10-2. 雨の日 朝
「うぐぐ……」
連日雨が降り頻る中、早朝の生徒会室で雨衣絢愛は格闘していた。
「おざーす」
ガラガラと生徒会室のドアが開かれ、副会長の若草花由子が眠そうに入ってくる。晴れの日でも、雨の日でも、彼女の朝に変わりはない。
鞄を机の上に置くと、すぐにソファにボフッと座り込む。
「あ、花由ちゃん!おはようございます!」
「またやってるのか……」
若草は呆れたように、また今日も手鏡と睨み合う絢愛に言葉を返す。
雨衣絢愛の腰まである栗色の髪は、いつも艶めき綺麗に真っ直ぐ伸ばされている。そう、雨の日以外は。
手鏡と向かい合う彼女の髪は、湿度によってくるりんと巻かれ、その姿にいつものしっかり者感は見られない。
ズボラな感じも良いよね。と一部の者たちの間では人気があるその姿だが、勿論彼女はそれを良しとしていない。
「生徒会長がこんな姿は許されません!」
生徒会長が怠けた姿をしていれば、この学校の生徒全員が怠け者だと思われる!
実際にそんな偏った物の見方をする人間はいないかもしれないが、彼女の抜かりなき精神はそう信じていた。
そんなみんな厳しくねえけどなあ……と思いながらも、毎日毎日そんな絢愛を見ていると、さすがに嫌気が差してくる。
若草花由子は昔から粗暴な性格をしていた。幼稚園の頃、お昼寝の時間になれば他人の布団を奪ったし、小学生になれば偉ぶる上級生をボコボコにした。中学生になれば他校の生徒に囲まれても1人生き残ってきた。
好きなものは手に入れ、嫌いなものは捨てる。それが彼女の生き方だった。
そんな彼女に雨衣絢愛の律儀な性格は理解できても、我慢ならないことに間違いはなかった。
「絢愛、ちょっと貸してみ?」
若草花由子はソファからよっこら立ち上がると、生徒会長専用の机の前に、ちょこんと座る絢愛の後ろに立った。
絢愛が心配そうな顔をしながら櫛を手渡すと、若草なりの丁寧さで後ろ髪を纏め始める。
「ほいできた」
若草はバッチリと満足し、絢愛の頭をポンと撫でる。
「むぅ、この位置は少し子供っぽくないですか?」
と子供のような顔をした生徒会長はしげしげと鏡を見る。
後頭部の高い位置でまとめられた髪はゴムで止められ、それを隠すために少し太めのリボンが可愛らしく結ばれている。癖毛を見事に生かしたポニーテールが出来ていた。
「黒いリボンは大人っぽいだろ?ほら、行くぞー」
若草は適当にそんなことないないと手をヒラヒラさせ、SHRが始まる時間だと絢愛を急かす。
「確かに、大人っぽいかも……」
若草花由子の言葉にまんまと引っかかった彼女は手鏡をパタンと閉じると、鞄を持つ。
生徒会室の扉に鍵をかけ、雨の音を聞きながら、2人は並んで教室へ向かう。
「それなら、あいつも喜ぶんじゃねえの」
若草は揶揄うように悪い笑顔を見せながら、絢愛の顔を覗く。
「なに言ってるの!ただの後輩くんだよ!」
絢愛は手をわちゃわちゃさせながら、彼女にバレたくない恋心を必死に隠そうとする。
「あたしはただあいつって言っただけだけど〜?」
ん〜?後輩くんって誰のことかなあ?と、既に絢愛の心を分かりきっている若草は楽しそうに、恋する乙女を見守る。
いつか、彼女の口から、「彼のことが好きなんだ」と聞けるその日まで、雨衣絢愛の親友、若草花由子は精一杯面白がるつもりでいる。
雨の日 朝。




