表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第2章 知れば知るほど、愛おしくなるモノ
29/54

8-3. 昔から知っているからこそ、俺は思い出す


 「はいお待たせ」


 コトリ、とお皿に乗ったフィッシュバーガーとエビバーガー、それとコーヒー2杯が置かれる。


 いい匂いだ。


 「「いただきまーす」」


 2人は昔さながら声を合わせバーガーにかぶり付く。


 うまい。やはりうまい。ふわふわのフィッシュフライに粗く切られたピクルスが入ったタルタルソース。そして嬉しいのが刻まれたキャベツに掛けられたレモン汁。これが重たい口の中に広がり、あっさり爽やかを演出。永遠に食べられる味になるのだ。


 「おいひい!」


 心は甘辛ソースを口元の端に付けながらニコニコと大口を開けて食べていく。


 「はんたもほやくはへなはいお!」

 ごくんと飲み込み「冷めちゃうわよ」と一言付け足す。


 山藍に「あなたは、なんでもわかる」と言われたことを思い出した。隣に座る心も不本意だろうが、こいつのことはなんでもわかるのかもしれない。不本意だが……


 

 「この前持久走で小豆ちゃんショートカットしてた」とか「テスト出来た?」とかたわいも無いことを心は笑ったり神妙な面持ちになったり、もうすぐ無くなりそうなエビバーガーにしんみりしたり、喜怒哀楽を顔に出しながら話す。俺はそれに「へー」とか「うん」とか必要最低限の返事で済ます。


 もっと反応しなさいよ!などとは言ってこない。これが俺たちの普通なのだ。心が話し、俺が相槌を打つ。テンポは崩れることなく、2人のグルーヴは確かに存在している。


 「オーナー!フィッシュ&チップス1つください!あんたもまだ食べられるでしょ?」

 バーガーを食べ終えた彼女は、足をぶらぶらさせながら、ふんふんと鼻歌を歌いながら追加注文する。なにが面白いのか楽しそうに。


 ここで俺が「楽しそうだな」などと言えば「別に楽しくないわよ!」と返ってくることは容易に想像できる。


 俺は捻くれた天邪鬼だが、彼女のそれは天邪鬼とは言わない。極度の照れ屋というか恥ずかしがり屋というか。自分の気持ちを知られるのを兎にも角にも嫌がるのだ。こんなにわかりやすいのに……

 そしてその矛先は俺を前にすると特に鋭く尖る。それは気心知れた幼馴染みへの一種の甘えなのかもしれない。少なくとも嫌われてのことではない……と俺は思っている。


 俺はその鋭く尖った矛先に対して注意をすることもない。それは彼女の全く意識するところでない、彼女という人間の底から現れる優しさを常日頃から目にしているからだ。

 

 現に今まさに、彼女はフィッシュ&チップスを頼んだわけだが、これは俺が好きだから注文したのだ。もし俺が、フィッシュバーガー食った後にフィッシュフライなんか食うか!という人間だったのなら、彼女はあっさりしたなにか別の品を頼んだに違いない。


 「ああ、食べる食べる。ありがとな」

 

 別にお礼を言われようとか誰かに好かれようとか、嫌われたくないという理由で他人に優しくするわけではないこの彼女の本質的な優しさが、俺は大好きであり、また誇らしいのだ。


 「別に、私が食べたかっただけよ!」

 彼女の返す言葉はもちろんわかっている。それでも俺はお礼を言う。俺はある意味、その鋭く尖った矛先が自分に刺さるのを待っているのかも知れない。



 「はい!お待たせ」

 オーナーのいつもの決め台詞と同時にフィッシュ&チップスはやって来た。


 彼女はご機嫌に口元に笑みを浮かべながら、特になにか言うでもなく、甘辛ソースを俺側、タルタルソースを自分側に置く。


 そしてフィッシュフライにタルタルソースを付け齧りつくと、「んー、美味しい!」と飾り気のない、子供のような笑顔を見せる。

 してまた、彼女は身近に起きた日常の話をさも楽しげに話し始めるのだった。






 昔から知っているからこそ、俺は思い出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ