6-1. 君さえいれば特別な休日
なにかしようと前日に思えば思うほど、休日は怠惰に過ぎ去っていく。そんな気がする。
山藍に出会った月曜日からの1週間を終え、今日は雲1つとない晴天の土曜日となった。
5月に入り、季節はもう冬の余韻の欠片もない。
時間は朝9時30分。休日にしては早い起床だ。
テレビからは、「今年の5月は例年よりも暖かくなり、過ごしやすいでしょう」と春の目覚めをお知らせする一報が、各家庭に届けられている。
まあすぐに梅雨が来るんだろうけど……
それはさて置き、なぜ休日にこんなに早く目を覚ましているかと言うと、デートと呼ぶにはまだ早いだろう。何はともあれ、俺は今日、雨衣会長とお出かけするのだ。
ピロリンと携帯がメッセージを受信したことを伝える。
〈申し訳ございません!5分ほどお待たせするかもしれません……〉
土下座絵文字がペコペコと頭を下げている。
〈お気になさらず、ゆっくり来てください〉
俺はザ・スマートに返信を送り、財布を持つと玄関を開けた。
太陽がサンサンと降り注ぐ今の天気と同じぐらい、今日が素晴らしくご機嫌な日になりますように。と祈りながら、外に飛び出すのだった。
場所は最寄駅から5つは先にある栄えた街の大きな駅。10時に遅れるかもしれないと聞いたが、それでもギリギリに着くのはなんだか気が落ち着かなかったので、少し余裕を持って5分前に到着した。
現在の時刻は10時3分。なんか、緊張してきた。
スキニーにTシャツその上にコーチジャケットを羽織るという楽&無難な格好をしてきたが、大丈夫だったろうか。テーラードジャケットとかそういうカチッとした服装の方が、雨衣会長の横に居るのに相応しかったか?
考えてなかったけど、雨衣会長も今日は私服なんだよな。どんな姿で来るんだろう。かわいい系か?背伸びして綺麗系か?それはそれでかわいいかもしれない。
早く来ないかな……なんか1人で居ると逆に心臓に悪い気がしてきた。
1人でモゾモゾ考え込んでいると、ジャケットの裾をちょんちょんと引っ張られる。
来たか!!
急いで引っ張られた方を見るが、そこには誰も居ない。
んん?
あれ?と目線を下げる。
そこには肩甲骨辺りまで伸びた栗色の髪をポニーテールにし、かわいらしいワンピースを着た、くりくりの瞳で俺を見上げる130cmぐらいしか身長のない雨衣会長が、右手で俺のジャケットを握っていた。
「雨衣会長が、雨衣会長が、縮んだ……」
「違いますよ!!」
小さい雨衣会長の後ろから息を切らしながら走ってきた大きい雨衣会長は、俺の言葉を瞬時に否定する。
「遅れてすみませんでした!それに、あの、従姉妹が……その、どうしてもって聞かなくて、あの、本当にごめんなさい!ごめんなさい!」
雨衣会長はミニ衣会長の左手を捕まえ、今やもう懐かしく感じる土下座絵文字のようにペコペコと頭を下げ続けている。
なーに、今日はただのお出かけ、デートじゃないからなんの問題もない。デートじゃ、ないから……うん。そう大丈夫。大丈夫ですよ、雨衣会長……
俺はジャケットを握り続けるミニ衣会長の頭を撫でると、小さな彼女は安心したように、にへらと溶けた表情を俺たちに見せるのだった。
君さえいれば特別な休日。




