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選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第2章 知れば知るほど、愛おしくなるモノ
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8-4. 矢継ぎ早に届く声が


 外は暗くなり、ダイナーシースルーの前の道は、家路を急ぐヘッドライトをつけた車が次々と過ぎ去っていく。


 フィッシュ&チップスを食べ終え、2人はコーヒーを飲み干すと、どちらが端数を払うかで一頻り(ひとしきり)揉めた後店を出た。


 「私が誘ったんだから私が払うのが筋でしょ!」


 彼女はジャンケンで決めた結末に未だ文句を言い続ける。


 「俺がジャンケンに勝っただろ。もう終わった終わった」

 彼女の言葉をしっしっと払い除ける


 「こういうのはちゃんとしないとダメなのに」

 素直に奢られておけばいいのに心はそれを良しとしない。


 「お前なあ……」

 そう言葉を続けようと思った時、世界は止まる。点滅していたダイナーシースルーのネオン管は輝き続け、空にただ浮かんだ雲に月は隠れたまま出てこない。浅葱心は唇をツンとさせるいじけた時の癖を出し、俺の左側に立つ。


 今日はないのかと思ってたぜ……


 『次から俺が全部払うからな!』

 

 『次は心が払ってくれ』


 今回、目の前に浮かぶワードはどちらも次に遊ぶときに関わって来る選択肢みたいだ。俺はジャンケンでなんの文句もないんだけどなあ。


 『次から俺が全部払うからな!』

 これは0.0001%の確率で通ってしまった場合、さすがに高校生のお財布には辛いところがあるし、「馬鹿言わないで!」と心の不機嫌に拍車をかけるのは目に見えている。却下。


 『次は心が払ってくれ』

 これは心の機嫌も直り、静かになるだろう。良い。無難だ。好きだ。

 

 こんな選択肢が今後も続いておくれ。俺は儚い思いを天に向ける。

 


 「『次は心が払ってくれ』」


 これで少しは落ち着くだろうと隣を見ると、心は俺を見つめて固まっていた。


 なんなんだよ……まだ文句あるのか。


 「つ、次?」

 彼女はそう言うと目を丸くさせたり泳がせたり忙しない。


 そりゃまた一緒にご飯行くことぐらいあるだろう。今日が最後の晩餐というわけでもあるまい。それよりそのよくわからない目の動きやめて!怖い!


 「お、おう……」

 俺は若干引きながら、今のお前ちょっと見てられないぞ!を言葉のニュアンスで伝えようとがんばってみる。


 「一緒に!?2人で!?」

 俺のニュアンスはまるで伝わらなかった。彼女は視線をしっかり俺の目に向けると、その酷いテンションは加速する。


 「落ち着け。そりゃそうだろ」

 3人で行っても端数を請け負うつもりなのかよ。こっちが申し訳ないわ。


 「……へー、ふーん、ほーん」

 彼女は間が抜けた相槌を打つ。いや、相槌というよりも一人勝手に何かに納得したらしい。


 「まあ、あんたが言うなら仕方ないわね!行ってあげる!」

 やれやれ、困った幼馴染みだ。みたいな顔でそう言うと、心は腕を組みうんうんと頷く。可愛い幼馴染みが居れば仕方ないわよね。とでも言いたそうだな。


 どういう思考回路でその答えに辿り着いたのか皆目見当つかないが、なんか1人でも楽しそうだし、正直もう言い合う体力もないので放置させてもらおう。疲れた。



 「そういえばこの前テレビでやってたんだけどね」

 浅葱心はいつもよりも笑顔3割増しでまた話し始める。ようやくいつものテンポに戻り、俺はホッと安堵の息を漏らす。



 10分も歩かないうちに、2人の家の前に着く。


 「今日はありがとう」


 浅葱心はカバンをぶらぶらさせながら、その笑顔は一切衰えることがない。


 「おう」


 彼女はふーっと息を吐き出す。


 「ま、また、行こうね……」


 彼女はどもり、言葉を宙に泳がせながら、徐々に顔を赤くしていく。彼女は空気感に耐えられなかったのか、矢継ぎ早に言葉を続ける。


 「ああもう!それじゃまた明日!おやすみ!」


 彼女はそう言い残すと、走って家に入っていく。庭のゴンタロウは嬉しそうにご主人の帰宅に踊る。



 「またな。おやすみ」

 

 去って行く背中に声をかけながら、たまには早く起きてゆっくり心と学校行くか……と珍しく彼女に報いてみようかな。という気持ちを俺は抱く。



 底抜けにお人好しの世話好きで、名前の通り心優しい近しい友に、俺は怒涛の日常の中、一時の安心感を得るのだった。







 矢継ぎ早に届く声が。

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