表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第2章 知れば知るほど、愛おしくなるモノ
36/54

10-1. 雨の日 告白


 窓の外で雨が降る。シトシトと音がする。鳥の声も、人の足音も聞こえない。ただ静かに、雨の音がする。




 傘を差し、足元を濡らし、俺は幾分か憂鬱な感情を隠すこともせずに、学校への道を1人歩いていた。


 「ここちゃんもう行っちゃったよ!」

 と起きて早々母親は騒がしかった。今日は早くから用があったらしい浅葱心は、わざわざ母親に「今日は先に行きます!すみません!」とどうやら言いに来たらしい。誠実な娘である。


 母親は「遂に面倒見切れなくなったんだねえ」とわざとらしくシクシクして見せ、明日からしっかりしな!と玄関を出る俺の背中に浴びせたのだった。


 朝からそんなことをされては堪ったものではない。ただでさえ雨が降り、俺の偏頭痛は止まることを知らないというのに。

 ピシャッと力なく、俺の足は浅い水溜りを踏みつける。


 しかし、用事があるなんて昨日の朝は言ってなかったと思うが、なにかあったんだろうか。


 まあ、いいか……俺は降り止む気配のない空を見つめ、遅刻が確定している道を重い足取りで進むのだった。





 ―――――――――――――


 「はあ……」

 浅葱心はいつもより30分以上も早い時間に学校に着くと、深くため息を吐いた。


 ゆっくりとした朝を迎え、あいつと急ぎ足で学校へ向かう。それが平日朝のルーティーンであり、楽しみなのだ。


 しかし、今日はそれが叶わなかった。その理由は昨日の帰り、下駄箱に1通の手紙が入っていたことに始まる。


 「浅葱心さんへ」

 字が下手ながらも丁寧に書いたらしいその手紙には、明日早朝伝えたいことがあるので、屋上手前の踊り場へ来て下さい。と書かれていた。


 「はあ……」

 屋上へ続く階段を上りながら、私はもう1度深くため息を吐くしかなかった。憂鬱だった。あいつの顔を一目でも見ておきたかった。


 それでも来たのは、この手紙に少なからず誠意を感じてしまったからに他ならない。



 少し古傷の痛む膝を持ち上げ踊り場へ着くと、既に男の子が1人立っていた。1年生の時同じクラスだったサッカー部の橘君だ。


 「あ、来てくれたんだ。よかった……」

 橘君はホッと息を1つ吐くと、「今日は天気が悪いね。はは」とどうでもいい世間話をする。


 「そうね」

 ここ1週間、ずっとそうでしょ……なんて思ってしまった。

 私が素っ気なく言葉を返すと、場は静寂に包まれ、ただ外で降り続ける雨の音だけが耳に残る。


 彼はゴクリと唾を飲み込み、息を1つ吐くと意を決し、話し始める。


 「あ、あの、その……俺、浅葱さんのことがずっと好きでした!付き合ってください!」

 橘君は勢いよく頭を下げると、右手を私に差し出した。



 誰かに想われるのは、ありがたいことだ。彼の気持ちも、きっと本当だ。それでも、私は迷うことはない。


 「ごめんなさい。私、好きな人がいるの」


 


 誰かに好意を伝えられるのは、凄い。私は彼のように、ああして想いを伝えられるだろうか。この関係が終わってしまうことを考えると、私は怖くて堪らない。


 静かな教室に戻ると、私は窓際の席に着き、頬杖を付きながら雨の降る外を眺める。雨のせいだ、やけにしんみりとしてしまうのは。


 

 続々と教室にクラスメイトが入って来る。ついさっきまで静かだった教室は、あっという間に明るい声で満たされる。

 8時40分になるといつも通り、先生は私たちの前に立ち、今日の予定を話し始める。朝の出来事以外、なんらいつもと変わらない日常がまた今日も始まる。



 1時間目、現代文の準備を机に出しふと外を眺めると、閉じられた校門の柵を傘を差したままよじ登っている人がいる。


 ああ、なんであんな奴のことが、こんなにも愛おしく、恋しいのだろう。


 明日の朝は、彼と登校できる。そのことを考えるだけで、私の心に少し晴れ間が広がった。我ながら単純だ。単純で、どうしようもない。



 私は気がつくと口角を上げ、その彼に向かって「早くしなさいよ」と、小さな声で呟いているのだった。








 雨の日 告白。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ