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選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第2章 知れば知るほど、愛おしくなるモノ
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8-2. 静寂は時になによりも共感させる


 さわさわと、木々は心地良さそうに葉を揺らす。小学生たちは公園の小道を走り抜け、その幼い間の短い時間を存分に謳歌する。


 浅葱心は、やっぱり子供はそうでなくちゃ!とにこやかに見つめる。


 「子供好きだよなあ」

 昔から街に出れば迷子の子を案内したり、電車で泣いている赤ん坊に変顔をしてあやしてみたり。浅葱心という人間は底抜けにお人好しの世話好きだ。


 「子供に笑顔のない世界に未来はないのよ!」


 「お前は老人か。達観しすぎだろ」


 ただ、彼女は明日世界が終わるとしても、泣いている子供がいたら駆け寄るに違いない。そういう人間なのだ。


 「うるさいわねえ!赤ちゃんは泣けば泣くほどいいし、子供はうるさければうるさいほどいいのよ!」


 よくわからない極端理論を展開し、ツンと唇を尖らせる。そんなことはないと思うが……なんでこいつが司令塔なんて出来てたんだろう。まるで信じられん。


 俺は、へーへーと適当に返事をし、気になっていたことを聞く。


 「なんでわざわざ待ち合わせにしたの?」


 学校から直接行った方が手っ取り早いだろうに。


 彼女はわざわざ聞かれるとは思っていなかった!とわかりやすく身体を固くしてギクッを表現する。


 「別に……?」


 ツンと尖らせた唇をそのままに口笛を吹いて誤魔化そうとするが、それもスースーと息だけ漏れ出て吹けていない。


 「その古い芸人シリーズやめろよ!」


 「そんなのしてないわよ!」


 2人で歩きながらグヌヌ!しているとすれ違った小学生に笑われる。


 

 俺たち、なにやってんだろ。

 


 「はあ……別に。ただ、あんた雨衣会長と、その、遊びに行ったんでしょ?」


 彼女はため息を吐き出すと、顔をこちらから背け、ボソボソ話し始めた。


 絢愛先輩と撫子と2回目の映画を観に行った休日、俺の家に来た心は母親から俺が出かけたと聞かされたらしい。月曜日の朝迎えに来た心はどこに行ったの?1人で?と順々に質問してくるので、俺は特に隠すこともせず話したのだ。

 そこまで思い出した俺は理解した。


 「遊びたいならそう言えばいいのに」

 俺たちの仲じゃないか。俺が慈しみの微笑みをまだ顔を背けている浅葱心の後頭部に向けていると、顔をこちらに勢いよく向ける。口元を「い」とか「あ」とか色々動かすが、その言葉は声にならない。


 「はぁ!?言えるわけないでしょ!?」


 ついに言葉を探り当てた彼女は、顔を赤くさせながら言い放つ。


 なんで言えねんだよ。そしてなにをそんな、息を切らして肩を上下させるまで怒ってんだよ……読めない。


 「悪かったよ。怒るなよ」

 隣にいる彼女の頭を2回ぽんぽんと叩く。


 「怒ってないから触らないで」

 彼女は俺の手を払い除ける。



 昔はこれで機嫌が直ったのになあと考えながらも、彼女も大人になったのだと微笑ましい。


 

 悪かった。怒ってないって。を繰り返しながら、俺たちはようやく店に到着する。


 ダイナーシースルー。店名は兎にも角、アメリカンなレトロポップな色調で雰囲気がある。チェーン店のハンバーガー屋とは一線を画す本格的に焼かれたビーフパテと、少々固めで歯応えのある自家製バンズは絶品だ。少々お高いけれど。


 店内に入ると、光るジュークボックスからエルヴィスプレスリー。近所のおっさんがお金を入れて回したらしい。


 俺たちはカウンターに並んで座り、注文をする。


 「タルタルフィッシュバーガーとコーヒーください」

 もちろんここの店のオススメはハンバーガーだ。


 「あんたも変わらないわねえ」

 幼馴染ゆえに昔からの嗜好を完全に把握されているのはなんか恥ずかしい。

 そんな俺を見ながら心はプククと笑う。


 「うるさいなあ……」

 ここのフィッシュバーガーは自家製タルタルソースがたっぷりで美味しいんだよ。タルタルと甘辛ソースで食べるフィッシュアンドチップスも美味しいんだよ。


 「私は甘辛エビバーガーとコーヒー下さい」

 もちろんここのお店のオススメはハンバーガーだ。


 「心さんも変わらないですねー」

 俺はさっきの仕返しとばかりにプククと笑ってやる。


 「うっるさいわね!」

 なんでさっき自分がした行為にこんな高圧的に来れるの?この子ちょっとおかしいんじゃいの?馬鹿じゃないの?

 

 「怒るのは理不尽だぞ!お前が先に言ったろ!?」


 「マネするから悪いのよ!」


 こいつ、悪魔か……


 カウンターで本日2度目のグヌヌをしていると、ダイナーシースルーのオーナー、白い髪、白い髭、丸い眼鏡。ナイスダンディなお爺さんがカウンターの向こうから俺たちに一言。


 「君たちも変わらんね」


 ふぁっふぁっふぁと昔から変わらぬ特徴的な笑い方で、俺たち2人を揶揄う。

 

 幼馴染に嗜好を知られているよりも、昔から自分のことを知っている大人に今なお覚えられている方が、ずっと恥ずかしい。


 2人は赤面し、静かに大人しく料理が出てくるのを待つのだった。








 静寂は時になによりも共感させる。

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