6-3. プリーズ・ヘルプ・ミー
煌く太陽の下、彼女は頭からプシューと煙でも出そうな程、顔を真っ赤にさせる。
この世にもう1つ太陽があっても良い。それが彼女だったならば、尚良い。
「あ、ありがとうございます……」
ごにょごにょごにょと、段々と語尾が弱く小さくなっていく。デクレッシェンドの音楽記号が目に見えるようだ。
それと同時に、恥ずかしさのせいで周りが見えなくなったのか、彼女の歩くペースはかなり遅くなった。
もはやミニ衣ちゃんに手を引かれている状態だ。
左腕が重くなったのに違和感が出たのか、どうしたの?大丈夫?と言わんばかりにミニ衣ちゃんは雨衣会長を下から覗き込む。
従姉妹のお姉さんが顔を真っ赤にして動揺し、なにか困っていることだけは理解できたのか、ミニ衣ちゃんは俺に対してフォローを入れようと話し始めた。
「あのね、絢愛ちゃんね!今日はデートだからっていっぱいお洋服着てたし、それにそれに、あとお化粧してた!かわいいって言ってくれるかなってフガッ」
なんのフォローにもならないどころか、止めを刺しに行ったミニ衣ちゃんは、もう今にも泣き出しそうな雨衣会長に口を手で塞がれ強制終了させられた。
「で、デートっていうのはね!あの、その、ああ、もう……」
俺がデートの方を選択していたらこんな反応だったのか……これは、罪悪感が勝っちゃうやつだな。危なかった。いや、もうアウトだけど。
例えデートを誤魔化せたとしても、沢山の服を試着したこと、普段していない化粧をしたこと、その全てをカバーすることは不可能。
もう既にいっぱいいっぱいだったところに落とされた最後の爆弾は、彼女の心を粉砕するのに充分過ぎる火薬量だった。
「ンー!ンーンー!!」
口を塞ぐ手に凄い力が入っているのだろう。呻くミニ衣ちゃんの顔色が悪くなり始めた。
「あの、会長、従姉妹さんが死んでしまいます……」
半泣きの会長はもう返事をすることもなく、力なくミニ衣ちゃんの口から手を離した。
死ぬかと思った!と目をパチパチさせるミニ衣ちゃんは懲りずに口を開く。
「お兄ちゃんもちゃんと言って!!」
矛先を俺に変えて。
うっ、でもこのまま会長だけに恥ずかしい思いをさせていても、なにも好転しなさそうなのは確かだ。仕方ない。旅は道連れ恥はかき捨て。全然かき捨てじゃないですけどね。
「あー、その雨衣会長……実は俺も、デートだったら良いなあとか思ってました。」
開始早々、俺はこの羞恥の大きさを舐めていたことを認めねばならなかった。
言葉もあるが、街中ゆえに周りに人が多く居るのも辛い。人混みの中で指輪を渡したりする人がいるけど精神力バケモノか?素直に尊敬できる。今なら。
頑張れ俺!自分で自分を鼓舞し、続けて雨衣会長に伝えていく。
「それにその、シャツワンピースですけど、大人らしいのに可愛らしさもあって、凄い雨衣会長っぽくて本当に似合ってます。その……可愛い、です」
顔が熱い。心臓の鼓動が早い。手が汗ばむ。倒れるかもしれない。
俺は今まで、もしかしたら、ほんの少し、言葉を強制的に決められる選択肢に助けられていたのかもしれない。悔しいが。
全て自分の言葉で、向かい合う相手に本音を言うのは、なんて怖いことだろう。
未だ返事をすることなく俯いたままの雨衣会長に、俺は生唾を飲みながらその時を待つしか出来ないのだった。
プリーズ・ヘルプ・ミー。




