと私だ。最近、少し多くなった。


 「山藍さん!好きです付き合ってください!」

 私はこの人の名前も知らない。ただ同じクラスというそれだけの関係性で、なぜこんなことが出来るんだろう。私には、理解出来なかった。


 「まじでいった!」と笑う人。またやってるよと呆れている人。少し興味を持って眺める人。



 私は、ここに居たくない。



 山藍風花はノートにただ1文。ごめんなさい。とだけ書いて見せる。


 「うっわ!振られたわ!!」

 そう言って見知らぬ男子は笑いながら、仲間のところへ戻っていく。


 「そりゃそうだろ」「どんまい!」「危なかったな!」「アホだろお前!」


 沢山の煩い声が混ざり合って、もっと大きくなって、その分、私の居る場所は小さくなって、そして、いつか無くなる。


 輪に入らないのは、悪いことだ。直接そう言えばいい。そしたら私は、悪い自覚を持って過ごせる。全部私が悪いのだと、そう思って生活できる。そしたら何されたって、もう何も考えなくていい。



 昔からコミュニケーションを取るのが苦手だった。下手だった。子供らしさがなく、うまく笑えなかった。大人たちの厄介者を見る目が、常に降り注いだ。


 そんな中、ただ祖父だけが、「風花はそれでええ」と笑って肯定してくれた。


 「山藍ってなに?」

 幼かった私は、大好きだった祖父の膝に座り、自分の苗字の語源を聞いた。


 「ふぁっは!そんなことも知らんのか?山藍はだなあ……あー、山藍ってなんだっけ……」

 忘れたと祖父は大笑いして、釣られて私も笑った。


 その後、自分で調べて、祖父に教えてあげたのだ。


 「お爺ちゃん!山藍はね、山に群生するトウダイグサ科の多年草で、昔はその葉っぱから染料を作ったんだって!」


 「ふぁっは!調べたんか?風花は立派な子じゃねえ」

 そう言うと豪快に笑い、膝の上に座る私の頭を優しく撫でてくれた。



 私はつい、図書館で出会った彼のことを思い浮かべてしまう。


 「山藍ってなんだっけと思って……」

 そう言って照れ臭く笑う顔。


 「ありがとう」

 そう言って微笑む顔。


 そうか。私は、どこか彼にお爺ちゃんを重ねていたんだな。そして自分のことを肯定してくれる人だと、そう思っているんだな。


 そうか。私は、彼のことが、大好きなんだな。



 この気持ちが、お爺ちゃんへの気持ちと似たような大好きなのか、彼のことを異性として好いている大好きなのか、それはまだわからない。


 それでも、2人で出かけた時に酔った私が言った「大好き」は本物だったらしい。


 それが、今は嬉しい。



 私の居場所はここにはない。だけど、私が居てもいい場所はきっとある。


 それが光り輝く場所じゃなくてもいい。真っ暗闇の中でもいい。隣に彼が居てくれたら、もっといい。


 私は、少し、彼に会いたくなった。




 山藍風花は雨の音を聴いていた。


 私は雨の音が好きだ。1人じゃない気がするから。





 雨の日 居場所。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ