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選択肢の見える世界で俺は今日も無難な答えを探している  作者: 筑前 煮太朗
第2章 知れば知るほど、愛おしくなるモノ
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6-4. 恋の始まる感触を、あなたは覚えていますか?


 彼女が次に口を開くまでの数秒が、とても長く感じられた。


 まるで選択肢が出たときのように、世界が止まった感覚に陥る。

 しかし、街は相変わらずその身に喧騒を携え(たずさえ)、この間にも俺は何十人とすれ違う。

 付け加え、隣で俺と雨衣会長の顔をキョロキョロと見比べる彼女の姿が、確かにこの世界が今現在動き続けていることを証明し続けていた。


 胸がドキドキする。俺と世界の時間軸は、ぐにゃりと曲がり、ズレ、まるで俺だけが止まっているような、いつもとは逆転した不思議な感覚。

 早く何か言ってください!と思う反面、もう少し、この高揚感を味わっていたいとも思っていた。


 しかし、その時は必ずやってくる。


 「もう、お気持ちだけで、大丈夫です……嬉しいです」


 ゆっくりと、リップでテラテラと控えめに光る薄い唇は動き、潤んだ瞳をこちらに向けると、雨衣会長は小さな声で、そう返してくれた


 「仲直りー!握手!握手!」


 ミニ衣ちゃんは嬉しそうに2人と繋いでいた手を離し、前方にスキップして飛び跳ねると、仲直りの握手を求めてくる。

 子供ゆえの無邪気さを前面に出されると、どうも断りにくい……雨衣会長も同じなのか、2人とも今まで小さな彼女と繋いでいた方の手を、握り合った。



 「……それ握手?」

 ミニ衣ちゃんは2人の手の行く末を見届けた後、ふと思ったことを口にする。


 「「あ、」」


 握手というのは、右手なら右手、左手なら左手をお互いに出し合わなければ成立しない。

 ミニ衣ちゃんと手を繋いでいた時間があったからか、なんの違和感もなく俺は左手を、彼女は右手を差し出してしまった。

 そう、これは、握手では、ない。ただ、手を、繋いでいるだけだ……


 2人のシナプスは同じ結論に結び付けられ、勢いよくバッと手を離す。

 


 「ひあっ!す、すみません!」

 「ご、ごめんなさいごめんなさい!」


 2人はついに立ち止まり、お互い頭を下げ合う。

 ミニ衣ちゃんは大人が目の前で変なことをしてるのが愉快だったのか、ケタケタと屈託のない笑顔を見せる。

 

 「デートやるよー!」


 右左、両の手を繋ぎ直すと、ミニ衣ちゃんは顔を赤らめた2人を引っ張っていく。

 自分が場を混乱に陥れていることなど、ついぞ自覚することもなく。

 


 ――――――――――――――――――



 5月の晴れた春。少し冷たい、それでも心地のいい風を街の中で感じる。

 きっと、冷たく感じるのは私の顔が火照っているせいだ。

 彼が服を褒めてくれた。彼が私を可愛いと言った。彼もデートだと思ってくれていた。

 ただそれだけで、もう今日が終わってしまっても構わなかった。私は嬉しくて、嬉しくて、堪らない。


 彼と私の間に居る、小さな女の子のポニーテールが揺れる。

 彼は穏やかな笑みを浮かべながら、彼女の話をよく聞き、頷き、時に意見する。

 まだ小さい彼女には難しいと思う、普通ならそう考えることも、彼は気にせず口に出す。彼女はわからないながらも、難しい単語の意味を聞きながら、彼の意見を真剣な表情で紐解いていく。また、彼はそれを嬉しそうな、愛おしそうな顔で眺める。

 少し、嫉妬する。


 子供を子供と思わず、小さくても大きくても、みんな1人の人間に違いない。そう言わんばかりに、彼は小さな女の子と真摯に向き合う。適当に遇らう(あしらう)ことなんてしない。だからきっと、小さい女の子も真剣に向き合うのだ。



 そんな彼が、私は好きだ。


 ああ、そうか。これを、恋って言うんだ。



 私は今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じながらも、心の奥底にほんの小さな、ちくり、とした感触が同時に芽生えたことに首を傾げる。


 これは嫉妬、ではなさそうだ。


 でもそんなこと、きっと今は考えなくていい。答えの出ない感触に気を取られていないで、今この時を楽しもう。

 私は、楽しみたい。



 折角、好きな人が近くにいるのだから。

 






 長いプロローグを経て、ようやくデートは動き始めるのだった。




 恋の始まる感触を、あなたは覚えていますか?

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