8-3. 昔から知っているからこそ、俺は思い出す
「はいお待たせ」
コトリ、とお皿に乗ったフィッシュバーガーとエビバーガー、それとコーヒー2杯が置かれる。
いい匂いだ。
「「いただきまーす」」
2人は昔さながら声を合わせバーガーにかぶり付く。
うまい。やはりうまい。ふわふわのフィッシュフライに粗く切られたピクルスが入ったタルタルソース。そして嬉しいのが刻まれたキャベツに掛けられたレモン汁。これが重たい口の中に広がり、あっさり爽やかを演出。永遠に食べられる味になるのだ。
「おいひい!」
心は甘辛ソースを口元の端に付けながらニコニコと大口を開けて食べていく。
「はんたもほやくはへなはいお!」
ごくんと飲み込み「冷めちゃうわよ」と一言付け足す。
山藍に「あなたは、なんでもわかる」と言われたことを思い出した。隣に座る心も不本意だろうが、こいつのことはなんでもわかるのかもしれない。不本意だが……
「この前持久走で小豆ちゃんショートカットしてた」とか「テスト出来た?」とかたわいも無いことを心は笑ったり神妙な面持ちになったり、もうすぐ無くなりそうなエビバーガーにしんみりしたり、喜怒哀楽を顔に出しながら話す。俺はそれに「へー」とか「うん」とか必要最低限の返事で済ます。
もっと反応しなさいよ!などとは言ってこない。これが俺たちの普通なのだ。心が話し、俺が相槌を打つ。テンポは崩れることなく、2人のグルーヴは確かに存在している。
「オーナー!フィッシュ&チップス1つください!あんたもまだ食べられるでしょ?」
バーガーを食べ終えた彼女は、足をぶらぶらさせながら、ふんふんと鼻歌を歌いながら追加注文する。なにが面白いのか楽しそうに。
ここで俺が「楽しそうだな」などと言えば「別に楽しくないわよ!」と返ってくることは容易に想像できる。
俺は捻くれた天邪鬼だが、彼女のそれは天邪鬼とは言わない。極度の照れ屋というか恥ずかしがり屋というか。自分の気持ちを知られるのを兎にも角にも嫌がるのだ。こんなにわかりやすいのに……
そしてその矛先は俺を前にすると特に鋭く尖る。それは気心知れた幼馴染みへの一種の甘えなのかもしれない。少なくとも嫌われてのことではない……と俺は思っている。
俺はその鋭く尖った矛先に対して注意をすることもない。それは彼女の全く意識するところでない、彼女という人間の底から現れる優しさを常日頃から目にしているからだ。
現に今まさに、彼女はフィッシュ&チップスを頼んだわけだが、これは俺が好きだから注文したのだ。もし俺が、フィッシュバーガー食った後にフィッシュフライなんか食うか!という人間だったのなら、彼女はあっさりしたなにか別の品を頼んだに違いない。
「ああ、食べる食べる。ありがとな」
別にお礼を言われようとか誰かに好かれようとか、嫌われたくないという理由で他人に優しくするわけではないこの彼女の本質的な優しさが、俺は大好きであり、また誇らしいのだ。
「別に、私が食べたかっただけよ!」
彼女の返す言葉はもちろんわかっている。それでも俺はお礼を言う。俺はある意味、その鋭く尖った矛先が自分に刺さるのを待っているのかも知れない。
「はい!お待たせ」
オーナーのいつもの決め台詞と同時にフィッシュ&チップスはやって来た。
彼女はご機嫌に口元に笑みを浮かべながら、特になにか言うでもなく、甘辛ソースを俺側、タルタルソースを自分側に置く。
そしてフィッシュフライにタルタルソースを付け齧りつくと、「んー、美味しい!」と飾り気のない、子供のような笑顔を見せる。
してまた、彼女は身近に起きた日常の話をさも楽しげに話し始めるのだった。
昔から知っているからこそ、俺は思い出す。




