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選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第2章 知れば知るほど、愛おしくなるモノ
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9-1. 例えばこれはまだ序章


 5月のカラッとした日には、新緑の香りの中、どこか見知らぬ土地へふらっと行ってみたくなる。だが、6月はどうだろう。梅雨が近づき、少しジメッとした不健康な空気が街に溢れ、足取りも重くなる。

 俺はこの季節が嫌いだ。出来れば出かけたくないと思っている。しかし、行く先に楽しみが待っているのなら、自然と足は軽くなることだろう。

 


 浅葱心とご飯に行った3日後の日曜日、山藍風花と本屋さんへ行くという約束を果たしに行く日が来た。

 本当なら土曜日の昨日終わっていた筈なのだが、突如明日にして欲しいと言われたので1日先延ばしになった。


 やることが変わるわけでもなく、無理して来られるよりはずっと良いので俺は快くその頼みを受け入れた。


 そして来る午後1時55分。俺は最寄駅から2駅ほど離れたところにある街に来ている。街というよりは、色々なお店が立ち並ぶ少し大きめの商店街と言ったほうが的確な表現だろう。彼女の行きつけの本屋があるらしく、教えてくれるみたいだ。



 絢愛先輩の時も気になったが、正直その点に於いては今回の方がずっと気になっている。山藍風花がどんな私服を着ているのか、だ。正直全く想像できない。


 ワンピースなどの可愛いものよりも、どちらかと言えばパンツを履いたスマートな格好が似合いそうではあるが、俺はどんな格好で来ても褒める準備は既に出来ている。さあ、来い!


 と気張ってから5分後の午後2時。彼女は全くの時間通りに来た。制服で。


 「……よし、行こう」

 彼女は俺の元へゆっくり歩いて来ると、「待った?」などお決まりのやり取りをするはずもなく、早速歩き始める。


 期待していた俺が馬鹿だった。反省せねばならんのは俺だ。しかし、肩を落としている時間などない。今日の彼女はなぜか、やる気に満ち満ちている。そんな気がする。

 「ああ、行こう!」



 彼女は服やアクセサリーなど、彩り鮮やかなお店には一切目もくれず、本屋へと真っ直ぐに突き進んで行く。


 今日のお出かけまじで30分もあれば終わりそう!俺は少し焦っていた。しかし、まだ焦るような時間ではない。問題ない。落ち着け、俺。


 しかし、真っ直ぐ突き進んでいる彼女には少し問題があった。それはなぜか。突き進んでいる割に歩くスピードが遅いのだ。彼女の普段の歩く速度を知っている俺から見れば、なんなら早歩きしているとわかるのだが、当然周りは知る由もない。

 なかなかに混雑しているメインストリートの人混みの波に、彼女は全くと言っていいほど乗れていなかった。


 大丈夫かなと後ろから見ていたが、すれ違いざまに肩でも当たったら細いし吹っ飛ばされそうなので、前を歩き盾になることにした。


 「とりあえず、真っ直ぐ」

 先を颯爽とゆっくり歩く彼女に事情を説明し、道順を口頭で指示してもらう。


 後ろから聞こえる風花の声は、発声しているというよりも鳴っているという感じで、混雑している中でもまるで聞こえないことがない。

 

 「……そこ、左」

 「えっ?今のところ?」

 という風花ならではの遅延こそあったが、俺のジャケットの裾を掴み、トコトコと歩く彼女の姿は少し愛らしかった。


 「……ここ」

 と彼女が見上げるビル。なんと5階まで全てのフロア本屋だと言う。


 「凄いな」

 1階のスペースには美術系のお洒落な本がズラリと並び、壁にかけられた大きな額縁には誰の作品かはわからないが、POPな色調で人物が描かれている。

 アートという感じだ。


 しかし俺と違い、そんなものに気を取られないのが山藍さんの良いところである。


 「……こっち」

 とアートフロアをちらりと見ることもなく、よっこらよっこら4階まで階段で上って行く。そこには見たこともない量の古びた文庫本がこれまた所狭しと並べられていた。


 「なんだこれ……」

 俺は未知の世界に足を踏み入れたらしい。数人のお兄さんお姉さんおじいさんがあちらこちら。棚に手を伸ばし、ぱらぱらとページを捲っている。


 「……沢山。安い。嬉しい」

 彼女は俺の反応に満足したのか、自分の探し物を見つけに旅立った。

 付いて行こうか少し迷ったが、なにか、俺だけにわかる面白い本があるのかもしれない。そんな訳はないのはわかっているが、そう思うとワクワクせずにはいられない。


 例えそれが教科書に載るような本だったとしても、自分の心の内に秘めておく楽しさというものがある。

 それがいつか、風花に感想を言わなかった理由であり、今から俺が自分で本を探す理由でもある。


 静かにゆっくりと、彼女と同じ場所で、違うものを楽しむのもまた、山藍風花としか出来ない遊びだと、俺は思うのだった。





 例えばこれはまだ序章。

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